詩集「孤独の詩」

口十

孤独の詩

 春の吹雪を忘れた頃、色を失う

 微塵も覚えなかった美しさも

 芽吹きと共に見えた命の輝きも


 夏の流汗を忘れた頃、肌を失う

 彼等彼女等の流した涙の海も

 一人として欠けてはいけなかった寂莫せきばく


 秋の落葉を忘れた頃、耳を失う

 蟋蟀こおろぎを愛しく思う凡ても、また怒りも

 こいねがった愛情も、等しく想った蝶すらも


 冬の静謐を忘れた頃、想を失う

 学舎まなびやの土も、無限に知った有限も

 大人しく暴れた情緒や覚悟さえも


 雪の色を見る事なく、亦静謐さを感じることもなく

 落葉に想いを馳せず、流れを聞くこともない


 それが屹度きっと大人になるということだから

 それが諦めだと判っていても

 子供を許さない箱庭は今日も正解を歩む

 だから誰も異を唱えない


 これは子供でいられなかった、大人になれない淋しいうた

 集合になれなかった孤独な詩

 だから詠う。詠い続けられる

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