第14話 魔王の采配
「おもてをあげよ――」
後日、魔王城玉座の間にて――。
玉座に座り肘当てに頬杖をしているクレアの前には、五人の魔族が頭を垂れて並んでいた。
炎のブレイブ、氷のアストレア、大地のゴリアテ、闇のカルディオール、光風のクレイモア。
それぞれはクレアの声に反応し、揃って頭を上げる。
一糸乱れぬその動きは長年培われたものであり、実に洗練されていた。
クレアと四天王達の間には重々しい緊張感が張り詰めており、これから始まる事の重大さを表しているかのようだった。
「して、クロードの様子はどうじゃ?」
ピンとした空気の中発せられたクレアの言葉に、二人の魔将が僅かに前に出る。
「まずは我々キッチンから」
「よろしいでしょうか」
「よかろう。話せ」
「素晴らしい、その一言につきます」
「僭越ながらクロードを我が食堂に預けてはいただけませんでしょうか」
「ふむ。焦る気持ちは分かる。じゃが今は皆の意見を聞くのが先決じゃ」
「「は、申し訳ございません」」
ブレイブとアストレアは食堂でのクロードのキビキビとした働きを高く評価していた。
初心者とは思えない気の配り方、配膳の仕方、料理の向きなど、分からない事、気になる事は逐一聞いてメモ書きに残し、一歩一歩着実に仕事を覚えていくその姿勢に二人は感動すら覚えていた。
「次は私が――このゴリアテ、クロードを我が部署にいただけたらと思います」
「その心は?」
「クロードは恐らく……魔族の血を引いております。その証拠に魔族以外には幻惑症状を引き起こすオオトリ花を見ても綺麗だと言っただけでした」
ゴリアテは懐から紫色の花弁をつけた小さな花を取り出してそう言った。
魔王城の敷地には対人間用のトラップが至る所に仕掛けられており、ゴリアテが持っているオオトリ花もその一つ。
幻惑を見せ、道に迷わせ、精神を磨耗させる。
オオトリ花以外にも幻惑を見せたり毒を与えたり恐怖を与えたりという効果を持つ草花が花壇には植えられている。
クロードはそのどれにも反応せず、ただのんびりと世話をしていた。
それはクロードに魔族の血が流れていることに他ならなかった。
「ゴリアテの発言には耳を疑いますが、それが真実であるならば素晴らしい事です。そしてその素晴らしい逸材を是非とも我が部署にて預からせていただきたいと具申いたします」
「ほう……? 部下には厳しいカルディオールまでがそういうとはな」
「はい。クロードの事務の情報処理能力は筆舌に尽くし難く、常人の数倍の速度で仕上げてしまいます。あやつが我が部署に配属となれば、今まで以上に迅速に各書類を作成することが可能になります」
「ふむ」
カルディオールは思う。
クロードを引き入れた際の仕事の進み具合は確実に今よりも跳ね上がる。
そうすれば各部署に届ける書類も滞りなく、経費や庶務の仕事も捗るに違いない。
今いる部下も仕事ができる者達が多いが、クロードを入れることで、いい発破剤になるのでは、とカルディオール考えていた。
「であれば私からもクロードの実戦配置を所望します」
「クレイモアもか」
「はい。彼の実力は本物です。召喚士という職があれほど脅威と思ったことはありません。テイル王国のモンスター部隊には我々も散々辛酸を舐めさせられました。ですが話を聞けばクロードは実力の十分の一も出していないことがわかりました」
「なに……? まことか」
「はい。クロードが召喚出来る種類は数百種にも及び、かつゴブリン程度の弱小であればその数一万」
「ばかな! 一万だと!」
「それを個人で運用出来るというのか!?」
「脅威、まさに脅威よ」
「信じられない……」
「なんじゃと……」
クレイモアが述べた真実に四天王が揃って困惑と驚きを隠せないでいた。
当然それはクレアも同じであり、ぽかんと小さな口を開けていた。
それを好機と判断したクレイモアはさらに押す。
「ドラゴンであれば全種、ベヒーモスやイフリートなどの最強種が同時に十体、ワイバーンであれば百体は召喚可能。そして魔王城に風穴を開けたエイブラムス。あのモンスターは異端です、異世界のモンスターです。クロードは次元を超え、異世界のモンスターまで召喚することが可能なのです」
「エイブラムス……確かに魔王城に風穴をあけたあの火力は凄まじいのう」
「であれば!」
クレアの反応を見たクレイモアは思わずがば、と体を起こす。
「まぁまて。焦るで無い。今日はお前達の意見とクロードの評価を聞きたかっただけじゃ。配属先は追って決める。その判断に不満があれば後日書面で提出するのじゃ」
「「「は!」」」
そう、重々しく緊張張り詰めた玉座の間で行われたのは新入りクロードの配属先を決める役職会議だった。
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