世界が何処かで変わってる ~マンデラエフェクトとパラレルワールド体験記~ 第3部

永盛愛美

第1話 閑話休題:魂の叫び ~マンデラ替え歌~

 マンデラエフェクトに関わってしまってから、一年が過ぎた頃であっただろうか。

 それまでの女の人生に於いては、あまり考えなくとも悩まなくとも済むような道のりであった。

 行動が書いてあるカードを複数チラつかせて「さあ、次どれにする?」と聞かれて可視ババ抜きのように自分で選び「じゃあこっち」とカードを引くか、運命が当たり屋よろしく真っ正面からぶち当たるかのどちらかであった。拒否した体当たりも少なくなかった。全て自分で選び取った自覚があったのだ。可視ババ抜きは無から生じてはいない為、周囲の(特に親の)意思が働いていると思うのだが。方角はなんとなく決まっていて、バラスは敷き詰められ、そこへ「自分で決めなさい」と言われてレールと枕木を敷きながら「自分で決めたんだ」とある意味錯覚しながら生きて来た。お釈迦様の掌の上の様だった。しかし、最終決定は『いつも自分で』選んでいたのだ。


 しかしながら、マンデラエフェクトは違った。自らは決して選んでなどいない。女は動くことを嫌う。生家から移動せず、職場も高2の春休みに決まった時から変わらない。

 それなのに、根底から覆された如く自らの記憶ひとつだけで自身の躰も世界全てが異なってしまったのだ。

 焦った女はネット内は勿論のこと、少しずつリアル世界の周囲の人々に聞いて回った。ひとりにつき数回尋ねて違う世界線に移った人だと驚愕したこともあった。他人も自分も移動している。全く同じ記憶であった人も、両者が互いに移動していれば致し方ない、と結論づけた女であった。虚しかった。

 そんな女は発狂すれば楽だろうに……と思ったが、そんなにデリケートな精神は持ち合わせてはいなかった。転んでも、ただでは転ばない精神で生きて来た五十年余の人生が物語っていた。魂の叫びをすんなりと替え歌に乗せてSNSへといつもの備忘録として挙げていた。

 周囲は魂の叫びとは受け取らない。楽しんでいるとか遊んでいると思った様だった。

 当の本人は、大声で奇声を上げたい心境を替え歌……マンデラ替え歌に表して、昇華を計ったのである。大真面目に怒鳴り散らしたい、持って行き場のない気持ちや虚しさや怒りや悲しみを全てマンデラ替え歌に込めたのだ。

 ……どうやら本人以外はそんな風には映らなかった呟きであったらしい。楽しい面白いと評価され「どこ見てんのよ……」と某CMが脳内スクリーンに出現したくらいに心外であった。

 備忘録。全て備忘録。いつ、原始世界線に帰れるか全く分からない。また、考えたくはないが、ずっとこのまま東京タワーが赤白のままかもしれない。

 帰れた時は、「跳ばされた世界線でこんなマンデラ替え歌やマンデラ体験小説やマンデラ小説を書いた」と向こうのSNSへ記事として書くのだ。体験小説にも書いてやる!と意気込む。女はその際の記録は全て変化するか消滅してしまうことを心得ている為、今、現在、の世界線で発表しておこう、という算段である。今、現在、世界線でを目にしている貴方も貴女も、いつ何時平行移動して違う世界線のの違う文章や記事を目撃するかもしれない……現に女は別の世界線の自分が53歳にして生まれて初めて履歴書を書いたという呟きを7名に目撃されていた。女は一度も書いたことが無い。白紙の履歴書をチラ見したくらいである。幸せで不幸なのだ。物事は常に表裏一体なのだから。

 もし、この体験小説が途中で頓挫した日が来たならば、女が世界線移動したか、生命の危機が生じたか、飽きたかのどれかだろう。

 両手が二重生命線の持ち主なので、生命の危機説は確率的に低いと思いたい。

 両手に二重生命線が生じたのはマンデラエフェクトに遭遇する以前である。最初は左手に、その後右手にもうっすらと見えて来た。棺桶に入るまで働けと言う意味ではなかろうかと怪しんだ女である。

 世界線移動をしても、あまり手相は変化していないと感じていた。

 閑話休題に継ぐ閑話休題。

 マンデラエフェクトから約一年経過した頃から替え歌をいきなり作り出した女であった。魂の叫びとして。

 女は迷った。勝手に替え歌の原曲作詞家、作曲家の許諾も得ずに素人がSNSへと自由に挙げて良いものだろうか?と。

 だが、いつ何時再び遠い平行世界に跳ばされるとも限らない。今のうち、今のうちと出来たそばからアップしたのだった。もし、何か不具合でも生じたならば、SNS元の事業主が異論を唱えて何かを警告して来るに違いない、と女は腹を括った。

 


 その中のひとつふたつを備忘録として披露する。敢えて原曲については触れない。女は昔の人間であるからだ。


 あれは誰だここは何処だ

これは何だマンデラーマンデラー

記憶違いの名を受けて全てを背負(しょ)って闘う自分

私が居たのは三次元

みんなが言うには七次元

周囲が思うに別次元

全てマンデラーが切り開く

まさかの世界垣間見た

世紀のエフェクト

マンデラーマンデラー


 誰も云わない言われた事ない

マンデラーが何なのか

誰も聞かない詳しく云わない

マンデラーが何なのか

跳んだ数(だけ)過去がある

跳んだ数(だけ)世界線(みち)がある

このハチャメチャな現在(いま)を駆け抜けるだけ

今日も何処かでマンデラー

明日も何処かでマンデラー


 これらを含めて自然に脳内に流れた替え歌を呟いておき、後日ノートに書き写してヒトカラで絶叫してやろうと心に決めた女であった。


 転んでもただでは起き上がらない。

否、ただでは転ばない。








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