第62話 プレゼンテーション

 次の日、書類やらなんやらの調整を終えた俺はダレク、カレン、サリアを連れて玉座の間に訪れていた。


 出来る準備は全てやった。

 もしこれで駄目なら……いや、駄目だなんて考えるな、これが最後だと腹をくくらなきゃ。

 

「なんじゃ。また来たのかの?」


「はい。お話、というよりは一つの案のご相談に参りました」


「……ほう? 何じゃ、昨日とは随分違う顔をしとるの。言うてみい」


 今日は天気も良く、クレアの表情や気配からも機嫌がいい事が伺える。

 俺はゴクリ、と生唾を飲み込んで、ゆっくりとプランを話し始めた。


「まず、先日お伝えしたテイル王国の件についてですが、世話になった二人の軍人を助け出した上で我が魔王軍に引き入れたいと思っております」


「ふむ。その意図するところはなんぞ?」


「は。その二人はテイル王国にて長年俺のサポートをし続けていてくれた人達です。俺の召喚の内容や、それに付随するあれこれ、召喚したモンスターの管理法などなどを熟知している者達なのです。彼らの協力があったからこそ、俺は軍での活動を滞りなく進める事が出来ていたのです」


「……ふむ。続けよ」


 クレアの顔を見るに、目は細められて真剣な表情ではあるものの、否定的ではなさそうだ。

 このプレゼンテーションが成功するといいのだけれど。


「であるからして、是非とも我らが魔王軍に招致し、召喚したモンスターの管理や調整、俺のサポート役として働かせていただきたいのです。そうすれば派遣業務や、軍、魔王城、ひいてはクレア様が覇道を進むご助力が出来るかと」


「……確かにクロの仕事を知る旧知の者がおれば仕事の効率化や拡大も見込めるのう。じゃが我は既に魔王、魔界全土を束ねる王じゃ。これ以上のどこに覇道があると言うのじゃ」


「それは--天下統一でございます」


「何……? それはまさかお主、我が人界をも掌握せしめるという事か?」


「はい。クレア様のお力、この精鋭揃いたる魔王軍の力、そして俺の力があればそれは可能です」


「ククク……カッカッカ! 面白い! 実に面白い事を言うのぅ! まぁそれは置いておくとして、クロの提案は理に叶っておる。その者らを引き込めばクロの負担が減るというのであれば止めはせん」


「本当ですか!」


 よっし! 多少誇大広告はしたが、概ね間違った事は言っていない。

 ダラスとアスターがいれば、モンスター関連の作業効率が格段に上がるのは事実なのだから。


「じゃが! 魔王軍は動かせんぞ? そこはどうする? まさか後ろに控えているその者らと四人で敵地に赴くつもりか?」


 クレアがニタリといやらしい笑みを浮かべている。

 やはり、クレアはこうなるように仕向けていたのだろう。


 感情論ではなく理路整然と、メリットと目的を伝え、その為の案をしっかりと提示するように。


 そう仕向けたのだろう。

 全ては魔王の掌の上、恐ろしい人だ。


「それについては見て頂きたいものがありまして……よろしいでしょうか」


「かまわん」


「では」


 俺は一度立ち上がり、玉座の間の空いているスペースに手を向けた。


「サモン:TALOS-markX、テンコール」


 床に十個の魔法陣が浮かび上がり、そこから浮き出るようにして十体のパワードスーツが姿を表した。


「ほう……これもモンスターか? ふむ、硬い外骨格に覆われておるのう……これは鋼鉄なんかよりも数倍は硬そうじゃ。こやつの種族名がタロスと言うのか?」


 パワードスーツが出現すると同時に、クレアは玉座から飛び降りてその内の一体に近付いてその体をコンコンと叩いていた。


 特殊金属で構築された外骨格、本来は人が中に入って使用するものだが、俺が召喚してしまえば、無人といえど動き出す事が可能だ。


 もちろん動作テストは昨日のうちに済ませている。


「はい。人型の--そうですね、魔族に近い種族です。非常に強靭な膂力と外骨格で生半可な攻撃は通用しません。作戦時にはこのタロスを千体ほど投入する予定です」


「ほほぉ……なるほどなるほど。いやはや恐れ入った。クロにこんな隠し球があるとはの。どれ、前も言ったが今度お主が召喚出来るリストとその詳細を記した書類を作成する事は可能かえ?」


「それは可能ですが……タロスの出動許可はいただけるのですか?」


「かまわん。一見変わったフルプレートのようにしか見えんからの。魔族だと勘違いされることも無かろうて」


「! では!」


「うむ。作戦を許可する。よくぞ一日でここまで練り上げたのう! あっぱれじゃ!」


「あ……ありがとうございます! ありがとうございます!」


「で、作戦名は何にするんじゃ?」


「はい?」


「作戦には作戦名が必要じゃろうが。決めていないなら我が決めるぞ」


「こ、光栄です!」


「ふむ……そうじゃなぁ……」


 クレアは器用にパワードスーツの肩に座って瞼を閉じた。

 そしてカッと目が見開かれ、その可愛らしい唇がゆっくりと動いた。

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