私も地雷系になりたい!
今日もJuice組のパステルグループは、ファッションの話で盛り上がっていた。
「やっぱり地雷系かわいいー」
「今度さぁ、新しくできた地雷系のセレクトショップ行かない?」
「えー行きたい、どこにあるのー?」
パステルピンクとパステルバイオレットが、次の休日の予定を立てていると
「ねーねー、ここの通販サイトいいよ!」
パステルブルーが声をかけてきた。
「最近流行ってる変な詐欺サイトじゃないよー、まともなところだからちゃんとしたの来たし。最近変な詐欺サイト多いからねー」
「パステルブルーはそういうの見分けるの強いよねー。流石定期テストクラス順位一桁だだわー」
「ちゃんとパステルブルーに聞いてから買えばよかったー、この前詐欺サイトでゴミつかまされたよー」
「パステルイエローは欲求にストレートすぎるんだよー、欲しいと思ったらすぐ買うじゃん」
「そーそ、安物買いの銭失い」
かな。つっこまれて、パステルイエローはちょっとむくれながら、ふと目をとある女子に向けた。
「あれー、ブルーブラックどしたの?」
ブルーブラックと呼ばれた生徒は、緊張で震えていた。
「どしたんどしたん、具合でも悪い? 保健室行く? 確かパステルグリーン保健委員だったよね?」
パステルグリーンは、心配そうな顔をブルーブラックに向けて
「行くなら連れてくよ? 肩支える?」
などと言っていたが、突然ブルーブラックが
「私も…-着たい」
と小声で呟いた。
「……着たい?」
パステルピンクが聞き返すと、ブルーブラックは細々と、しかし確固とした意思を持ってパステルグループに伝えた。
「私も‥…地雷系の服着たい!」
一瞬、何が起きたのかという顔をしているパステルグループにブルーブラックはさらに畳み掛けた
「私、クラスでは地味な優等生みたいに思われてるけど、本当は可愛い服大好きで! でも、キャラじゃないって思われるの怖くて、ずっと私服も地味な格好してたけど……やっぱり地雷系が着たいの! 笑われるかもしれないけど、本気なんだよ……」
ブルーブラックの真剣な声に、ホワイトが真っ先に口を開いた。
「いいじゃない、キャラとかさ、そういうの考えなくて」
周りがみんなキョトンとしている中、ホワイトは堂々と
「てか、地雷系の服ってパステルカラーだけじゃないし。ジャンスカとか紺のもあるじゃない? パステルだけが地雷系着ていいなんて決まりはないでしょ」
最初驚きで固まっていたパステルブルーも、
「そうだよね、誰が何着たって自由だよ。ブルーブラック、絶対メイクしたら映える顔してるし」
その後パステルグループは相次いでブルーブラックに声をかける。
「今度、一緒にセレクトショップ行こうよ! コーデしたげる!」
「あ、じゃあまずうち集合でさ、とりあえず1着貸してメイクもするから、そんで行こうよ!」
「ブルーブラックちょっと細身だからサイズ合うかなあ?」
「あーそっか、0.38だもんねえ、私ら0.5だからちょっと大きいかなあ」
「先に通販で探しとく? 0.38のもあるよ、ここちゃんと確実だから。どんなの着たい?」
「あえてピンク系とか! ピンクに紺とか可愛くない?」
ブルーブラックはパステルグループの勢いに押されながら
「あ、え、キャラじゃないとか言わないの?」
と少し焦りの表情を見せた。
「着たいって言ったのブルーブラックじゃん! 着たいもの着て何が悪いの? 休日まで優等生キャラする必要ないじゃん」
パステルイエローはそう言い切った。
「……そうだね。私が着たいって言った」
ブルーブラックは決意を固めたように言った
「とりあえずパステルブルー、そのまともなサイト教えて! それで、みんなでどんなの似合うか教えてほしい!」
ブルーブラックがパステルグループの輪に飛び込んだ。
「おっけーおっけー、とりあえず通販で1セット揃えてみてー、それ着てパステルイエローん集合でメイクしよ! したら新しくできたセレクトショップ行こうよ!」
ノリノリのパステルピンクに、パステルグリーンが少し不安げな顔をして呟いた。
「ブルーブラックの家って……厳しかったりしないよね?」
当然の疑問である。
常に優等生を求められているブルーブラックの家が厳しく、地雷系など認められないのではないか、というのは。
それに対しブルーブラックは微笑みを浮かべ
「むしろお母さんは私が地味な服ばかり着てるから、ファッションに興味がないのかって不安がってるくらいなの。17歳にもなってずっと黒っぽいカットソーとスカートばかりで、って」
パステルグループは安堵した。
「んじゃさっきのプランで! あ、サイト教えるからLINE交換してー」
「え、ずるい私も」
「てかグループ作ったらよくない?」
「あ、確かに」
「とりあえず繋がらないことには招待できないから、はいQR」
サクサクと話が進みすぎて少し戸惑いながらもブルーブラックはQRコードを読み取った。
「よーし、これで招待できるー。えっと、グループ名は『可愛いは正義!』で!」
「てかなんで私らずっとグループ作ってなかったん?」
「そういやそうだね‥‥」
「はい細かいことは気にしない、じゃあこのグループで色々相談しよ!」
けってーい、とパステルブルーが宣言し、
「ブルーブラックって寄り道したことある?」
と問いかける。
「え、あ、家にはまっすぐ帰る……[
「じゃあさ、寄り道してこ! なんか最近琥珀糖の自販機あるらしくて気になってるのー」
「え、私わたあめの自販機も見たことある!」
「えーすごい、なんでも自販機あるじゃん!」
「馬刺しはー?」
「それは映えない、あとおいしくなかった」
「パステルイエロー、あんたたべたんかい!」
「えー、なんか美味しそうに見えたからさー。 でも実際すごいしょぼいし美味しくもなかった泣ける」
「そーゆーとこがパステルイエローなんだよなあ…」
ワイワイが始まってしまい呆気に取られているブラックブルーにホワイトが
「んじゃ行こ! あちこち連れ回すから覚悟しててよー」
と軽く手を取り促した。
「あ……うん!」
ブルーブラックも心なしか楽しげにパステルグループとともに教室を出た。
何着たっていいじゃん、好きならさあ。
ホワイトがつぶやき、ブルーブラックが笑った。
なりたい姿になれる。キャラなんて関係ない。
本当は当然のことをみんな知らないふりをして「キャラ」を通し続けている。
そんなこと、本当は無理にしなくてもいい。
彼女たちはそれを教えてくれた。
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