ハリウッド脚本術『SAVE THE CATの法則』が十倍わかって小説に応用できる副読本

カイ.智水

『SAVE THE CATの法則』を読み解く

主人公が手に入れるもの

第1話 主人公はなにを目指していますか(求めるもの)

主人公はなにを目指していますか(求めるもの)


 これから長編の小説に旅立つ主人公は、旅をするだけの価値がある人物でしょうか。


「主人公はなにを目指し、なにをなそうというのか」


 これが読み手から支持されないかぎり、読み手を惹きつける主人公にはなれません。

 他のどの要素が満点解答であっても、「主人公はなにを目指し、なにをなそうというのか」がつまらないせいで、読み手を惹きつけられない作品が殊のほか多いのです。

 そして、なぜ今は「それを目指していないし、なそうともしていないのか」という物語のスタート地点も考えてみましょう。


 私の反省ですが、拙作の長編小説ではとくに主人公の目指すものがわからないものが多いのです。

 短編小説ではとくに目指すものがなくても、シチュエーション・コメディーのように状況をパッと見せれば面白さは生み出せます。



 しかし長編小説は主人公の「変化」「変容」を楽しむ文芸です。

 その「変化」「変容」は主人公自ら「そうなりたい」と思っていたのか、結果的に「そうなってしまった」のか。自力で切り開いたのか、他人がそのようにお膳立てしたのか、対になる存在と向き合った結果なのか。


 いずれであろうと、長編小説の「変化の旅」「変容の旅」をするには、「主人公はなにを目指し、なにをなそうというのか」がはっきりしている必要があります。

 そうでなければ、自力で切り開いている過程なのか、他人に振り回されて不本意にある過程なのかが、読み手にはいっさい伝わりません。



 ちなみに「主人公はなにを目指し、なにをなそうというのか」は物語の途中で変わってもかまいません。

 「トップアイドルになりたい」と思っていた駆け出しアイドルが、あまりの忙しさで途中から「普通の女の子になりたい」と思い直してもよいのです。

 状況が変化すれば、最善と思える求めるものも変化しますからね。





ログラインに含める


 Web小説のテンプレートで異世界転生する中年男性だったり、乙女ゲームの悪役令嬢へ転生する女性ゲーマーだったり。

 それだけの設定では読み手を惹きつけられないのです。


 主人公はなにを目指していますか? なにをなそうとしているのですか?


 たとえテンプレートの主人公であっても、これがはっきりしているだけで、読み手がぐんと増えます。

 「異世界転生したら。現世ではブラック企業で働き詰めになり過労死したので、異世界ではのんびりスローライフを送りたいな」

 単なる異世界転生ではなく、なにを目指しているのか明白ですよね。「のんびりスローライフを送りたい」わけです。これで「異世界でのスローライフってどういう生活なのだろうか。異世界ファンタジーってことは魔物がいるんじゃないの。冒険者や勇者が押しかけてきてのんびり生活が壊されるのでは」なんて連想がパッと広がりますから、読み手は「どんな物語になるんだろう」とワクワクしてくれるのです。


 「異世界転生」「悪役令嬢」は投稿本数が桁違いなだけに、それだけだと「だからなに?」と見向きもされないものになりやすい。

 転生してから「なにを目指し、なにをなそうというのか」を明確にしなければ、せっかくWeb小説最強の基本設定「転生もの」であろうと、第1話をクリックしてもらえないのです。


 小説投稿サイトでは「タグ検索」でリストアップされた中からいかに選んでもらえるか、が重要です。

 現在、長いタイトルが流行っていますが、これは「主人公はなにを目指し、なにをなそうというのか」を盛り込んでいるから長くなるのです。

 タイトルに書いてあれば、内容が保証されてズレないだろう。

 読み手はそう思うから、期待してクリックして紹介文へと進んでくれるのです。

 だから長いタイトルにもいくらかの理があります。


 拙作ですが『『孫子の兵法』オタクの女子高校生が異世界転生!軍師に成り上がって大陸制覇を目指します!』というタイトルの長編コンテスト応募作があります。(当然落選しました)。

 これも流行りの「異世界転生」と書いてありますが、「なにを目指し、なにをなそうというのか」がしっかり書かれていますよね。「軍師になって、大陸制覇を目指す」と明白です。

 だから、拙作長編では最多のPVを誇っています。(しょせん4桁ですが)。


 ですが、憶えやすく短いタイトルにして、キャッチコピーで「主人公はなにを目指し、なにをなそうというのか」を書いてもよいのです。

 そして小説投稿サイトでは紹介文の部分が冒頭百字ほど検索結果に表示されるところが多いので、表示範囲内に「主人公はなにを目指し、なにをなそうというのか」を書いておけば、取り立ててタイトルに盛り込む必要もないのです。


 紹介文では、とくに冒頭百字以内に「主人公はなにを目指し、なにをなそうというのか」を書いておきましょう。

 つまり「主人公はなにを目指し、なにをなそうというのか」を「ログラインに含める」のです。



 ただ、『カクヨム』TOPページの「累計ランキング」や「注目の作品」では「タイトルとキャッチコピー」しか表示されません。この対策として「主人公はなにを目指し、なにをなそうというのか」をタイトルに盛り込めば、とくにPVを増やしたい、ランキングを駆け昇りたいという要求を満たしやすくなります。


 『小説家になろう』で、ランキングが長いタイトルだらけになってしまうのも、ランキングでは紹介文がまったく表示されないからです。


 短いタイトルで成功するには、検索で生き残るかフォロワーさんを増やすかして初動をよくする以外にありません。

 たいしてフォロワーさんがいないのであれば、まずはタイトルに「主人公はなにを目指し、なにをなそうというのか」を含めてみましょう。





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【参考図書・引用図書】

▼ブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』菊池淳子訳・フィルムアート社(税別2200円)

▼ブレイク・スナイダー氏『10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術 『SAVE THE CATの法則』を使いたおす!』廣木明子訳・フィルムアート社(税別2200円)

▼ブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CATの逆襲 書くことをあきらめないための脚本術』廣木明子訳・フィルムアート社(税別2000円)

▼ジェシカ・ブロディ氏『SAVE THE CATの法則で売れる小説を書く』島内哲朗訳・フィルムアート社(税別2500円)

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