アヴァロン編

1章 壊された世界

第121話 0になって

「それで、これから俺たちはどうする?」


「アヴァロンに行くにゃ」


「どうやって?」


「真耶が開けるにゃんよ。自分のことも忘れたにゃ?」


 アイティールはそう言って小悪魔のような、意地悪そうな笑みを浮かべて見つめてくる。そんなアイティールに真耶は言った。


「忘れたのか?俺は魔法をあまり使えない。ゲートを開くにはそれなりに魔力が必要だが、俺は使えない。分かったようなふうにしていばっているが、間違えているのはお前だ。わかったか?猫耳」


 真耶がそう言うと、アイティールは怒ったようにぷいっとそっぽを向いて言う。


「猫耳言うにゃにゃ!そ、それに、知ってたにゃ!試しただけにゃ!」


「おぉそうか。じゃあ俺も試してみたんだが、お前は不合格なようだ。俺はゲートを開けるぞ」


 真耶がそう言うと、アイティールはまたもや驚いたような表情を見せて、尻尾を早いスピードで振りながら言ってきた。


「にゃにゃ!?嘘ついたにゃ!?嘘つきは嫌いにゃ!」


「そうか。別に嫌いで良いぞ。俺は一人で行くから」


 真耶はそう言って1人で行こうとする。すると、アイティールは真耶にすがりついて言った。


「嘘にゃ嘘にゃ!好きにゃ!好きすぎていっぱいチューしたいにゃ!子供も欲しいにゃ!」


 アイティールは真耶の機嫌を取ろうとそう言った。しかし、さすがにそこまで言われると、真耶も引いてしまう。


「えっと……あの、その、俺には好きな人がいるんで、結婚はできません」


 真耶は少し距離を取りながら言った。


「にゃんでふられにゃいといけにゃいにゃ!」


 アイティールはそう言って真耶を全力で殴った。その勢いを直に受けた真耶は、耐えきれずに飛んでいく。


 しかし、アイティールはそれに気が付かずぷいっと後ろを向いて怒っていた。真耶はかなり遠くに飛ばされてしまったが、何とか生き延びて、アイティールの元まで帰り始める。


 そして、アイティールが真耶を遠くまで殴り飛ばしたことに気がつくのは、それから5分後だった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……それから1時間後……


「ったく、親の躾がなっとらんな」


「しゅ、しゅみましぇん……!」


 真耶は焼け焦げボロボロになった服を修復しながらそう言った。その目の前には、頬とお尻がりんごより、かつ地獄のように紅く染まったアイティールが泣きながら立っていた。


「殺す気かよ。俺でも死ぬぞ。場所が悪きゃな」


 真耶はそう言って服を修復すると、血が流れ出てきて止まらない頭に包帯を巻く。そうすることで止血したのだ。


「じゃあ、服が直ったら行くぞ」


 真耶はそう言って服を修復するスピードを上げた。そうすることで、通常では時間がかかるところを一瞬で直すことが出来る。


「よし。全部直ったな。じゃあ行くぞ」


 真耶はそう言って立ち上がる。そして、何事もないようにゲートを開く準備をする。


「待つにゃ。真耶はゲートを開けられにゃいにゃ。今の真耶がゲートを開くには、魔力回路が耐えきれにゃいにゃ」


 アイティールは少し疑問に思ったのか、首を傾げながら言ってくる。真耶はそんなアイティールに向かって言った。


「時空を超えれば耐えきれないな。だが、この世界のみなら簡単に開ける」


「だが、この世界だけだとアヴァロンまで行けにゃいにゃ」


「あぁそうだ。だから、強くすればいい。この、『古代武器アーティファクト精霊達の羅針盤ピクシーズコンパス』で通常のゲートを強化させて時空を超える」


 真耶はそう言ってポッケからコンパスのようなものを取りだした。


「なるほどにゃんね」


「ま、成功するかは知らんが、やってみないことには分からんだろ?」


 真耶はそう言ってピクシーズコンパスをジャケットの内ポケットにしまうとゲートを開く。そして、ピクシーズコンパスの力を発動した。すると、そのゲートは時空を超える力を持つ。


「ほら、出来ただろ?」


「ほ、ほんとに出来たにゃ……」


 アイティールはその光景を目の当たりにして言葉を失う。真耶はそんなアイティールに意地悪そうな笑みを浮かべると、直ぐにその中に入った。アイティールも続けて中に入る。


「……」


 中は普通のゲートと遜色なかった。いつも通りいくつもの時空の扉があり、それぞれ世界が別れている。


 真耶はそんな世界がいくつもある中、アヴァロンへと向かって突き進んだ。しかし、アヴァロンに近づくにつれて、時空間も歪んでいく。恐らく何かしらの妨害魔法がかけられているのだろう。


「真耶、危険にゃ!どうするにゃ?」


「猫耳、もっと近づけ」


 真耶はそう言ってアイティールを自分に近づけさせる。


「猫耳言うなにゃ!次言ったら口聞いてやんないにゃ!」


「へいへい。そうプンプンすんなよ。てか、俺から離れるな」


 真耶はそう言ってアイティールを抱き寄せると、絶対話さないように右腕で抱きしめ、歪んだ時空間を突き抜ける。


 全速力で突き抜けていると、だんだんアヴァロンが見えてきた。真耶はそこに向かって突撃する。そして、2人は無事にアヴァロンに行くことが出来た。


 ゲートをくぐった先は、何故か城ではなく上空だった。真耶は普段から城の転移装置がある場所に固定しておいたのだが、どうやら変えられているらしい。


 真耶はその光景を見て言葉を失った。アイティールは、入った時に唐突な光に目をやられ、中々開けられない状態になっている。しかし、それも直ぐに落ち着いてきて目を開けると、一瞬で言葉が消え去った。


 なんと、アヴァロンはめめちゃくちゃに壊されていたのだ。今回真耶が出た場所が草原の真上だったのだが、その草原は静かで清々しい風が吹く場所だったはずが、地面は抉られ風は、禍々しく、熱く苦しい不穏な風が吹いていた。


「にゃ、にゃんで……!?こ、こんにゃの、にゃあが見たものと違う……!」


「バタフライエフェクトか……。どうやらお前の言う正解のルートってのは、100を1度0にして、0から新しく作り替えていくルートの事だったらしいな」


「っ!?にゃ、にゃんで……そんなこと……にゃ、にゃあはもっと、幸せな未来と思ってたのに……」


「未来というのは分からない。お前が見えるのは、今の俺の未来じゃなくて、パラレルワールドの俺の未来だ。この世界の俺の未来は崩壊してしまったと言うだけだ」


「ま、真耶は嫌じゃにゃいのにゃ!?」


「嘆いたところで何も始まらない。ここに来たのは、アヴァロンを救うためってのもあるが、モルドレッドとアーサーに会うためだ。行くぞ」


 真耶はそう言ってゆっくりと上空から地面に降りる。そして、周りを見渡して王城がある場所に向けて歩き出す。


 アイティールはそんな真耶の腕から離れて、ゆっくりとその足で壊れた地面の上を歩き始めた。

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