第5話 これから


「取り逃しただと!?」

「も、申し訳ございません! ワイバーンの飛翔速度には勝てず……」

「ワイバーン、奴め、それほどのモンスターを召喚できたのか。やはり職務怠慢、怠惰に仕事をしてきたようだな」

「許されざる冒涜、軍をなんだと思っているのか」

「すぐに追手を差し向けるしかあるまい。報告によると魔界との境界まで一直線に飛んでいったそうだからな」

「反逆者には死を!」

「それよりも奴の部屋からあの秘宝が無くなっている! 奴が持ち出したのだ! アレが無くては我らの計画もままならんぞ!」


 司令官や大隊長の集まる会議室で報告を終えた兵は綺麗にお辞儀をし、新たに与えられた指令を遂行すべく室内から出ていった。

 軍幹部達の顔は怒りに染まっており、ワイバーンすら召喚できる実力を持ったクロードを呼び戻そうとする様子はなかった。

 彼らの中には上官たる自分たちに暴言を浴びせただけでは飽き足らず、秘宝を持ち出した裏切り者、という認識しか残っていなかった。

 なぜクロードの持つ秘宝が重要なのか、それを詮索する者はこの場にはいなかった。


 --軍崩壊まで残り二日。



「という事で新しく我が軍に入ったクロードだ。みなよろしく頼むぞ」

「く、クロード・ラスト、ですよろしくお願いします」


 クレアが座る玉座の間にて、俺は目の前に並ぶ魔族の面々に戦々恐々としていた。


「魔王様、また人間拾ってきたんですか?」


 魔王軍四天王、炎のブレイブ。


「召喚士か、その血脈が未だ健在とは……よろしく頼む」


 魔王軍四天王、氷のアストレア。


「結構いい男ねぇ。どう? あとで私といいことしない?」


 魔王軍四天王、闇のカルディオール。


「クレア様のお言葉は絶対。研鑽を積め、人間よ」


 魔王軍四天王、大地のゴリアテ。


「しゃかりき働いておくれよ? こっちは万年人手不足なもんでね」


 魔王軍筆頭総括司令、光風のクレイモア。


 人界まで名の轟く実力者達がそろい踏み。

 テイル王国が何度も辛酸を舐めさせられた相手でもある。


「クロードは王国なぞどうでもいいと言い切った男じゃ。きっと我らの力になってくれるじゃろうて。な? クロ」

「は、はい! 誠心誠意頑張らせていただきます!」



「報告します! 司令! 一大事です!」

「何事だ騒々しい」


 第一方面軍司令官、コザは新しく子爵となったベネット卿と酒を酌み交わしていた。

 気分良く飲んでいた所に部下が血相を変えて飛び込んできたものだから、すこぶる機嫌が悪い。

 コザには嫌いなものが三つあった。

 一つは自分の命令に従わないもの。

 二つ目は自分に意見するもの。

 三つ目は自分の機嫌を損ねるもの。

 飛び込んできた兵もその事を知ってはいたが、悠長に待っているなど出来ない事態が起きていたのだ。


「我が軍のモンスター達が! 次々に反抗を始めました! すでに半数以上が反抗し暴れており手が付けられません! こちらに牙を剥くモンスターも出ており、逃亡したモンスターも数多く!」

「ふん! そんな出来損ないなど処分してしまえ! 逃げたモンスターの追跡部隊を出せ! 捕獲して連れ戻せ!」


 コザはテーブルに拳を叩きつけると、手にしていた杯を兵に投げつけた。

 グラスは粉々に割れ、中の酒が兵にかかった。


「し、しかし!」

「くどい! 二度言わせるな! それがお前らの仕事だろう! さっさと行け屑が!」

「くっ……! はは!」


 兵はそのまま踵を返し、コザの部屋から走り去っていった。


「機転の利かない兵ですなぁ。コザ殿」

「全くだ。さて飲みなおそうでは無いか」

「えぇ、それで、例の計画は?」

「気になるか? お前も悪だなぁ。クックック」

「いえいえ、コザ殿ほどではありませんよ。ヒッヒッヒ」


 新しく封を切ったワインを二つのグラスになみなみと注いだベネットはコザと顔を見合わせる。

 いやらしい笑みを浮かべた二人のグラスが掲げられると、それを重ねる澄んだ音が薄暗い室内に響いた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る