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ナタデココ

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「さあ、これはなんでしょ?」


言って、私は両手の親指と人差し指で作った、長方形の空虚な部分に右手の中指を突っ込んでみた。


これが、指の筋のようなものが変な方向に引っ張られるもので、かなり痛い。


「写真?」


真面目な顔をして、彼女が答えた。


それに、私は彼女を小馬鹿にするような笑みを作って言う。


「ブッブー、目玉焼きです!」


「はあ?」


怒った。

面白い。


愉快なものだから、もう一問出してやろう。


「じゃ、これはなんでしょ?」


「だから、私は集中したいって……」


そう言いながらも、ふと、彼女の視線が私の手に吸われた。


私は両手で「手遊びと言えば!」というほどに有名な「カエル」の形を作っている。


だが、彼女は再び真面目な顔をした後に──。


「……馬?」


「え、どうやったらそう見えんの?」


今度は私が呆れる番だった。


すると、彼女は飽きたように手をヒラヒラと振って。


「ああ。もういい、もういい。つまらないし。私の邪魔したいなら別の部屋行ってよ」


「別の部屋行ってもキミの邪魔はできないじゃん」


つくづく思う。

彼女は、退屈な人間だと。


そして、彼女もいま思っていることだろう。

私は、退屈な人間だと。


ふう、と小さくため息を吐いて、私はベッドの上から彼女のパソコンに近付いた。


「どれどれぇ?そこまで集中したいって言うほど、いいプロットでもできたのかにゃぁ?」


「ちょ、やめてよ。マジでウザイって……」


彼女がハッキリと私に嫌悪感を示してくる。


だが、私はそれを無視して、無理矢理に彼女のパソコンを覗き見て。


「へえ、ほう。まだ軸しか決まってないんだ。どれどれぇ?「ファミレスで自殺について哲学的な話を繰り広げる二人の話」……。へえ、つまんなそう」


「アンタね」


「ええ、思ったこと言っただけじゃん。何が悪いのさぁ。それに、キミと私の仲じゃんよー」


よーよー、なんて続けながら彼女に擦り寄れば、ウザイと一蹴されて押し返された。


素直ではない彼女に、私は口を尖らせて言う。


「大体さぁ。ネットの小説コンテストなんて見出しが良くなけりゃ誰も寄り付かないじゃん。審査員に見てもらうまで、読者のPVが多くなきゃいけないんでしょ?『前世はマンボウだったけど、転生したらスライムでした!』とかの方が絶対にPV多くなるじゃん。そうしたらキミの書いた小説がコンテストに受かる確率も高くなる。でしょ?」


「……私はそういうのは書かないの。見出しで読者を引きつけてPV数上げるとか、そういうの面白いって言わないし」


「でも、キミがこれから書こうとしてる小説は、どうせ見出しで世界観の説明とかするんでしょ?心友制度っていう制度が取り入れられてなんたらーって。それとあれはどう違うのさ。教えてよう」


「マジで、ウザイ」


もう一度、さっきよりも強く突き飛ばされた。


「痛ぁ」


ベッドに倒れて、ぼんやりと天井を見上げている私を見て、彼女は言う。


「私はプライドが高いの。いい作品を書きたいっていう、邪魔なプライドが」


「じゃあ、さっき例にあげた「前世はマンボウだったけど」のやつはいい作品じゃ無いの?いい作品と悪い作品の線引きって?」


私は身体を起こす。

ベッドの上であぐらをかいた。


そして、パソコンから目を離した彼女に、言う。


「コンテストなんか、やめちゃいなよ」


「……」


「自分を騙して書く作品なんか、きっと悪い作品だよ。名誉が欲しいんなら、もっと褒められるようなことやりなよ。地域のボランティア活動とかさぁ」


窓から見えた空が、綺麗な朝焼けに染まっていた。


「ほら。私たちって……つまらないし」


寂しく思いつつも、私は言いきった。


「つまらない人が書く作品は、どう頑張っても、つまらないものなんだよ」


たまにそのつまらなさを好んでくれる変人もいるけどね、とだけ、最後に付け加えて。







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