マシンガン大名ー遊郭編ー

 江戸に華開く遊女の街。

 周囲を堀にかこまれ俗世と隔絶した異界。

 銃声響くその名をマシンガン遊郭。

 粋な男女がマシンガン片手に生死の境を行ったり来たり。

「よっ、兄ちゃん! ちょっと遊んでぐあッ!」

 呼び込みは流れ弾に被弾し。

「せ、拙者初めてぐおッ!」

 一見の客はけんもほろろに撃たれる。

 太平の世といえども、途切れる事の無い銃弾は人の命を容易く奪うのだ。



 しかしそれでも人々はそこへ向かう。魅了して止まないものがあるからだ。

 マシンガン遊郭にある一軒の遊女屋。

 そこに一人の花魁がいた。

 その色気は男を狂わせ、その声音は男を魅了し、その銃弾は壁に穴を開けた。

 名を蛇夢じゃむ。遊女屋『打ち止め屋』一番の花魁である。

 狙う者は数知れず、その中には幾人もの大名が居ると噂される。

 しかし、蛇夢の目に映るのはただ一人……。



「蛇夢、平野様がお呼びだよ」

 遣り手の絹がどすんどすんと足音をたてながらあたりにマシンガンを連射、蛇夢の部屋の襖を穴だらけにした。

「はいはい、すぐに行きますヨ」

 蛇夢は桐の箪笥の背後に隠れて応戦。

 二人の間を言葉と銃弾が交差する。

「お殿様だからね、粗相のないようにあぐッ!」

 自由奔放な銃弾は辺り一面をぐあッ!




「やれやれ、面倒臭いネエ」




「早くしな、蛇夢」


「佐助さん……」



「おめえは……仕事をしな……」



「はあ……」

「蛇夢姐さんどうしたの?」



「なんでもないよ。あんた達も仕度しな、茶屋に行くよ」



 ──しばらくお待ちください──




 先程は失礼致した。

 茶屋ではライフル大名、平野ひらの孫左衛門吉安まござえもんよしやすが蛇夢の到着を今か今かと待ち侘びて候。

 平野孫左衛門吉安が構えるセミオートのライフルが丁寧に連射されて被害拡大中也。

「まだで御座るか、まだで御座るか!」

 そこへ茶屋の主人がマシンガン型の徳利を差し出して候。

「もうすぐ参りますので、ささ、まずは一献」

「がッ!」

 お猪口を粉砕した弾丸は辺り構わず待て待たぬかぐおッ!



 兄者ー!!

 兄者の遺志は拙者が継ぐ!

 平野孫左衛門吉安は武運拙く討ち死に!

 空白となった蛇夢との約定。

 今ここに大名達による争奪戦の幕が切って落とされた!

「がははは! この機会、逃す訳にはいかぬな!」

 まず現れたるはバズーカ大名、山中やまなか善右衛門正成ぜんえもんまさなり

 ずしりとした重量感のバズーカがこちらへ狙いを定める!

「がははは発射ー!!」

 今そちらへゆくぞ兄者ー!!



 ──しばらくお待ちください──



 はい、はい……距離をとって、はい。

 ……あっ、ゴホン、えー茶屋は瓦礫の山と化し、山中善右衛門正成は勝ち誇った顔でふんぞり返る。

「がははは! もはや邪魔者は消え去った!」

 高笑いしながら踏み出した一歩目で地面が大爆発。あっぶな。


「うふふ、油断大敵……」

 煙の隙間からぬるりと現れたのは地雷大名、中島なかじま四郎次郎清忠しろうじろうきよただ

「これぞ奥義、極天極地地雷の陣」

 茶屋周辺に埋設された地雷は数知れず。マジかよ。

 その領域に踏み込めば死あるのみ。

 まさに必殺の陣である。

「うふふ、待っててね蛇夢」

 口元を押さえて笑いながら踏み出した一歩目で地面大爆発。

 敵味方の区別なく必殺の陣である。

 助けて。




 爆音轟く空を横切る大きな影。

 眼下の大爆発を見下ろすのは、落下傘大名家の秘中の秘、飛行からくり。

 飛行? 時代考証的にどうなんだ?

「ふ、まさか空から来るとは思うまい」

 落下傘大名、大久保おおくぼ左平次道久さへいじみちひさは腕を組み、四角い窓から瓦礫の山となった元建物に目を向けた。

 周りに控える筋骨隆々の武者達が飛行からくり後部の扉にとりつき、屈強な体からあふれる力を手にこめてゆっくりと開いていく。

 外の風が叩きつけるように吹き込み、江戸時代なのだろう? おかしくないか?

「殿、御武運を……!」

「まかせておけ」

 大久保左平次道久は迷いのない笑顔で大空に飛び出す。

「蛇夢、今行くぞ!」

 空を舞うのは、大名という役割から解き放たれた一人の男。

 その在り方は何よりも孤独で何よりも自由であったが、どう考えても江戸時代にパラシュートは存在しないのでそのまま自由落下。

 飛行からくりもおかしいな。墜落させておこう。

「お主何をしておる! それは自爆装



 ──しばらくお待ちください──



「ククク、愚か。愚か者ども」

 薄い唇に狂気を含ませて笑うのは、ミサイル大名、荒木あらき又右衛門宗清またえもんむねきよ

「至近距離で泥臭く戦うなど愚の骨頂。相手の手が届かぬ所から一方的に屠る事こそ智者の戦いよ」

 荒木又右衛門宗清は豪奢な椅子から立ち上がり、家老の鳥居とりい五郎左衛門ごろうざえもんに向けて鋭い視線を送る。

「燃料の充填はどこまで進んだ?」

「はっ、井出杉いですぎ! 現状の報告をせよ」

 家老の声に応えて、井出杉と呼ばれた武士が立ち上がった。

「報告! 燃料充填553%!」

「ククク、井出杉だけに入れ過ぎだね、ってオイ」

 激しい熱と光が



 ──しばらくお待ちください──



 あ、はい、自分ッスか?

 自分まだ地の文試験に合格してないッス。

 えっ、ああ、じゃあしょうがないッスね。自分、頑張るッス。

 えーと、これ読めばいいッスか? わかったッス。

 ああん、烏賊の吸盤があたしの(検閲削除)をちゅうちゅう吸って(検閲削除)に入り込んでああん、もうだめ(検閲削除)が溢れ



 ──しばらくお待ちください──



 何だったんスか今の。肉棒ぬるぬる先生の新作? まじッスか、後で買うッス。

 こっちの本ッスね。わかったッス。

 えーと、華やかな蛇夢の花魁道中は茶屋へ向かう。凛とした表情で歩く蛇夢の胸中には一つの想いが去来していた。


「蛇夢!」

「佐助さん!」


 なんか向こうで誰か川に飛び込んだって騒いでるッス。心中みたいッスね。

 あ、そうだ続き続き。茶屋についた蛇夢は……え? 終わり?

 何スかこの紙。ああ、これを読むんスね。


 みんな死んだ。


 どういう話なんスか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る