ネクストダンジョン

若葉

プロローグ

迷宮都市ネクスト


この世で最も深いとされるダンジョンがあるその都市は冒険者で溢れていた。


現時点で確認されているのは21層までであり、最深層は確認されていない。


冒険者達は果てを求め、今日もダンジョンへ潜っていく...






----ギルドカウンター----

『おはようございます!本日はどのようなご用件でしょうか?』


「6層攻略したのでカード更新にきました。」


『かしこまりました~!少々お待ちください!』


ギルドの受付嬢はそう言うと奥へ向かった。


俺の名はカステル。

この都市に腐るほどいる冒険者の一人だ。

到達階層は先週で7層に足を踏み入れた。

まだ下層攻略中だが、この調子ならすぐに中層までいけるだろう。

なんせ、冒険者を始めてまだ2年目だ。

周りの奴らからは天才だと噂になってる...らしい。


冒険者として名を馳せるために去年田舎からこの都市にやってきて、毎日ダンジョン攻略の日々だ。


今日も更新を済ませてダンジョンに行く予定だ。この冒険者カードは、簡単に言えば身分証明書ってところか。

自分の到達階層や所属しているギルド、犯罪歴等によってはカードの色なども変わってくる。

この都市で生活していく上では重要なカードだ。特に到達階層はいろんな店等で優遇があったりと、こまめに更新しておいて損は無いだろう。


『お待たせしました~!ではこちらにカードをかざしてくださ~い!』


受付嬢の言うとおりにカードをかざした。

どうやっているのかは詳しくないが、この機械にカードをかざすと勝手に内容を更新してくれるのだ。


『はい、更新終わりました!他に用事はありますか?』


「いえ、特にないです!ありがとうございました!」 


『はい、お気をつけていってらっしゃいませ~!』


こうして、俺は正式に6階層攻略した冒険者となった。カードも心なしか輝いているように見える。到達階層6の文字を見つめながら歩いていると、


 ドンッ


「いってえなぁ...おい!兄ちゃん、何処見て歩いとんねん」


「あっ...その...すいません」


いかにも怖そうな輩にぶつかってしまった。


「あーあー、防具に傷入っとるやん。弁償な?取りあえず10万でええわ、払ってや」


「いや、あの...すいません、ちょっと...」


「あ????ちょっとじゃないねん、はよ出せや。お前の不注意やろ?」 


「すいません...勘弁してください...」


「話にならんわ、向こうで話しよか...おら、早くこいや!!!!」


「うぐっ!?....す..ません...すいません...」


そう怒鳴られながら腹を1発殴られ、床に倒されてしまった。最悪だ...連れて行かれたらボコボコにされるに違いない...周りの奴らも見て見ぬふりをしていやがる...


「おら、倒れてないで早くこいよ...おい!!!!」


「すいません...すいません...」


もはや謝ることしか出来ない。なんとか許して貰うしか...


