第6話 2 金の羊毛
2 金の羊毛
「金の羊毛」はギリシャ神話に由来します。英雄イアソンが王となるため、アルゴ船で金の羊毛を取り戻しに行くため、ヘラクレスなどの勇者を集めて船に乗り込み、数々の冒険ののちにコルキスからやっとの思いで盗み出したものです。
そしてついに自己発見を果たし、報償を得ます。羊毛は探求の対象であり、旅の目的ですが、このジャンルの多くの作品でそうであるように、冒険の旅を始動させる仕掛けに過ぎず、いったん手に入れればあまり意味がありません。
つまり主人公は何かを求めて「旅に出る」のだが、最終的に発見するのは別のもの=自分自身というストーリーです。
サブジャンル
スポーツ羊毛:『がんばれ!ベアーズ』『メジャーリーグ』『勝利への旅立ち』『プリティ・リーグ』『クール・ランニング』
相棒羊毛:『大災難P.T.A.』『イージー・ライダー』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『テルマ&ルイーズ』『ファインディング・ニモ』
叙事詩羊毛:『プライベート・ライアン』『ナバロンの要塞』『特攻大作戦』『スター・ウォーズ』『地獄の黙示録』『スリー・キングス」「マスター・アンド・コマンダー』『ロード・オブ・ザ・リング』
強盗羊毛:『オーシャンズ11』『パピヨン』『アルカトラズからの脱出』『スニーカーズ』『ミニミニ大作戦』
ソロ羊毛:『そして、ひと粒のひかり』『バリー・リンドン』『アバウト・シュミット』『Ray/レイ』『コールドマウンテン』
【道】
主人公が目的地を設定して家を離れる決心をし、意を決して外に出ていき、地図が描ける旅を経てさまざまな人と出会い、出来事を経験して成長し、人生を変えることになって、おそらくは家に戻ってくる。
旅を価値あるものにするのは、こういった一見関連がなさそうな出会いや経験が、物語の主人公をどのように成長させていくか、です。
つまり、主人公の成長が「金の羊毛」のテーマとなっているのです。
重要なのは主人公が進んだ距離ではなく、どう変化したかであり、そこに観客はストーリーの前進と進歩を感じます。
どんなに個々のセット・ピースが面白くても、主人公の成長につながらなければ意味がない。ストーリーをうまく動かすのは、出来事自体ではなく、出来事から主人公がなにを学ぶかだからです。
「道」とは旅路のことであり、想像上のものでも大海もよいし、宇宙であったり時空であったり、通りを横切るだけでもよく、「誰かの人生」といった比喩でもよいのです。
主人公を「道」へ送り出すストーリーのコツは、途中で足を止める場所の一つひとつの道標に理由があって意味あるものにする、つまり存在意義が必要です。
ただ「面白い」からという理由ではダメなのです。
たいていは旅を停止させる「道端のリンゴ」が転がっています。
もう一歩で勝利というところで旅を完全に中断させてしまうなにか。
障害物であり、主人公たちに迂回を強い、作戦再考を迫り、ひびの入った人間関係の修復を要求し、自分たちをじっくり見つめ直させて、それぞれが備えた真の力や技術を発見する仕掛けです。
【チーム】
主人公の道案内をする人たちで、メンバーでも相棒でも主人公に欠けている「スキル」「経験」「姿勢」などを備えています。
「チーム」は友情や信頼を寄せる仲間であり、「報償」とほとんど同じくらい重要で、相棒一人でもたくさんの仲間がいても変わりません。
典型的な主人公は負け犬やはみ出し者で、たいていは「つまらない」奴です。
主人公はチームの中心であり、チームはしばしば最後には主人公のキャラクターと融合する「心」や「頭脳」や「魂」などの資質を象徴している。
映画の中ではルーク・スカイウォーカーはいちばんつまらないのではないかとブレイク・スナイダー氏は綴っています。
行儀よく、やる気満々で、目がキラキラしていて、どうしようもなく退屈なやつ。だからこそハン・ソロやチューバッカ、文句の多いロボットコンビに囲まれていなくてはならないのだそうです。
チームの人数が多い映画では、個々のメンバーの紹介は時間をたっぷり使ってセットアップに組み込むとよいでしょう。一人ひとりを鮮明に印象づけることは必須と言えます。
そのお手本は『オーシャンズ11』のような強盗映画で、キャラクターとそのスキルのセットを驚くほど手際よく観客に憶えさせていく。
【報償】
旅の目的となる。これは帰郷、財宝の獲得、豊かな生活、自由、大事な目的地へ到達する、血統に約束されたものを得る、出自が約束する何か、生得権の再獲得など、原始的なものであること。
旅の果てにたどり着いたときに、「報償」が実際に旅の価値を認めるものとなるとは限らないし、主人公がそれを手に入れられないことさえあります。
最初は重要に思えた任務よりも、最終的には個人がなにかを発見することのほうに意味があることが多い。つまり盗みのプロットのひねりや展開よりも、そこから生まれた発見や変化のほうが重要になってくる。
『アルカトラズからの脱出』のような監獄物語を含む「犯罪羊毛」の場合、報償は自由であることも。
そして報償が金の場合でさえ、いい作品なら金を取るにはきちんとした理由があります。復讐、愛、あるいは『オーシャンズ11』のように男の意地です。
しかし、勝つことに関しては、たいていやっかいな問題が出てきます。
多くの「金の羊毛」では道端のリンゴが転がっていて、それは勝利が見えてきたところでプランの進行を阻止するものと定義されるのです。
「金の羊毛」を興味深くしている一面は、主人公たちが自分たちが探していた金などはもうどうでもよく、友情という真の金塊に比べれば色褪せて見えることを学ぶ点だ。
金の羊毛の物語は驚くほど幅の広いジャンルで、それぞれがユニークなゴール、主人公、教訓を持っています。
「金の羊毛」が素晴らしいのは、家を離れての冒険、チームの一員となって大義を目指す高揚感です。
そしてうまく仕上がった作品を見ると、なんと楽しい時間が過ごせることか。
「小説の書き方」コラム
830.構成篇:ジャンル7:冒険
https://kakuyomu.jp/works/1177354054889417588/episodes/1177354054891996399
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【参考図書・引用図書】
▼ブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』菊池淳子訳・フィルムアート社(税別2200円)
▼ブレイク・スナイダー氏『10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術 『SAVE THE CATの法則』を使いたおす!』廣木明子訳・フィルムアート社(税別2200円)
▼ブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CATの逆襲 書くことをあきらめないための脚本術』廣木明子訳・フィルムアート社(税別2000円)
▼ジェシカ・ブロディ氏『SAVE THE CATの法則で売れる小説を書く』島内哲朗訳・フィルムアート社(税別2500円)
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