第16話 巡回勤務

「えっと……これはどういうことですかクレア様」


 後日、玉座の間に呼び出された俺は、クレアから一通の書状を渡された。

 その中身を見て出た一言が上のセリフである。


「見て分からんか?」

「分かりますけど、理解し辛くて」

「なぜじゃ」


 書状の中身は俺の配属先決定通知だった。

 しかし中に書かれていた文字を見て、一瞬何を言われているのかが分からなかったのだ。


【クロード・ラスト。貴殿の配属先、役職を以下に記する】

【食堂及び事務及び緑化推進部及び司令官戦闘補佐及び師団長及び施設管理部及び人材派遣部長】


 盛り沢山すぎて意味がわからない。

 普通配属先と言ったら一箇所ではないのだろうか。

 それとも魔王城に配属されると色んな部署を担当することになるのだろうか。

 

「なぜって。俺は結局どこの部署に配属になるんですか?」


 間違いがあってはいけないので改めて聞いてみる。


「じゃから書面にある通りじゃて」

「それってつまり書面に書いてある部署全部が配属先ってことでいいんですか?」

「その通りじゃ」


 勘違いじゃなかったよ!

 待ってくれ、俺は一人しかいない。

 こんなに担当出来るわけないじゃないか!


「お言葉ですがクレア様、俺は一人です」

「知っとるよ?」

「えと……」

「まぁ聞け。何も全部やれと言っているわけじゃない」

「というと?」

「三日じゃ。三日ごとに部署を変えて仕事をしてもらう」

「うーんと?」


 何を言っているんだ?

 そんな日払いバイトみたいにぽんぽん違う現場に回されるのか?


「本当ならワシじゃって一つの部署に置いてやりたかったわい」


 クレアは「はぁーー」と大きなため息を吐き、めんどくさそうな面持ちでそう言った。


「じゃがなぁ。四天王とクレイモアにハイオーガ、それにお主の仕事っぷりを見たその他各部門の長どもがお前を欲していてのう……」

「ええ!?」

「いつまで経っても議論が終わらんからワシが折衷案としてその書状の通りの事を言ったのじゃ。それでみな渋々了承したというわけじゃな」

「うそだろ……」

「なのでお主には三日毎にそこの部署で業務に励んでもらいたいのじゃよ」

「少なくとも六つはありますが」

「折衷案で六つに絞ったのじゃよ」

「それと師団長と人材派遣課長ってなんですか?」

「師団長と人事部の課長じゃよ。お主、ゴブリン一万召喚出来るのじゃろ?」

「はい、ええまぁ」

「であれば師団長でよかろ。あくまでもお主は軍属じゃ。じゃが二等兵三等兵にしては持つ戦力が大きすぎる、かつ中将や少将にするには時期が早い。ゆえに師団長じゃ。人材派遣については……そうさの、お主を欲しいと言っている他の部門長から、クロードを配属出来ないのならクロードの召喚するモンスターを派遣してほしい、とのことでな」

「ぶっ」

「どうじゃ? 出来るか? 出来ないのであれば他の案を考えるしかあるまいて。あぁもちろん勤務時間は朝十時から十八時まで、残業代も出すには出すが基本残業は無いと考えてよい。完全週休二日もかわらん」

「んー……わかりました。とりあえずやってみます」

「うむ。やってみて厳しそうなら遠慮なく言ってくれてかまわんぞ? 無理して体を壊すのはよくないでの」

「ありがとうございます」

「ではさっそく明日から励むがよい。人材派遣については各部門長から後日連絡が行く。明日は食堂からの勤務じゃな。勤務のルーティーンは今日中に知らせよう」

「わかりました」


 はぁー……。

 玉座の間を出てため息一つ。

 随分と大変そうな日々になりそうだ。

 食堂での仕事は水や料理の配膳、食器の回収、皿洗い、ランチが終われば休憩してディナーの準備に取り掛かる。

 床の掃除をして、おしぼりを補充して、スプーン やフォークなどの銀器を磨き、テーブルセッティングを行う。

 広い食堂だし、俺以外の配膳係はいるし、仕事も分担してやる。

 それでもランチとディナーのピークは戦争のようだ。

 楽しいからいいけどね。

 テイル王国にいたころには味わえなかった充足感というものが味わえる。

 それに美味しいご飯も無料で食べられるし。

 ブレイブとアストレアは見かけによらず優しく丁寧に教えてくれるし、わからない事を聞いても怒らず怒鳴らず、しかもちゃんと褒めてくれたりするからやる気もでる。

 客である兵士や魔王城の方々も気さくで良識のある人たちばかりなので嬉しい限りだ。

 一日働いただけで全てが分かるわけじゃない。

 働いて楽しいなと思えたのは良い事だと思う、思うけど勤務地が三日ごとにバラバラとはね……捉えようによってはある意味ブラックなのか? いやいや、ここまで好待遇なのにブラックとか言ってたら何の仕事も出来なくなるか。


「しかしなぁ」


 そこまで考えて俺はふとある事を思い出した。

 召喚したモンスターはずっとこちらにいるわけじゃない。

 テイル王国では宝珠の力でモンスター達をこちら側に定着させていた。

 人材派遣をするならもう一度宝珠を起動して術式を組まなきゃならなくなる。

 クレアなら二つ返事で許可をくれると思うけど、一応念のために書面を出しておくか。

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