第6話本物の怪人
「……だからケンドー仮面たちを殺したと?」
「ん?まあそうかもな。でもな、別に偽ヒーローが殺されても誰も損しないし困らないだろ、それにヒーロー的にもいい話なんじゃないか?無駄な資金の流出が抑えられて本当にサポートを必要とすべき本物のヒーローたちの元に金が回っていくんだからな」
「……」
悪ぶった正義感でもなく、かといってこれといった高尚な信念もなく、ただ自分の行いを正当化するような平坦なトーンで話すブルーに俺はどこか失望していた。
俺は心のどこかでこの異形の存在に、善悪を超越した存在としての理念や目的を期待していたのかもしれない。
「お前は、それで……いや、ここで俺を始末するつもりなのか……」
「しつこいな、殺さないつってるだろ。……そうだな。協力を断られたらお前を本物の怪人にするつもりだった」
「本物の……怪人……」
「ああ……けどな。実際お前に会ってみて考えが変わった。お前は本物のヒーローになりたかったんだろう?」
「……ああ……」
ブルーの言葉に心臓がドクンと脈打つ。もう自分の気持ちに嘘をつくことは出来なかった。
「だが、お前はそういう存在から最も遠いところにいる。どうしてだろうな?」
「…………」
「見ろ」
ブルーは静かに両手を合わせるとゆっくりと左右に広げていく、手のひらの間に青い炎が渦を巻き、灰が飛び交ったかと思うと、それはやがて何かを形成していく。
「……はぁ、はぁ……」
俺は上体を起こしそれを確認しようとしたが途端に激しい頭痛と眩暈が襲い、無様に倒れ込んでしまった。
そんな俺の頭に何かがぶつけられた。あまりにも硬く、そして強くぶつけられたために、その衝撃で脳天まで揺れる。
「おい、何やってんだ。ちゃんと見ろ」
「うぅ……へ、ヘルメット……?」
それはまるで近未来をモチーフにした映画やゲームに出てきそうな無機質で機械的な雰囲気のヘルメットだった。
デザイン的にはアメフトで使用されるヘルメットを踏襲しているが、所々にアンテナやセンサーらしきものが取り付けられている。しかし、多くの箇所に損傷が見られ、破損している箇所もあり、激しい戦闘をくぐり抜けて来たことを物語っていた。
「俺は灰にしたものを収納し、取り出し、そして再現できる力を持っている。どーだ、便利だろう」
「は、灰……」
「灰になったということは、そいつの持ち主は死んだ、というわけだ。お前も知っているはずだ、そのヘルメットの持ち主のことを」
「う……?」
「知らないのか?ジェットセットハットだよ。『本物』のヒーローの一人、ジェットセットハットだ」
「ジェット……セットハット……」
「そう、そのヘルメットは奴の遺品の一つだよ。良い品だろう?高硬度装甲用の7.62ミリ徹甲弾でも耐えうる、鉄壁の装甲だとさ。……ま、結果は見ての通りだがな。ははは」
ブルーは懐かしむようにそう言うと、床に転がったジェットセットハットのヘルメットを手に取ると、俺の鼻先に突き出す。
朱色を基調にカラーリングされ、四枚の羽や星、火のついたタバコのステッカーがぺたぺたと貼られたボロボロのヘルメットは、俺にはどこか寂しそうに見えた。
「はぁ……はぁ……」
俺は生唾を飲み込み、ヘルメットをそっと手に取った。ジェットセットハット、数か月前に失踪した謎多きヒーロー、確かにどこかでその名前を聞いたことがある。
「殺すつもりはなかった。あいつは本物のヒーローだったしな。だが不幸は突然に、何の前触れもなく訪れるもんだ」
ブルーは何かを思い出そうとするようにそう呟いたあと、言葉を続ける。
「思ったより耐熱性能が低かった。あっ……という間もなく、装備を残したまま一瞬で灰になってしまった……。ジェットセットハット。戦闘らしい戦闘にもならず、その最期は誰も知ることもない、本物のヒーローとしてはあまりにも惨めな最期だ」
「……」
「かぶれ」
「えっ!?」
「かぶるんだよ、そのヘルメットを。そしてお前がジェットセットハットとして生きるんだ。お前が生き残る道はそれしかない」
「えっ……」
「えっ、じゃないんだよ。わかるか?え?ジェットセットハットの惨めな最期を帳消しにするんだよ、お前が」
「そ、そんな……」
「さぁ立ち上がるんだ、ジェットセットハット。お前は蘇った。お前は魔人ブルーに焼かれ、その灰の中から不死鳥のごとく復活したんだ。すべては元通りだ」
「い、い、いやでも俺は……」
「じゃあ、どうするんだギガボンバー?このまま裏でコソコソと偽の怪人として生きていくのか?それとも俺の指示に従って本物の怪人になってみるか?お前にも夢を掴むチャンスが訪れたんだぞ。俺に感謝したらどうなんだ」
「でっ、でで、でも、すっ、すぐバレちまうだろ!」
「そこをどうにかするんだよこのぼんくら。偽物をやるのはお手の物だろう?だからやれ。本物のヒーロー、ジェットセットハットの完璧な偽物になってみせろ」
俺がジェットセットハットの偽物に……正直に言うと少しだけ胸が熱くなったが、大昔にちょっとだけ格闘技をかじってて、今は多少腕力に自信があるだけの俺みたいなデブに本物のヒーローの名前を背負って戦えるような強さがあるはずもない。
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