執行
車は、しばらく走ると、目的の場所へと到着した。ソアラは、車のエンジンを切って、寝ているジャハトを起こす。
「おや? 結構長かったな」ジャハトは、あくびをすると、体を伸ばして、ミアの身体を揺さぶる。
ミアが起き上がると、ジャハトはミアの手を握ると、「行こうか」と言いミアの手を引っ張った。ミアは立ち上がると、服を整えた。ジャハトはミアを抱き抱えると、ソアラは車内で待機した。
ジャハトはミアを抱えながら、波打ち際まで歩くと、ミアを下に置き、ミアの頭を優しく撫でた。ミアは、海を見つめていると、ジャハトは、ミアを抱きしめた。
「疲れた……?」
ミアは、ジャハトに顔を向けると、ミア笑顔に返す。「大丈夫だよ」ジャハトは、ミアを離すと、ミアは、海の方へと走り出した。ジャハトは、砂浜で座り込み、遠くを見ていると、ミアは、砂遊びを始める。
山を作ってるのか。
ジャハトは、フッとまた微笑むと、しばらくミアの砂場遊びを眺めた。
数分間眺めていった……。
「出来た! ジャハトさん、完成したよ! 私の自信作、お城!」ミアは、両手を上げて喜んでる。「ああ、凄いじゃないか」ジャハトは、立ち上がると、ミアの城を観察した。城は、とても大きいので完成するのに時間が掛かったようだ。ジャハトは、城の上から海を眺める。「綺麗だな……」ジャハトは、海を眺めながらそう言うと、ミアは、ジャハトの横に立ち、ジャハトの肩に頭を擦り付けた。「私ね、この景色大好きなんだ。昔からずっとこの景色を見てるとつらい時、楽しかった時、いつもこの景色見て、頑張ろうって思えるの」ジャハトは、ミアの言葉を聞くと、ミアの頭に手を置いた。
何も言えなかった……。こんな最愛な人が銃弾のように散っていくのがとても心苦しいかった。「ジャハトさん、今日はありがとうございます。この景色を見せて貰えて本当に嬉しかったです」ミアは、ジャハトから離れると、無線からソアラの声が聞こえた。
「ジャハト、あと何分で終わるの?」
「そうだな、もうすぐ終わる」
「分かった。じゃあ、外で待ってる」
「了解」
ジャハトは、ソアラに返事をすると、無線を切った。
ミアは、ジャハトが通信を切るのを確認すると、ジャハトの袖を掴んだ。
ジャハトは、ミアの方を向くと、ミアは、何か言いたげな顔をしていた。
ジャハトは何かを思い出し、仮面とフードを外した。
「その、ありがとうのキスしていいですか? ジャハトさん」ジャハトは、首を縦に振ると、ミアは、ジャハトの頬に軽く唇を付けた。
「ありがとうございます。ジャハトさん」
ジャハトは、微笑み返した……。「ミア。海と遊びなさい」
ミアは、無表情で俯き、ジャハトから離れ、海の方へとゆっくり向かうと照準をミアの頭に狙いを付ける。「ジャハトさん。私に勇気を下さったお礼がしたいのですが」ミアは、歩きながら最後の言葉のように語った。
「今まで出会った中であなたが一番素敵な人です。一緒に生活したり仕事が出来たり、お風呂に入ったりご飯を食べさせてくれたり、遊んでくれたりした事は一生忘れません。だからジャハトさんも私が居なくなっても絶対に泣かないで下さい」ジャハトの身体中が震え始め、視界も歪んできた。
「あれ? 私も泣いてきそうですね。ジャハトさん、泣いてないですよね?」
「そんなことは……ないよ……」
ジャハトの唇と声が震えている。
「そうですか。良かったです。あ、最後に伝えたい事があります……私の手紙に書いてましたけど……」
ミアが泣く声が聞こえ、ポケットから手紙を取り出し、手紙を胸に当てた。ジャハトの目からも大粒の涙が流れた。
「ジャハト、今までお世話になりました。とても大好きです!」銃口から煙が出て、ミアは脳天に名地し、倒れると地面に崩れ落ち、頭の傷口から出た黒い血液が噴水の様に流れ、地面は、真っ赤に染まっていった。
ジャハトの呼吸が激しくなり、過呼吸気味になっていると、ジャハトは、倒れてるミアの側まで行き、横になったミアを仰向けにした。ミアは息を引き取っていた。ジャハトの頭の中で走馬灯のようにミアとの思い出が再生され、悲しみや憎しみ、苦しみなどの感情が入り混じり、ジャハトは、その場で膝を地面に付いた。「お、おい! ミア! まだ生きてるよな?」
髪を掻き上げるとそれは涙を流し、嬉しそうに笑っていて「私を驚かせようとしてるだけだよな!?」顔を見ると目は閉じていて、口は少し開いていた。ミアの脈を測ったが動いていなかった。ジャハトは、もはや笑うことしか出来なかった。
