2023/09/04 世界からいなくなるということ
知人が死んだ。
正確には、もう死んでいた、ということを今月に入って知った。
昔の知り合いである。ここ10年は顔を合わせていない。私は先方がどのように生きていたかを薄っすらと知っていたが、相手は私の存在もう忘れていたかもしれない。
別にいい。
知人より友人と称する方が正確な距離感にいたこともある。でもまあ、そんなに仲良しではなかったかな。同級生だ。生まれ年が同じ。同じ授業に顔を出していた。時々一緒に煙草を吸った。手酷い裏切りを受けた。悪趣味だった。悪趣味を美徳としていた。それを崇拝する人間が思いの外多くて、私の美学とは噛み合わなかったので先に線を引いたのは私だ。たぶん。でも10年前の記憶だから、なんとなく美化されてるかもしれない。先方が「大塚は使えない、合わない」と思って切った、という方が正しいかもしれない。これに関してはもうわからない。ただし、裏切りはあった。それに関してはこの先も言い続けていく。いや、誰かに対して「死んだあいつは裏切り者だったんだよ」っていちいち告げ口をしていくという意味ではなく「あんにゃろ、裏切りやがって」「裏切られて呆気に取られる私を見てゲラゲラ笑いやがって」って思い出して個人的に憎しみを募らせる、という意味の言い続けていく、だ。うまい具合に一生忘れられない裏切りをしてくれたよな。クソが。インタビュー読んだけど善人の顔しやがって。嘘じゃん。
ともあれ、死んだ。
死んだということを昨日はずっと噛み砕いていた。
そうかあ、と思った。
死ぬ前に会いたかったなとは思わなかった。会わなくてよかった寧ろ。なんか良い思い出ができてしまったら最悪だ。会わなくて良かった本当に。
追悼文を読んだ。ずいぶんとまあ、褒められて。愛想笑いはできるようになりましたか? 人に媚びる術を身に付けましたか? それはあなたの愛する悪趣味とは違う場所にある行為ではありませんでしたか?
知らねえ。
どうでもいい。
どうでも良くはないのかもしれない。だから日記に書いている。日記はまあ、基本的に、消さない。飽きるまで公開しておく。だから来年の私がこの日記を見たときに「あ、あいつ死んだんか」「裏切られたなぁ」「根本で合わなかったし、やっぱ友人じゃなくて知人だったんだろうな」と思う、かもしれない、ということを想定しながら書いている。
死ぬとどうなるんだろう、と考えていた。
父が死んだ時も妹の親友が死んだ時もそれからTwitterがXじゃなかった頃に言葉を交わした人が死んだ時も考えなかった。死んだらどうなる? どうもならない。終わる。
でも知人が死んで、Netflixでワンピースのドラマ版を3話まで見て、死ぬということは、何もなくなるということだ、と思った。ワンピースドラマの第二期は少なくとも絶対見れない。ええとそれから、この先新しく出る面白い小説や漫画を読むこともできない。今週末公開されるコワすぎの新作映画を見ることもできない。おいしいものも食べられない。あとはなんだろう。猫を撫でられない。好きな人に会うこともない。ずっと好きだった人に会って「ずっと好きでした!」って言うこともできない。
知人の死因は、自死ではない。
ずっと好きだった人にも死なれている。ずっと好きだったのにずっと好きでしたって言う前に死なれてしまって、茫然としていたら、ずっと好きだった人が好きだった人(ややこしい)がその人のことを「今まで出会った中でいちばんカッコいい」人だって言ってくれて、少しだけ魂が救われた。知人に対しても、まあそんなような追悼文が寄せられているのをちょこちょこと見た。だから知人の周りの人たちは救われているんじゃないだろうか。知らんけど。そして私がわざわざ綺麗な思い出を捏造する必要もないよな、と思って今この文章を書いている。
どうも。お久しぶり。覚えてますか。もう忘れたか。それでいいや。あの頃は少しだけ楽しかったね。でも私はあなたとあなたの周りの人たちに搾取されるのがかなり嫌でした。今だから言うね。本当に嫌なやつだったな。嫌いまではいかないけど、あなたが想定していたほど私はあなたを好きじゃなかったです。でも、知り合ってくれてありがとう。裏切ってくれてありがとう。それらの感情は今私の糧となり、私は小説を書いています。父や、妹の友人、それにTwitterで知り合った素敵なあの子にはあの世や、あるなら来世で再会したいけど、あなたに関してだけはもう、ただ、ゼロだなとしか思いません。だからきっと二度と会えないし、コワすぎで言うところの次の世界であなたを見かけたら全力で逃げると思います。繰り返しになりますが、裏切られて傷付いてそれをエンタメとして消費されるのは二度とごめんですんで。この日記を読んでいる人が、私が誰について書いているのかに気付く可能性もまあまああると思います。でも私とあなたのプライバシー保護のために名前は出しません絶対に。そこんとこ、かなりちゃんとしているでしょう? あなたが持っていないデリカシーを私は持っている。ファック。立てた中指が戻らない。
世界から消えた人へ。これは追悼文ではない。あの頃の私が振り翳せなかった拳だ。投げられなかった火炎瓶だ。受け取る相手はもういない。でも私の負けじゃない。あなたはゼロで、私はイチで、イチの私は書き続ける。ゼロにはできないことをする。
では、さらば。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます