第123話 円惨華
真耶はアイティールの顔を見ながら呆れた目をした。アイティールはさすがにその目を見て真耶が呆れていることに気がついた。
そして、気がついたからと言ってどいてくれるという訳ではなかった。ずっと抱きついて離れない。更に言うなら、さっきより強く握りしめて、小悪魔のような笑みを浮かべている。
「……なぁ、お前って集合体恐怖症か何かか?」
「違うにゃんよ」
「だよな?だとしたらなんでさっきあんなことになったんだろうな……」
「確かに、突然気分が悪くなったにゃ」
「もしかすると、あの目一つ一つにそれぞれ固有の能力みたいなのがあるのかもしれんな。そして、その目と合ってしまうと能力にかけられるとか、そんなところだろう」
真耶はそう言ってアイティールの猫耳をわしゃわしゃと触る。そして、触ってみるとわかったのだが、どうやらこの猫耳は偽物じゃないらしい。カチューシャか何かかと思っていたが、猫耳にカバーのようなものをかけているだけなようだ。
「……お前って耳何個あるんだ?」
「突然にゃんにゃ?左右合わせて4個にゃ」
そう言って普通の人間の耳と猫耳を指さす。そんなアイティールに向かって真耶は言った。
「便利だな。それだけ耳があったら目が見えなくても良さそうだな」
「そうだにゃ!しかも、にゃあは夜でも問題なく目が見える力があるにゃ!羨ましいかにゃ!?」
「お前ぶち殺すぞ。俺は右目が見えないんだぞ?今だって眼帯してるだろ?」
「にししし、ごめんにゃ」
アイティールは煽るような目をして、煽りながら謝ってくる。真耶はそんなアイティールを見て少しだけイラッとしたのか、猫耳を強く引っ張った。
「痛たたたたたた!ごめんにゃ!ごめんにゃあ!!!にゃんでもするにゃあ!許してにゃあ!!!」
アイティールがそう泣き叫んだ時、突如として大量の視線を感じた。そして、振り向くと球体がこっちを見ている。しかし、まだ気づかれてないようだ。真耶は慌ててアイティールの口を塞いで音を消す。
「よく聞け。あいつはどうやらとてつもない感知能力を持っているらしい。だから、基本的に先手必勝だ」
真耶がそう言うと、アイティールはこくりと頷く。
「それでだが、俺らが何をすればいいか分かるか?」
そう聞くと、フルフルと首を横に振る。
「だろうな。だからこそ教えてやる。よく聞いとけよ」
真耶は煽るような顔をしてそう言った。すると、アイティールは少し怒ったような表情を見せる。
「聞けよ?いいから聞いとけよ?お前は煙玉と音爆弾を投げろ。その後は自分でなんとかする」
真耶はそう言って手を離すとプラネットエトワールを鞘から抜いた。そして、強く握りしめて立ち上がると、深呼吸を1回だけする。
そして、真耶の足が少しだけ動いた時、アイティールは立ち上がって煙玉を投げた。そして、それと一緒に音爆弾も投げる。すると、その場は煙で満たされ何も見えなくなる。音は、音爆弾によって騒音が響き何も聞こえなくなる。
そんな視覚と聴覚を奪われた世界で真耶は球体の前に立ち剣を振り払った。その刃は寸分のズレもなく球体に向かっていく。
そして、流れるようにその球体を切り裂こうとした。
「……!?」
しかし、なんということか、球体は真耶の剣が通ると予測されている場所に寸分のズレなく防御結界を張る。流石の真耶も、その狙いの良さには言葉を失う。
さらに、真耶が攻撃しに近づいたことでその球体に着いている目が全て真耶の方を見た。そして、エネルギーを溜め始め真耶を殺そうとする。
「っ!?まずい……!」
真耶は小さく呟くと、必死に思考をめぐらせる。そして、1つの答えに行き着いた。
「チッ……!」
真耶はその場から離れるでもなく、剣を1度結界からほんの少しだけ離れさせる。そして、少しの隙間を作りもう一度攻撃する。しかも、今度は技を使って。
「”
真耶は踏み込みながらその剣を高速で3回振る。すると、その剣には業火がまとわりつき結界を破る。さらに、炎を纏った剣は一瞬で球体の体を4つに分けて殺す。
真耶はちを吹き出し落ちていく球体を背に、静かに1つ息を吐いた。
「おい、猫耳。殺したぞ」
「猫耳言うにゃ!にゃんで猫耳って言うにゃ!?にゃあだってこの猫耳カバーをおしゃれしてるにゃん!」
「あのなぁ、名前が長すぎるし合ってねぇんだよ。お前はアイティールなんて名前じゃなくて、アイっぴって感じだろ?」
「アイっぴ!?にゃ、にゃにいってんのにゃ!殺すにゃんよ!」
「なんでそんなことで殺されなきゃいけないんだよ。あと、早く行くぞ」
真耶はそう言って歩き出す。アイティールはそんな真耶を見て頬をふくらませると、少し怒りながら真耶のあとを追った。
真耶はアイティールが追いついたのを確認すると、走り出す。そして、いち早く王城に着くように、壊れた道を駆け抜けた。
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