第38話 目にもの見せてやりますよ
「ホルンストさん」
「なんだ!」
「撤回してください」
「何を撤回しろと言うのだ!」
「魔族が薄汚い畜生と言った事です」
「薄汚いものを薄汚いと言って何が悪いというのだ! 魔族に洗脳されたその愚かな性根、叩き直してやろう!」
「そうですか。なら、知りませんよ」
「たった四人で何が出来るというのだ! こちらは五万、がしかしお前達ならば十人いれば捕縛もたやすそうだな」
「確かにそうかもしれませんね。ですがそれは大きな間違いですよ。ちなみにここで貴方が俺達に弓を引けばそれはイコール宣戦布告、敵対行為となりますが」
「ふん。お前達を捕らえて連れ帰ればいいだけのことよ。それに魔王軍は人間を捕らえ洗脳するという恐ろしい事をやってのける存在だというのが判明した今、人間にとってやはり滅ぼすべきは魔族よ!」
五万対四人、まぁ普通に考えればそう強気になるのも分かるけど、短慮が過ぎるのではないかなぁ。
ま、どうでもいいけど、そっちがやる気なら俺もやる気を出しちゃおうかな。
「みなさん、離れてください。そうですね、二百メートルほど」
俺がそう言うと三人は黙って後方に駆け出した。
さて、ここで現代兵器を出した所で現地のこの人らにその脅威は伝わらない。
であれば--。
「サモン:アーマードドラゴン、テンコール」
その瞬間、周囲の空間が歪み、地鳴りのような音が鳴り響く。
「な、なんだ貴様! 何をした!」
「ちょっとした遊びですよ。あなた方がどう出るのか、ね」
ぐらぐらと揺れる中、空間に亀裂が入り巨大な穴が広がること十個。
穴の淵に巨大な指がかかり、ずい、とその異様が姿を現した。
アーマードドラゴン、全長三十メートル、鎧のような外骨格を纏った非常に防御力の高いドラゴンで、この世界での確認事例は数えるほどしかないというレアなモンスター。
外骨格は鈍く鉛色に輝き、サークレットのように変形した角の間からは鋭い眼光が漏れる。
『コォォオ……』
穴から全身を引き抜き、地面に降り立ったドラゴン十体が静かに息を吐き、ブルーリバー軍を睨めつける。
「さて。どうしましょうか。これでもやりますか?」
「ば、ばかな……こんな、こんな事があってたまるか……!」
「たまるか、と仰いますけど実際出てきちゃってますからね」
「聞いてない、俺はこんな話聞いていないぞ! クロード・ラストがモンスターを召喚出来るとは聞いていたが……ここまでとは聞いていない! 何だこのドラゴンは! 初めて見るぞ!」
あーやっぱりそこまでバレてるんだな。
でも俺が何を召喚出来てって言う所までは知らなかったみたいだな。
テイル王国では兵に合わせたモンスターしか召喚してなかったし、それも仕方のない事だけど。
「と言う事で再度お聞きします。やりますか? やりませんか?」
これが俺の最終通告。
できれば尻尾を巻いて帰って欲しいものだけど--。
「て、敵前逃亡は許されん!」
「……死にますよ?」
やはりそう来たか。
そうなるよな。
「戦闘の中での死こそ軍人の誉なり! 引かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!」
「媚びずともよいですが、そこは引いて省みてくれませんかね……」
「くどい! 私は貴様をなんとしても連れ帰らねばならんのだ!」
「はぁ……」
そうは言ってもホルンスト、膝は笑っているし顔も引き攣ってるじゃないですか。
背後の兵達もめちゃくちゃビビってるし、それでも逃げ出そうとする者が誰一人いないのは立派だ。
「では?」
「魔砲兵隊! 撃てえええ!」
ホルンストが叫びにも似た号令をあげると同時に後方から魔法の輝きが放たれた。
ドン、ドドン、とブルーリバー軍が放った魔法弾がドラゴンに当たり、爆発を起こす。
その数は千や二千ではきかない数だ。
連続して放たれる魔法弾の雨は数分間降り続け、ドラゴンが爆煙に包まれる。
「ドラゴンといえどこの集中砲火ではひとたまりもあるまい! 的がでかい分当てやすいなぁ! 今頃はズタボロになっているはずだ! 愚かだなクロード! たかがドラゴン十体で我らが引くと思ったか!」
爆発の規模に気分を良くしたのか、ホルンストが高笑いをあげている。
ゆっくりと爆煙が晴れていき、ホルンスト曰くズタボロになったドラゴンの姿が現れるはずだが--。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます