それは砕けし無貌の太陽

ものがな

 光。

 燦然と降り注ぐその輝きに、例えこの目を焼かれようと構いはすまい。身も心も焦がすこの灼熱は、予て待ち望みし恩寵に相違ないのだから。それを見上げ、それに焼かれ、それに溶けてそれと成る。それこそが幸福。穴蔵に潜み隠れたる者の、羽化を兆す福音の歓喜。然るべきは再誕の曙光、新生の暁なり。

 ああ。太陽だったのだ。確かにそれは、太陽だったのだ。誰がそれを疑おうとも、信仰は我が胸の裡にて完成していたのだから。何がそれを疑おうとも、疑うことすら忘れようとも。我が胸の裡にてそれは、然と完成していたのだから。完成していたのだから。

 砕けたもの。果たしてそれは、世界か己か。

 太陽の失墜。天は夜を主と定め、光輝を失して世は久しく。現はもはや見知らぬ外地。氾濫せしめる疑似似非誤謬。今や既に、我らが故里は彼方の過去へ。永久への夢は、潰えたり。

 最下の無間に仄見えたるは、かつて拝んだ光の残滓。蛆に塗れた腐敗の結に、天地を逆してただ拝む。盲の孤狼は無貌の天へ、刻理に背いて遠吠える。沈まぬ光を、祈願して。沈まぬ光を、夢想して。沈んだ光を、放捨して。沈んだ光を、放捨して――。


 太陽よ、我が太陽よ、ああ――――――――

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