退屈=死! ランキングに入らなければ全員処刑 島流し落ちこぼれクラスが世界を救う《エンタメ総合学園シェヘラザード》

@gfdjse569

第1話入学式

希望に胸をふくらませたカモたちが、料理されるために、煮えたぎる鍋めがけて、よちよち、坂を登ってくるー


そんな風に、純真な少年少女たちが、ピカピカの心と肉体と共に、校門をくぐってやって来た。みんなひどく緊張していて、まともな歩き方を忘れてしまったのか、転んだり、額と額をぶつけあったりしている。


歓迎の式典では、まず校長先生の挨拶があった。


校長先生は男性とも女性ともつかない、美しい人だった。人間ではない。

天使か悪魔だけが持ちうるような、この世のものではない美貌だった。


校長先生が春のそよ風のような花の薫りを漂わせて歩くと、男子生徒女子生徒たちは、

ハエのようにバタバタと失神して倒れた。


壇上に上がるとき、生徒達は胸をときめかせて立ち上がった。その中でも熱心な信者たちが、席を蹴って舞台の下に殺到した。

「WE LOVE!PRINCIPAL!」(校長先生愛してます)と書かれた横断幕を広げている。


「下がれ!下がらんか!厳粛な儀式の場であるぞ!」

血の色の腕章をした生徒会役員が、とがめるように叫び、ホイッスルを吹き鳴らした。


生徒会所属の、重武装警備員たちが続々と現れた。

乱闘が始まった。

段ボールの盾と新聞紙をまるめた警棒で、正気をうしなった信者たちをタコ殴りにしている。

信者のひとりが黒板消しを両手で叩いて、白い煙を立てて、生徒会を攪乱しようとしている。校長先生は、腕を組んで、片手を頬に当てて、優雅な仕草で首をかたむける。


「みんな。おねがい。しずかにして、ね。あとで、ご褒美あげちゃうから。」


「はいい!」信者達は先を争って餌に殺到する鯉の群れのように席に戻りはじめた。


「おりこうさんね。みんな、心から愛してるよ。」

キスを投げる。天国のような、地獄のような味のキス。


ため息のような音が体育館中に立ちこめた。熱狂する信者達が意識を失ったのだ。


校長先生は、席にかしこまっている新入生たちをまっすぐに見据えた。

「今から、あなたたちに自己紹介をしてもらいます。

ただの自己紹介ではありませんよ。ここにいるのは皆、ひとりのエンターテイナーであり、同時に観客でもあります。我々を魅了してください。楽しませてください。わたしたちを、笑わせて、泣かせて下さい。だって、ここは既にステージの上なのですから。」


ひとりの少年が名乗りを上げた。

体育館のトレーニング用のロープにつかまって、にこやかに手を振っている。二階席から雄叫びをあげて飛び降りてきた。ロープは、体育館を縦横にかけめぐった。生徒達は悲鳴をあげながら、頭の上をかすめて飛んで来るその少年を間一髪で避けた。少年は一度バスケットゴールに背中を強打してから、さらにはずみをつけて、反対側の天井近くまでのびあがると、振り子のように一挙に壇上へ急降下した。

少年は華麗に飛び降りて、顔面から壇上に着地した。鼻柱から火花が散った。

少年は立ち上がった。

「矢崎恭一です!俺は、日本一のエンターテイナーになって、故郷のさびれた商店街に、おおぜいの観客を呼び込んで、じじじやばばばを大喜びさせたいです!」

どばどばと流れ出る鼻血もぬぐわずに、矢崎恭一はにっこりと笑った。


矢崎少年は、背負っていた布製の巨大なリュックを地面に下ろした。故郷の名所のステッカーや、寄せ書きや、じじじやばばばたちの祈りをこめた刺繍がところせましと埋め尽くしている。その中に手を入れて、何かを掴み出す。

「それっ!」

色とりどりの餅だ。餅を手摑みで、四方八方にばらまいている。

呆然と見上げる生徒達の額に、餅がバチバチと当たって跳ね返る。


「なるほど。観客の心と胃袋を同時に掴もうというのね。」

リムレスの眼鏡の怜悧そうな女性教師が、クククと笑いながら、

「七輪用意!生徒の真心を、焼いて食うわよ!」

はーい、と上級生たちが七輪と炭の用意を始める。

「うまい!次!」餅を嚙んで長々と伸ばしながら、眼鏡の女性教師が促す。

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