第12話 決闘乙女


 

 

 乙女の中でもかなり広い場所に案内された。

美装の試運転を行う場所らしく、暴れても大丈夫らしい。

 

「ふふっ、僕のお嫁さん、僕の彼氏、僕が初めての人になるんだ」

 

「弟を応援したいけれど、勝っちゃったらもうマトモにならない……ゆいと君がんばって!」

 

レンの美装はスーツみたいな、いやスーツその物だ。

黒の上下に黒いネクタイ。

しずくねぇの綺羅びやかな執事服とは違い、飾りの類は何も無い。

 

「やるぞ、ヴァルガニカ」

 

「了解しました。美装を展開、対人戦闘用特殊魔法美装パシフィカを起動します」

 

服装が……変わった。

って、これは……。


「な・ん・で! ゆいの制服なんだよ! この間使った時はこんなのなかったろ!」

 

「あれは一部だけ、一瞬だけでしたので展開しなかっただけです。この方が魔法の力も上がります」

 

女子中学生のコスプレをした俺vs俺を運命の人とか言っちゃうスーツを着たやばい男。

 

絶対俺のほうがマシだ、マシ。

 

「ゆいと君はこっちが予約してるんだけどね」

 

「先生、ごめん。でも、僕も、ゆいと君、欲しいから、手に入れるね」

 

「……ま、やってみたら?」

 

オキナワもメイド服に着替え、トウも軍服を着ている。

全員美装を着ているから何かあっても大丈夫だ。

 

「パシフィカのサポートの為、ヴァルガニカを起動します。あぁ、やっと、やっと本来の仕事ができます」

 

「元々パシフィカの拡張パーツだったもんな」

 

「ではフルパワー……はやりすぎなので、半分の力で倒しましょう、マスター」

 

「たのむぜ! ヴァルガニカ、オートバトルモード起動!」

 

魔法の杖がどこからか出現し、それを握る。

もう体はヴァルガニカが動かしているので、俺が何かをしている感覚はまったくない。

寝ているのに目は冴えているような、夢の中のような、とにかく、ふしぎな感じ。

 

「愛と正義と魔法の使者、ゆいゆい参上!」

 

クルクルと杖を回し、決めポーズを取る俺。


 やめてくれ、トウさん。


この中じゃマトモなアンタがそんな目で見ないでくれ。

俺はちょっと女装してるだけ!

そしてトウさんの弟に狙われてるの!

 

「マスター、感覚がバグってます」

 

「人工物にバグってるとか言われる日がくるとはな……」

 

「それじゃ、このコインが地面に落ちたらスタートで」

 

オキナワがコインを取り出して、弾く。

 

「覚悟。」

 

「どっちがだ」

 


 戦闘が始まった。

始まったのだが……。


「ハァ……ハァ……何で当たらない」

 

「すげぇ……」

 

ヴァルガニカは圧倒的だった。

攻撃に合わせて……何か魔法を使ってんのかは分からないけど、とにかくギリギリで躱し続けている。

 

物理的な攻撃は一撃たりとももらっていない。

 

「理想なる雨!《ウイッシュ》」

 

レンが叫ぶとスーツがズタズタに破れ、破れた破片が鋭い刃物になって襲ってきた。

 

「ハックします」

 

飛んできた服の破片は俺に届く事は無く、レンの足元に突き刺さった。


「そんな旧式の美装、オートマトンでこの俺様が倒せるとでも思ったのか? 百世代遅いっての!」

 

「……美装は世代じゃない、扱い方だッ!」

 

「へぇ、ゆいと君が煽るなんて珍しい」

 

言ってません。

今はオートバトルモードにしているので、俺の体を使ってヴァルガニカが挑発しているだけです。

 

「リミッター解除、保護プログラム停止、出力全開……本気も本気ッ!」

 

「レン! そんな事したらまた反動で!」

 

「それでも僕は……いや、俺は、目の前の男が欲しい!」

 

カッコいい見た目からの寒気がするようなセリフ。

レン、トウさんの顔見ろ、絶望してんぞ。

 

「ハックしたって言ったろ? 保護プログラム実行、緊急停止コードは……」

 

ヴァルガニカは圧倒的だった。

パシフィカの魔法にヴァルガニカの科学、互いが弱点を補っていて、隙のない、それでいて完璧に近い動きをしている……と、後からオキナワに聞いた。

 

「対人戦闘は元々パシフィカが一番強かった、それを取り込んだヴァルガニカに勝てる訳無いって、分かったか?」

 

レンの美装が解除され、奴はその場に倒れた。

気絶しているらしく、治療室に運ばれ、トウが処置をして、今は眠っている。

 

「おまたせなのです! ひなが作った、バトラーの進化系! プリンスバトラーです!」

 

「ひなちゃん司令、あの……いえ何でもありません」

 

オキナワと俺が残っていた試作室に司令としずくねぇが帰ってきた。


しずくねぇの美装は……アニメでみるような王子様みたいな服に変わっていて、腰に一本のサーベル、綺羅びやかな装飾がされた服、真紅のマントと、かなり変わっていた。

 

「司令、それだと王子なのか執事なのかわかりませんよ?」

 

「????」

 

ひなちゃんは英語なんて習ってないだろうし、きっと直感で言ってるんだろうなぁ。


「って、ゆいとお前なんでそれ……美装着てんの?」

 

「マスター、任務完了しました。オートバトルモード終了、展開解除します」

 

 



 

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