「ハハハッ、ハァッ……」
経ったの数秒で止まり、目の前の現実を受け入れられなかった。「嘘だろ……うっ、くそ」ジャハトは手紙を回収し、砂場に埋葬をして、ミアの手を優しく握るとジャハトの頬から涙が流れ落ちた。
「くそ、泣かないって言ってたのに、もうダメだ」ジャハトは、目を手に当てもらい泣きをした、何度も自分の足を殴り続けた。
その後、車に戻り、後部座席に座った。
「お疲れ様、あの時何があったの? 教えて?」ソアラは、運転席からジャハトを見た。「ミアが死んだ」「え? 誰が死んだの? ミアちゃんの事? ねぇ?」ソアラは運転をしながら、ジャハトの方を向いて聞いたが、「運転に集中しなさい」と言った。
「うん、ごめん」
「ジャハト、どうしたの?」
「すまん、その話はアルの部屋に行ってから話してくれ」ジャハトは顔を伏せながら言った。
「うん、分かった」アルはハンドルを持ち直し、車を動かし始めた。ジャハトはアルの運転している姿を見るだけで悲しくなってきた。
ミアの手紙が気になり、中身を開けてみると、手紙には、今までの日常と感謝が書いてあった。
と言う文面だった。「なんで、こんなに長いんだ? 君はいつも短かっただろ?」ジャハトはまた目に溜まる涙を抑え、鼻を擦った。ジャハトは窓の外の空を見て呟いた。
【小鳥遊 深空、16歳。この手紙を読んでくれてありがとう。私の人生はとても短い物でしたが楽しかったです。ジャハトさんと出会う前はハッカーとして色々な依頼を受けたり、悪戯をしてきたので普通の女の子の生活を知らなかったので、つまらない毎日を送っていました。ジャハトさんが居なければ私は今頃死んでいたでしょう。本当にジャハトさんは命の恩人です。最初出会った時、私の事を助けてくれましたよね。あの時の事は今でも鮮明に覚えています。ジャハトさんと出会ってからは毎日が楽しくて、生きる事が辛いと思っていたけど、ジャハトさんのおかげで今は幸せでいっぱいです。楽しい日常や美味しいご飯を食べさせて貰えて、寝る場所も用意して頂き、とても助かりました。そして、何より、落ち込んだ時に励ましてくれる優しい所が大好きで、ジャハトさんと過ごす時間が私にとってはかけがえのない時間なのです。また美味しい料理を作ってくれる約束を守って下さいね。あともう一つ。私は手紙書きながら泣いてるので、紙がシワシワになっちゃったからごめんなさい。
でも、これだけ伝えたいのです。私はジャハトさんの事を愛しています。あなたと会えた事で私の人生は大きく変わり、これからの人生をジャハトさんと一緒に過ごしていきたいと思っています。だからジャハトさんには長生きして欲しいです。それと最後に1回でいいので、私とキスをしましょう。お願いします】
施設に着き、ジャハトは手紙の内容を見ると笑ってしまった。裏を捲るとまだ続きがあった。
【でも私が死んだら悲しいと思うので、その時は私の為に沢山泣いてください。それから、私が死んでしまった後に他の人と仲良くするのは絶対にやめてください。
これは命令です! 破った場合は一生口を聞いてあげません! もし破らないのであれば私とジャハトさんだけの特別な日、2月14日に会いに来て下さい! でも、ジャハトさんが幸せと思うなら無理強いはさせたくないです。なんか会いたくなってきた。何時間も手紙で書くと疲れてきますね。でも、最後の事で伝えたいことがあります。本当の私はハッカーで、犯罪者だからきっとジャハトさんの邪魔になっています。もし、私が電脳世界でハッカーとバレたら死ぬ前に私一緒に別れて欲しいと思います。どうかお願い致します。私を愛しているのならば一緒に居てください。それではまた会う日までさようなら、大好きなジャハトさんへ】
アルソアラがこの手紙を見るとジャハトの方を見た。二人は涙を流していた。ソアラの目からも大量の涙が流れた。
「ミア……君という子は本当に……」ジャハトが言うと、ソアラは「ジャハトはもうミアちゃんの事は好きじゃないの?」と質問をした。「嫌いだ……」「何でそんなこと言うの!?」ソアラさ怒鳴るとジャハトはアルの部屋に出て行き、バーカウンターに向かった。
「やぁ、レイラ。元気か?」
ジャハトはウイスキーの水割りを飲みながら言った。
「あぁ、ジャハトじゃないか」
