スリープ宝くじで当てられる自信ありますか?

ちびまるフォイ

X年00日の睡眠

「スリープ宝くじに挑戦しますか?」


「はい! そのためにここまで来たんです」


「自信は?」


「ありまくります。

 遅刻するときに、布団から起きた瞬間に自覚するくらい

 自分の睡眠時間を管理できてる自覚ありますから」


「グッド。それではもう一度、スリープ宝くじを説明しますね」


スタッフの映るモニターは説明を続けた。


「これからあなたはスリープに入ります。

 どれだけ寝たのかはわかりません。

 

 で、起きたときに今自分がどれくらい寝たのか答えて

 その日数を当てられれば賞金がもらえます」


「ちなみに、ピタリ完全一致したら?」


「100億円です」


「うおおお!! ますます燃えてきた!!」


「では、ガスを出しますね」


自分が寝ているカプセルにガスが充満していく。

まもなく心地よい眠りへと落ちていった……。




「はっ!」



『起床を確認』


「眠っていたのか。夢すら見なかった……」


『では宝くじチャンス。

 あなたはどれだけ寝ていたでしょう?』


「ここは大事だぞ……」


自分の体の回復具合やお腹のへり具合。

その他もろもろの体調変化を考えて数字をひりだした。


「……1年! 1年寝ていた!!」



『ブブー。不正解です』


「ええ!? 数字かすってもいないの!?」


ピタリ一致してなくても、多少数字がズレても近ければ2等や3等の賞金はもらえる。

なのにそれすらないということは大きくハズレているのだろう。


「教えてくれ。1年より寝たのか? それとも1年未満だったのか?」


『そういった情報を与えるのは公正ではありません。

 またのご利用をお待ちしております』


「待った!! まだ諦められない! 再チャレンジだ!」


『では、ガスを入れます』


再びカプセルにガスが充満していく。

今度はあえてカプセルの中で体をよじって無理な体制で眠りについた。




「はっ!!」


ふたたび目が覚める。

体のあちこちがギシギシと音が鳴るほど痛い。


『では宝くじチャンス。

 あなたはどれだけ寝ていたでしょう?』


「さて、どうするか……」


あえて寝づらい体制にしたのは理由がある。

こんな無茶な体制であれば前回より眠りが浅いのは確実。


しかし問題なのは前回にどれだけ寝たのか。

1年以上寝ていたのか、1年よりも短い時間だったのか。


『回答時間が迫っています。

 カウント、5……4……3』


「よ、よし決めたぞ!! 俺が寝ていたのは……半年だ!!」


前回が1年以上だったのかそうでなかったのかはわからない。

でもあんな体制で半年以上は眠れないだろうと考えた。


答えはーー。




『ブブー。不正解です』



「ああ、もう! なんでだよ! 全然当たらない!!」


ふたたびなんの等賞にもカスらなかった。


「くそう……なんとか当てられる方法はないものか……」


悔しさに顔を沈めたときだった。

ふと、自分の腕に巻かれているスマートウォッチに目がいった。


スリープ宝くじの性質上、時間を測ったりすることは禁止されている。


しかし、この時計では自分の心拍数なども記録している。

あくまで体調管理の記録として、宝くじのチェックを通過していた。


「この時計の1日の心拍数を数えれば、

 もしかして、何日計測したのかわかるかも……!」


自分の1日の心拍回数の平均を調べた。

そして、一度記録をリセットしてまたゼロからカウントするように設定を変更。


これで次に目覚めるとき、自分の累計心拍数をみて数字を逆算すれば

計測開始から何日たったのかがわかるはず。


『スリープ宝くじに挑戦しますか? 諦めますか?』


「諦めるわけ無いだろう! 再チャレンジだ! 次こそ当てる!!」


『では、ガスを入れます』


ちゃんと心拍数がカウントされているのを見てから眠りについた。

今度は絶対に外さない。



「はっ!!!」



眠りから目が覚めた。

すぐに自分の累計心拍数のカウントを確認する。


そこには。


【 00 】


ゼロだけが記録されていた。


「うおおい!! なんで止まってんだよーー!!」


眠りに付く前にちゃんとカウントしているのを確認したのに。

肝心なときにカウントが途中で停止してしまったのかリセットされたのか。


あれやこれやと知恵をしぼったのに、

時計の停止というアクシデントですべて水の泡だ。


「ど、どうしよう……」


時計を当てにしすぎていたので、他の手段は考えていなかった。

完全にノーヒント状態も同然。



『宝くじチャンス。

 あなたはどれだけ寝ていたでしょう?』



「う、うああ……」



『回答時間が迫っています。

 カウント、5……4……3』



「えーーっと、えーーっと……」



『2……。1……』




「れ、れい日!! 0日!! 1日も経過してない!!」


もう頭が回らなくなり、さっき見た数字をそのまま答えてしまった。

結果はーー。





『ピンポーン。正解です! おめでとうございます』



「ええ! 本当に!? やったーー!!」


『3等当選おめでとうございます』



「……3等?」


思い切り喜んだはずが、3等と聞いて一気に冷静になった。


『年数は違っていましたが、日数がピタリ一致していたので3等です』


「なんだ……そうだったのか。で、3等は?」


『1億円です』


「そんなに!? 十分すぎる!!」


3等でも庶民の自分にはあまりに大金。

これなら結果オーライとして自分を納得させられる。


『1億円はカプセルの外に置かれているので、

 お帰りの際にお取りになってください』


「ああわかった。しっかし1億円か……なにに使おうかな」


スリープカプセルを出て1億円を手に入れた。

今ならどんな贅沢だってできちゃうだろう。


スリープ宝くじの外へ出た瞬間だった。



「ど、どこだよ……ここ……」



扉の外では、人間が空を飛んで移動している。

雲の上から逆さまに高層ビルが伸びている。


「お、おおーーい! そこの人! 待ってくれ!!」


「はい?」


空中をローラーブレードで滑走する人をなんとか呼び止めた。


「あ、あの。今はいったい何年なんだ?」


「何年?」


「西暦だよ、西暦。何年の何月何日なんだ?」


「あんた、さっきから何言ってんだ?

 なんだよ西暦って。初めて聞いたわ。

 なんがつなんにち、ってなんの単位?」


「え゛……?」


「今はCLP:61697-5656:f0d0aだよ。

 それにあんた、何持ってるんだい?」


「こ、これか? これは1億円だよ。

 なあ頼むよ。このお金でもっと分かる人を探してきてくれ」


「……いちおくえん?

 そんな紙っきれ、いったい何に使えるんだ?」


そう言うと、男はさっそうと何処かへ去ってしまった。

取り残された俺は紙切れ同然となった1億円を握りしめながら未来都市に叫んだ。



「誰か教えてくれーー! 俺はいったい何年眠ったんだぁぁぁ!!」



その後、この"現金"という古代貨幣の取引で一時代を築くことになれるとは。

未来に絶望したとき当時では考えもしなかった。

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