占星術師 山本恵美子2

 薄暗い空間に、ぼんやりと間接照明の明かりがともる。

 小ぶりな丸いテーブルの向こうに、一人の女性が座っていた。

 薄いベールをかぶり、神秘的な雰囲気でたたずむ。

 ここは占いの館。今日も人生という道を見失った迷い子が訪れる。


 コンコン


 神秘的な部屋にノックの音が響く。


「どうぞ」


 神秘的な返答に、ドアはギーときしみながらゆっくりと開いていく。

 以前、手入れを怠っていたため頑強な抵抗を見せていたドアは、有名なスプレー式潤滑剤によって見違えるようにスムーズに動くようになったが、またしばらく放置していたため元のギギギに戻りつつあった。


 意外と神秘的な雰囲気作りに貢献しているドアのきしみ。

 ゆっくりと開いたそれから現れたのは、どこか沈んだ雰囲気の女性。

 その女性は部屋の何かを見定めるような視線を送りながら、おっかなびっくり歩いてきた。

 神秘的な占い師の目が、その女性をとらえる。


 ――これは……きっとやっかいな相談事ね。


 それまで培ってきた経験と勘が、これからの困難を予感させた。

 何かに囚われたような、そんな女性が、占い師の向かいにある椅子に腰をおろす。

 しばらくの沈黙のうち、女性が口を開いた。


「先生、相談があるんです」


 神秘的な占い師は、手元にある水晶玉に手をかざす。


「全ては星のめぐりのままに。何かしら?」

「私のやってる占いがあたらないんですが、どうしたらいいですか?」

「帰れ」


 帰ってもらった。

 一人残された占い師。その表情には困惑の様子がうかがえた。


「なんなの」


 神秘的な愚痴が部屋にこだました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る