コップを洗ってる最中に気付き、手を拭いてこちらに来る。
「どうしたのジャハト」
「少し話があってな」
「そういえば今日はバレンタインだったわね。チョコ作ったの」
「チョコ?」
「そうよ、はい」袋を渡すとジャハトはそれを開けて口に放り込む。「ん?甘い」
「チョコレートだよ」
「なるほど」
「ねぇ、ミアちゃんの事好きでしょ」
ジャハトの顔色が変わった。「何故だ?」と言い返すが、動揺しているのが丸わかりだった。「好きなんだ」
ジャハトの表情は固まったままだったが、「違う」と言った。「じゃあ、どうしてミアちゃんはここに来ないの? あなたが来るのを待ってたんでしょ」
「あいつは俺のことなんて待っていないはずだ。ただ、ここでしか俺は存在できない」ジャハトは悲しげに答えた。
「ミアちゃんの手紙の文章を見てるなら、必ず想いは届いてるわ」
「悪いけど、その感動話は好まない主義ですね」
そう言い、煙草を取り出すとレイラが待ったをかけた。「違う違う。この煙草じゃあダメよ」彼女はジャハトの吸っている物とは違う銘柄の箱を渡した。「えっ」ジャハトはその行動が理解できなかった。「この世界には存在しないはずの煙草ですよこれ!」「まぁ細かいことはいいから」レイラが強引に渡してきたため渋々貰うことにした。パッケージを見ると、確かに現実世界には存在しないはずなのに書いてある文字は全て読める。
「『Balloon flower』花言葉は『永遠の友情』『思い出』『優しい感情の共有』ジャハトにぴったりの花ね」ジャハトは煙を吐き「なんでこれが存在するんですかね……」「それは分からない。でも、ミアが電脳世界でこれをジャハトのために買ってくれたことは確かね」
「ハハ、趣味悪いプレゼントだな」
「ミアちゃんの優しさは世界一よ。だからジャハトも優しく接してあげなさい」
「分かった」ジャハトは笑顔で返事をし、「深い香りで上手いな。少し甘すぎる気はするが」と言ってジャハトは一服すると涙を流した。
「やっぱりジャハトも好きなんじゃない。良かったね」
「鬱陶しいくらいの言葉だな」ジャハトは照れ隠しでそっぽを向く。そしてまた、一口吸い、煙を吐いた。
その時、バーカウンターの奥の扉が開いた。
「あ!こんなところにいた!探したんだよ。もう、心配かけてぇ~」「あぁ、すまない」
「何でアルの部屋から出たの? まだ話は終わってないよ?」
ソアラは問い詰めるとレイラは落ち着くように促す。
「まぁまぁ、ジャハトも疲れてるだろうから、まずは休ませよう。本当はそんな気持ちじゃないかもよ?」「あっ……そうだよね。なんかごめんね」
ソアラはバーから出ていった。
「ジャハトはミアを好きになったきっかけとかある?」レイラが質問をするとジャハトは「まぁ、優しさですかね。初めて会った時はかなり警戒されました。あの時は酷かった。今でも鮮明に覚えていますよ。幽霊ですか?って」
「ミアらしいな」「まぁな。でも、まさかハッカーだとは思ってなかったから驚いた。」ジャハトは昔を思い出す。「ハッカーとは知らず、私は彼女に話しかけていたのです。最初は不審者扱いされて大変でしたが」「そこから交流が始まり、お互いのことを深く知るようになり、いつの間にかミアのことばかり考えるようになり、彼女のために生きるようになった」
レイラが何か思いついたようで、「ジャハト、あなたミアのことが好きなんじゃない?」「何故だ?」
「それだよ、それ。その疑問符やめたほうがいいよ。ちゃんと正直に答えて。好きなんでしょ」ジャハトは煙草を消し、火が付いた灰皿に指を置きながら「あぁ、俺はあいつが好きだ。どうしようもないほどな」レイラはジャハトの手を掴もうとする。「おい、触るな」しかしレイラの手は届かず、空を切る。「告白しないの?」「既にしてる。海でのデートの時に」「じゃあ付き合ってるの!?」
「静かにしろ。聞こえるでしょう?」「え?あ、うん、すまない」レイラが黙ると、ジャハトは一服し、煙を吐くと答えた。
「そうだな。このプレゼントを貰ったということはそういうことなんだろう」
煙草を吐くと、ジャハトはミアに感謝を伝えた。
ありがとうな。そしてプレゼントのお返しだ。【Balloon flower】
インファクト第二部完。
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