第64話 極秘潜入

 そうこうしている内にテイル王国領内へと侵入し、そのまま人気の無い森のそばに着陸した。

 着陸する際、現在地から三キロほど離れた場所に街を発見した。

 

「よし、とりあえずあの町に行こうぜ」


「そうだねー!」


「特に戦闘の形跡も無かったみたいだし、平気そうね」


「ば、ばれませんかね?」


「バれるわきゃねーだろ。旅人のフリすりゃいいんだよ」


「あ、なるほど」


 そうだ、ここは人界なんだから堂々としてればいいんだよな。

 現在地からテイル王国都市部まではおおよそ二十キロ。


 話し合いの結果、俺達は一度町の宿屋に潜伏し、そこで情報を集めるということになった。

 俺は軍部に缶詰だったこともあり、今から向かう町がなんという名の町なのかも知らなかった。


 俺の世界は自国の町の名前も知らない、知ろうともしなかった小さな世界だった事を改めて認識する。

 町は小規模ながらしっかりとした塀で囲まれており、野生のモンスター対策も万全なようだ。


 町の入口に着いた俺達は、門番から軽いチェックを受けただけですんなり中に入る事が出来た。


「ドッカの町へようこそ」


 人当たりのいい笑みを浮かべた門番に見送られ、俺達は町に入り、門番に紹介された宿屋へと向かった。

 

「さて、と。久しぶりの人界だ、俺はちょっくら町の中を散歩してくる」


「私もー! お買い物してくる! 買うか分からないけどー」


「私はちょっと寝かせてもらうわ」


「えちょ。早速バラバラですか!?」


 四人で宿に向かうと思っていたのに……自由人だなぁ……。


「ん?だって後はクロードが召喚したモンスターが対象の所持品を持ってくるだけだろ? その間暇だしな」


「いやまぁそうですけど……」


「だーいじょぶだよー! すぐ帰るし、町自体そんなに大きくないしさ」


「わかりました。ではまた後程」


 力いっぱい手を振るダレクとカレンを見送って、俺とサリアはそのまま宿屋でチェックインを済ませた。

 一階が食堂で二階が宿というオーソドックスな作りで、それなりに繁盛しているようだった。


「私は少し寝るから、何かあったら起こして頂戴ね」


「わかりました」


 部屋は勿論男女別、ベッドが二台あって小さな机があるだけのシンプルな作り。

 一番安い部屋を頼んだので当たり前なのだけど、ちょっと魔王城の自室と比べてしまった。


 浴室はバスタブが無く、シャワーのみだった。

 特に大きな荷物もないので、少し休んでから行動を開始した。


「サモン:ワイルドラット、ツーコール。カラントイーグル、ツーコール」


 俺の呼びかけに応え、計四匹のモンスターが姿を現した。

 

「頼むぞ」


 俺がそう言うと、カラントイーグルはワイルドラットをその鉤爪で優しく掴み、開け放った窓から飛び出して行った。


 そして続けざまにT―ホークを召喚し、モンスター達の動向を見るべく後を追わせた。

 こうすれば俺も現地の映像を見る事が出来るし、不測の事態にも対応出来る。

 

「さて、と」


 ベッドに寝転がるとギシリという音が鳴って背中に硬い感触が当たる。

 テイル王国軍部の仮眠室もこれと同じくらい硬いベッドだったなぁ、とふと思い出した。


 完徹は日常茶飯事、もちろん硬いベッドだから疲れは取れない。

 魔王城という楽園を知ってしまったがゆえに思うけれど、よくもまぁあんな所に十年もいたもんだ。


 食堂の飯は不味いし愛想は悪い、コスト削減の為にとコーヒーは薄め。

 そんな事を思い出しながら、脳に直接送られてくるTホークの映像を見る。


 二匹のカラントイーグルは真っすぐに都市部を目指して飛んでいる。

 眼下の景色がまさに飛ぶように過ぎ去っていく。


 都市部まであと十キロといったあたりからチラホラと戦闘の爪痕が見られるようになってきた。

 砲撃の跡なのか地面には複数の爆発痕が残されていた。


 そしてカラントイーグルが首都上空に達した時、俺は眼下に広がる光景に息を飲んだ。

 

「……前見た時よりも荒廃してるな」


 嘘だと思っていたわけではない。

 ただ目視して認識を深めただけにすぎない。


 首都の建物はいくつも崩壊していて、平時ではたくさんの馬車が行き交ったであろう道路はぼろぼろになっていた。

 家屋も同じようにボロボロになっていた。


 そして所々に石像と化した動かぬゴーレムの姿があった。

 中には破壊されてそのまま、瓦礫の一部になっているゴーレムの姿もある。

 今は戦闘が行われていないのか、軍人や革命軍の姿も見当たらない。


 国民の姿も見かけず、首都はただただ瓦礫が散乱するゴーストタウンのような有様に様変わりしていた。


「……革命、か」


 俺の中での革命は王国軍を見限った事だ。

 だが現状の内戦は一体何を考え、どこを着地点として目指しているのだろう。

 何がどうしてこうなったのか――俺が去った後のガイアの対応がよろしくなかったのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る