第30話 流動食 side 西宮 麗奈
今日は東堂さんとデートをする日。
昼前からの合流で一緒に昼ごはんを食べる予定となっている。
私の希望でワクドナルドデビューする事になった。
その他にもチャットで今日の予定について色々な説明を貰ったが、大体は面倒だったので見ていない。
まぁ、東堂さんならなんとかしてくれるだろう。
集合時間より少し遅れて着いた私が送迎車から降りると、発着場では既に東堂さんが待っていた。
私を見つけた彼女は私の姿を見て息を呑む。
「待たせたわね、行きましょう」
「れ、麗奈。凄く……凄く綺麗なんだけど……」
「?」
「そのドレスでファーストフードはちょっと……」
私はバーガンディーのドレスを翻す。
お気に入りのドレスだったのだがお気に召さなかったらしい。
「ドレス以外の私服は部屋着か体操服しかないわ」
「体操服は私服じゃないよ!? ……お腹の方が大丈夫なら服から買いに行こうか?」
「えぇ、構わないわ」
「じゃあ、行こうか麗奈」
そう言うと彼女は自然な形で私の手を取りエスコートする。
流石はラブコメ主人公を極めた女である。
ガチレズハーレムを目指す私は彼女のムーブを見習うべきかもしれない。
***
元々、目的地だったらしい商業施設に入る。
衣料品コーナーとでも言うのだろうか、そこには普段私が着ないような服がたくさんあった。
「麗奈の希望とかはある?」
私はふと目に留まったTシャツを取る。
胸元に大きく『巨乳』とだけ書いてあった。
「ダs……いや、麗奈には似合うと思うけど、別のにしようか」
やんわり返されるTシャツを名残惜しい気持ちで見届ける。
次に手に取った服は胸元だけ大きく空いたニットのワンピースだった。
谷間だけ空いているこの服はいったいどういう構造なのだろう。
「エr……いや、見てみたい気はするけど、別のにしようか」
またもや、謎ワンピはやんわりと返される。
「面倒くさいわね。もうあなたが私を仕立て上げなさい」
「分かったよ。無難に出掛けられる服を選ぶから」
そう言って、彼女に連れられて何件か回って服を着替えた。
選ばれたのは、ゆったりとしたベージュの七分袖ブラウスとワインレッドのジャンパースカートなるものだった。
驚くくらいにしっくりとくる服装を姿見で確認した私は彼女の腕に舌を巻く。
「ホントは足元も変えたいけど、とりあえずはファーストフードならこれで行けそうだね」
「……あなた、普段からこんな事をして女性をとっかえひっかえしているの?」
「誤解だよ! ……時々誘われて、……たまに一緒に出掛けて、……たまたまそういう機会もあっただけだよ」
偶然が多い女である。
下準備も出来たところで遂に私達はワクドナルドへ向かう事になった。
東堂さんはしれっと片手に私の荷物を持ち、もう片方の手で私の手を繋ぎエスコートする。
わちゃわちゃとした店内に入った後も、
「この席にしようか」
座席を見つけた東堂さんは自然と私の椅子を引いて着席を待つ。
彼女はイギリス人の血でも流れているのだろうか。
対面の彼女は隣の席へ荷物を置く。
「注文したいものとかある?」
「今回もあなたのおススメでいいわ。私を満足させてみせなさい」
「ふふっ……。かしこまりました。お嬢様の仰せのままに」
すると彼女は注文を取る前に何処かへ行ってしまった。
まぁ、彼女なりの考えあっての事だろう。
サプライズがあった時の為に驚く準備はしておいてあげましょうか。
「お待たせ。注文を持ってきたよ」
「……あなたまさか、ここの店員なの!?」
しばらく待つと何故か彼女が料理を運んできた。
「……?? あぁ、そうか。こういう店では注文は自分で取りに行くんだよ」
「お金を払っているのに!?」
「プッ…ククッ……まぁ、そうだね」
私の反応が面白かったのか彼女は笑いを堪える。
世間知らずを露呈した私の耳が熱くなる。
「まぁまぁ、気にしなくていいと思うよ。さっそく食べようか」
食べ方が分からない私は彼女が食べ始めるのを待つ。
そんな私を一瞥した彼女はポテトを指で掴み口へと運ぶ。
それはゲームでも見たことのあるシーンだった。
私もそれに倣って手でポテトを掴み口に入れる。
「……!」
「どう? 美味しい?」
「香ばしい油と塩の味がするわ」
「率直な感想をありがとう」
不味くはないが、美味しいとも言えなかった。
この場の風情を感じて食べるものなのだろう。
次はこの紙に包まれたハンバーガーだ。
例によってゲームの知識で食べ方の見当はついている。
「これはどのタイミングで食べるものなのかしら?」
「好きなタイミングでいいよ。ポテトを食べながらでも、食べた後でも」
「……食べ方の手本を見せなさい」
なんとなくパンに挟んだ肉の塊に齧りつくという行為に抵抗があった。
苦笑いする彼女は実際に食べて見せる。
ハンバーガーの包装紙で口元を隠しながら。
「ちゃんと見せなさい」
「そんなに見られてると恥ずかしいよ!」
「どうせこの後、あなたも私を舐め回すように視姦するのでしょう?」
「い、言い方!」
私も彼女同様、包装紙で顔を隠しながら少しずつ食べた。
味の方は……、
「……美味しいわ」
「それは良かった。お嬢様の舌に合うようで何よりだよ」
今まで食べた事のない組み合わせだけど、確かに美味しかった。
私は舌鼓を打ちながらハンバーガーを完食する。
「……ふぅ」
ポテトが余った。
「ふふっ……ハンバーガーだけ食べちゃってポテトと睨めっこする子供、よく見掛けるよ」
子供扱いされてムッとなった私は妙案を思いつく。
私はポテトをひとつ掴みそれを口元へと運ぶ。
東堂さんの。
「ほら明里。好き嫌いしないの。あーん、しなさい」
「ゴホッ!! ゴッホ!!」
激しくせき込んだ彼女は顔を真っ赤にする。
どんな料理でも惚れた女の『あーん』ほど最高のスパイスは無いだろう。
「……ぁ、あーん」
意を決して口を開ける彼女にポテトを放り込む。
彼女は頬を赤らめてそれを噛み締めた。
「よくできましたー。えらい♡ えらい♡」
しかし、面倒くさいわね。
このペースで食べさせていたら、半日は掛かる。
私はポテトの箱ごと持つ。
「ほーら、明里。口を開けて上を向きなさい」
「い、いや! それはちょっと……」
「好き嫌いはダメよ。ほら、あーん」
最終的に私は無事、東堂さんの口の中にポテトを全て流し込むことに成功した。
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