『おーおー、やってんなあ...』


ふと、近くから別の声が聞こえたので声のした方を振り返る。


「てめぇ...アストか...」

『お、知ってんのか!俺も有名人だなあ』

「ちっ...うぜぇな」


そう言うと男はどこかへ行ってしまった。


『よお、大丈夫か?』

「あ、ありがとうございました...」

『いいってことよ 今度から気をつけろよ』


「あの!お名前は...アストさんで...良かったですかね?」


『おお、アストだ。ちなみに後ろのコイツらがアズとカタリナ...一番後ろのやつがハルな』


「別に私たちの紹介はよかったのでは...?」

「そうそう!余計だよ~!」


アズとカタリナと呼ばれていた人たちが寄ってきていた。


『まあまあ...んじゃ、俺らはこれで!』


そう言ってギルドの方へ歩いていってしまった。


「...アスト...アズとカタリナ......あっ!?あの人達もしかしてSランクの!?」


確か迷宮深層開拓組のパーティーに同じような名前があった気がする。


「やっぱ、オーラが違うな...俺もあの人達と冒険できるくらい強くならなきゃな...」





こうしてカステルという名の少年が後に深層開拓組に合流するのだが...それはまた別のお話。






----アストパーティー----

「やっぱりやっかいごとにクビを突っ込むの良くないですよ。何があるか分かったもんじゃないですし...」


『じゃあカタリナは目の前で倒れてるやつを放っておけと...そういうんだな?』


「いや、そうじゃないんですけど...」

「まあまあいいじゃ~ん。今に始まった事じゃないんだしさ!」

「それはそうなんですけど...」


この光景も見飽きたものである。

お人好しなアストとちょっと堅いことを言うカタリナ、ムードメーカーなアズ。


俺の名前はハル。

アストをリーダーとしたSランクパーティーの...一応仲間だ。


「ハルもそう思うよね~」

「あ、あぁ...そうだな」

「ほら~、だから言ったって仕方ないんだって」

「......そうね」


アズから話を振られ軽く返事だけしておく。


元々アストとカタリナ、俺とアズがパーティーを組んでいて、仮でパーティーを組んで探索をした時に上手くいったのでそのまま成り行きでパーティーを組み始めたのが始まりだった。

その事もあってか、アストとアズとは上手くやれているのだが、カタリナとだけはまだ距離がある気がする。


というのも、恐らくだがカタリナはアストの事が好きなのだろう。アズは...よく分からないが、アストとカタリナとよく休日に出かけていたりもするので仲が悪いってことも無いだろう。


ちょっとだけ疎外感があったりもするので、正直俺はちょっと居心地が悪いなとも思っていたりする。

まあ、嫌われてるわけではないのだけれども。多分。


周りの人からも、腰巾着みたいな感じで見られてるのもあってか最近だとこうして少し離れて歩くことも増えてきた。




どうやらウダウダ考え事をしている間にギルドまで着いたらしい。いつも通りアスト達がカウンターに報告に行ったので俺は適当にその辺の椅子に座って待つことにした。


今日は外のダンジョン探索に行っていたのでその報告とかがあるので少し長引くだろう。



ダンジョンというのも1つだけでなく、世界にいくつも生成されているので色んな場所で探索が行われている。

中でもネクストダンジョン、恐らく世界最大級のこの都市にあるダンジョンを知らない人はいないであろう。


上層、1-9階層は初心者向けの魔物達が多くいるが、特に8層が厄介で別名迷宮とも呼ばれている。

魔物達の質が上がる上にかなり複雑な構造をしているのでこの階層の攻略が中堅の壁となっている。



中層、10-19階層からは一気にレベルが変わってくる。複数のパーティーで連携を取りながらの攻略が必須になっており、中層探索はギルドからの許可と最低8人での探索が義務化されている。

俺達のパーティーが結成されたのもこの8層攻略の時だった。


まあ、勝手に探索に入ったりする人も居るしそういう人はバレたときにギルドから罰を受けたり色々あるので基本的にはしっかりとした準備が必要だ。


そして今俺達冒険者が攻略中の下層、20層からだが、下層攻略はSランクのパーティーのみ参加が可能になっている。

というより現状はほぼ固定メンバーとなっている。


大体40名程度で日程を決めての攻略となっている。というのも、下層攻略のためには1層から下へ降りていく必要もあるため1回の攻略でもかなりの日数がかかる。

また、下層の難易度も現状最高難易度で前回の探索でも結局20層の攻略のみで終わってしまったのだ。

下の階層が何処まであるのかも分からないため、かなりの大型探索となる。入念な準備と連携が攻略の上で必須ということでメンバーもほぼ固定である。


ということで次回の攻略までは各々活動ということになっていたので俺達は折角ならと都市外のダンジョン探索をしていた所だった。



そして、カウンターから帰ってきたアスト達が帰ってきたので合流すると、あまり聞きたくは無いセリフを発せられた。


『次の下層攻略が決まったらしいよ』





今日、地獄の冒険への招待状が届いてしまったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ネクストダンジョン 若葉 @wakana-101

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