第9話 光風のクレイモアの場合

 今日のお仕事は魔王軍筆頭統括司令、光風のクレイモアのいる演習場へと出向いていた。


「来たな新入り」

「はい! よろしくお願いします!」

「私は四天王達以上に厳しいから覚悟しておけ」

「お、おす!」

「いい返事だ。今日はお前の実力を見せてもらおう。確か召喚士、だったな」

「そうです」

「よかろう。では……お前が召喚出来るモンスターの総数は何体だ?」

「えっと……ざっくりですが十から一万くらい、ですね」

「はぁっ!?」

「えぇっ!?」


 クレイモアがまるで化物をみるような目で俺を見てくるんだが、何か変な事を言っただろうか。


「ま、まて、十から一万、という大きな振り幅はどういうことだ? ばらつきがあるのでは運用に支障が出る。詳細を話せ」

「あ、はい。十体って言ったのはドラゴンとかベヒーモス、イフリートやアシュラなどの強力な個体を召喚する場合です。一万というのはゴブリンやコボルト、スライムという低級なモンスターを召喚する場合ですね」

「ほ、ほほぉ……?」


 ん?

 なんかクレイモアさんの頬が引き攣ってるような気がするんだけど……怒ったのかな。


「ドラゴンはどの種類を?」

「え? 一通りいけますよ」

「ぶっ」

「うわっ!」


 クレイモアさん突然吹き出しちゃったよ! 

 笑われる程度って事だよな……あーこりゃ使えない奴認定されちゃうかな……。


「す、すまん。ついな。魔王様からはお前がワイバーンに乗ってやってきたと聞いている。ワイバーンであれば何体だ?」

「んー……五百体が限界ですかね」

「お、おう……そうか……」

「あの、俺やっぱ使えない、ですか?」

「は?」

「え?」


 クレイモアさんの表情がころころ変わってイマイチ感情が読めない。

 今だって「バカにしてるのか?」みたいな目で見てくるし……。

 いや、もしかしたらゴリアテみたいに目つきが悪いだけなのかもしれない。


「ちょっとした見解の相違があるようだから教えよう。私も召喚士の事はよく知らんが……ワイバーン五百体も呼び出せて使えない認定はしない。むしろマジかよすげぇってくらいのレベルだ」

「え! ほんとですか! よかった!」

「それで使えないと言う奴がいたら私がぶん殴ってるよ」


 王国では決まった数の補充しかしていなかったからなぁ。

 決まった数、決まった種類。

 しかも使い捨てだと思ってるのか、モンスター使いが荒い。

 百体のモンスターを召喚して、その日のうちに八十体くらい潰して帰ってくるんだもんな。

 可哀想な事をしたな。


「では……そうさな。強力なモンスターを一体召喚してくれるか?」

「わかりました」


 強力なって言ってもな……かなり種類がいるから……。

 と俺が脳内で召喚出来るモンスターをリストアップしていると、突然工藤洋一の記憶が流れ込んできた。

 そして……。


「M1エイブラムス……ラプター……アパッチロングボウ」


 モンスターの中に戦車や戦闘機、戦闘ヘリなどの兵器達までリストアップされ始めた。


(まてまてまて、どう言う事だ。兵器はモンスターじゃないだろ。リストアップされたって事は……召喚出来る、ってことなのか……? 異世界のモンスター認定されたとか……?)


 ゴクリ、と俺の喉がなり、変な汗がつう、と背中を流れるのがわかった。


(ど、どうする。やっちゃうか? )


「どうした?」

「い、いえ。では強力なモンスターを一体」

「頼む」

「サモン:M1エイブラムス!」


 一か八か、興味本位でその名を呼んだ。

 すると--。

 俺とクレイモアの目の前に、M1エイブラムスが地響きと共に顕現したのだった。


「召喚できちゃったよ……」

「ほお、これは興味深い。このようなモンスターは初めて見る」

「えっと、異世界のモンスターです、多分、はは」

「異世界とな!? お前の召喚術は次元すら超えて作用すると……逸材だ」

「ありがとうございます」


 エイブラムスは物音一つ立てずにそこに鎮座しているが、そもそもだ。

 戦車は中に人が入ってようやっと動く機械だ。

 呼び出せたからと言って一人でに動くわけが--。


『ヒュイイイー』

「ほほう! 変わった鳴き声だな! 少し高めだが威厳のある声気に入った!」

「えっと……うそやろ」


 無人のはずのエイブラムスはそのM256滑腔砲の砲塔をこちらに向け、ガスタービンエンジン音を高らかに鳴らし始めたのだった。

 まさか人が乗ってる……? それとも妖精さん?

 そこが非常に気になった俺はエイブラムスに登り、ハッチを開けた。

 だが。


「いない……無人機だ」

「クロード! なんだそこは!」

「あ、えっと……このモンスターは中に入れるんです」

「なんだと!? 入りたい! 入らせてくれ!」

「い、いいですけど……狭いですよ」

「かまわん! モンスターの体内に入れるなんて初めてだからな!」


 子供のように目をキラキラさせているクレイモアをハッチに招き、車内へと入る。


「ほおおー! なんと外も見れるのか! すごいなエイブラムスとやら!」


 一通り車内ではしゃいだクレイモアは、車外にでても興奮冷めやらぬようだった。


「エイブラムス! 私にその実力を見せてみよ!」


 とは言っても口頭で命令しても……まて、まてまてまて! そっちはダメだ! なんで勝手に動くんだ!?


「やめてええええ!」


 俺の悲痛な叫びも虚しく、演習場にエイブラムスの轟音が鳴り響いた。

 そう、エイブラムスはクレイモアの指示通り力を示した。

 勝手に砲塔を旋回させ、あろうことか魔王城のど真ん中に滑腔砲を打ち込んだのだった。


「あ……おい……」

「……はい」

「後で一緒に謝りに行ってくれ」

「……はい」


 顔を真っ青にしたクレイモアがぎこちない動きで俺を見て、泣きそうな声でそう言った。

 当のエイブラムスは砲塔をくるくると回し、その場でローリングをして遊んでいた。

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