現実世界で呪われ体質な俺が異世界では呪われ武器で無双する!?~異世界でも呪いってなんなんだよ!!~

いさかな

呪われ体質ってなんだよ!

呪い


それは、古今東西あらゆる場所にある人の悪意と憎しみの象徴。怨みの権化。

人類の戦争を影から支えたと言っても過言では無く、歴史上の人物のほとんどが誰かしらに呪われているとかいないとか。有名人はそれだけ恨みを買っているということなのだろうか?


しかし呪いのタチの悪いところというのは相手を呪ってはい終わりというものでは無いということだ。

人を呪わば穴二つ、なんて聞いた事があるかもしれない。

呪いは連鎖し受け継がれ、そして帰ってくる。

呪われた人間よりも呪った人間の方が悲惨な目にあうというのはよくある話。

一族諸共呪いの代償に死んでいったという記録も、生きたまま全身の皮が剥がれ落ちたなんて記録もある。

嘘か誠か、昔の人達の間には呪いというのはやはり実在したようである。

しかし、化学の発展に伴い呪いというあやふやな文化が廃れていった現在。

既にそれは単なるおまじないや錯覚と言われるようになってはや数十年。

呪うという文化は無くなり、儀式や信仰すらも失われたはずであった。


そう…そのはずなのだ。


「どうしてこうなってしまったかなぁ…」


俺こと、千呪せんじゅちぎりの目の前にあるのは呪われた人形、呪われた呪術書、呪われた藁人形に、呪われた靴。

見渡す限りの呪物、呪物、呪物の山。

一度出会ったが最後、捨てても壊しても何をしても最後には戻ってくるというまさに呪いの品たちが勢揃いなのである。


「はぁ…」


ため息によって幸運が逃げるという言葉がちぎりの脳裏を過ぎる。

しかし過ぎるだけである。

もう根本的に生きてきた人生に概ね幸運と呼ばれるような事象は存在せず、むしろ吐く息に呪いを込めて全て吐き出してしまいたいというよく分からない諦めの気持ちがさらにため息を加速させる。


では一体何故、何があって、一体全体どうしてこんなにも呪いの品々が部屋を埋めつくしているのかについては長く永く語る必要があるためここでは割愛することにする。


これだけ呪われているんだから対策は何もしなかったのかって?そりゃしたさ。

こんなにも呪いの品に好かれる俺だって一応の努力はしてみた。

お祓いに行ったり、滝に打たれてみたり、有名な陰陽師の先生や祓魔師を尋ねてみたり、ネットに書いてあるよく分からない儀式に手を出してみたり。


まぁ全て無駄に終わった訳だが。

無駄というかネットの儀式に関しては新たに変なものを生み出した。きっと本来神聖な儀式が何らかの形で変わっていき俺の番でとばっちりが来たのだろう。もう慣れた。


最初の呪物が俺の元に来て十数年。なんだかんだと色々やってみたがお祓いに行こうが滝に打たれようが何をしようがこいつらは帰ってきた。

もしかしたらそれはあの先生方が偽物だったのか力が足りなかったのかは分からない。もしかしたら世界のもっともっとすごい人に頼めば俺もこの因果な運命から開放されたのかもしれない。

そんな金は無かったわけだが。


そして色々試しているうちにある時閃いた。

むしろこのことをネタに有名人になれるんじゃないかと。

呪いの品というのは持っているだけでも希少なのにこれだけ集めているのは世界に俺しかいないのではないか。

テレビやネットでは呪われ有名人としてスーパーなスターになれるんじゃないかと。

あわよくば世界的な解呪専門家に俺を見てもらえるんじゃないかと。

そんなことを妄想した時期もあった。


しかし結果はまるでだめ。

まるで″呪われてる″んじゃないかと言うほど有名になれない。こんなにも証拠が揃っているにも関わらず不思議な程に誰からも信じて貰えない。

友達や家族からは既に頭のおかしいコレクターとして認識されている。


そんなこんなな数年間。

色々足掻いて俺はようやく悟った。俺のこのよく分からない呪いは一生一緒についてまわるのだと。俺は一生奇天烈なコレクターと思われるのだと。



まぁここまで悲観的にプロローグを語ったわけだが実はそれほど困ってもいない。

呪いの品と言いつつ嬉しいことに実害はほとんどないからだ。

捨てさえしなければ突然カバンの中に現れたり、頭上から落ちてきたり、寝ている時に口の中に挟まっていることもない。つまり捨てなければ大丈夫なのだ。


「この部屋の惨状は実害といってもいいかもしれないが」


呪物で埋まった部屋。これが俺の部屋である。いつもと変わらない光景だ。

しかし穏やかに眺めてもいられない。これ以上呪物が増えると本格的に部屋が耐えられない。多分、というか十中八九呪物は増えるのだから。


早急に対処しなければいけない問題は部屋の拡張である。


「ん?これなんだ?」


ふと何か光っているものを呪物の奥に発見した。

ごちゃごちゃした部屋をかき分けて手を伸ばす。


「コイン…?」


拾ってみてようやく分かったがそれはどうやらコインのようだった。それもただのコインではなくドクロが刻み込まれた。


不思議なこともあるものだ、見知らぬ物が部屋にあったら普通の人は困惑するのであろう。

ただこんなことには既に慣れっこである。日常茶飯事で、日常呪われ事である。

部屋の中に見慣れないものがあった、ということはそれは十中八九呪物。見慣れている呪物の中に見慣れない呪物があったというだけの事だ。なにも驚くことは無い。


「どこかでこいつに呪われたんだろうな。正直今のところ幅を取らなくて助かる」


これがもしも2メートルを超える刀や、やたらでかい石や髪が伸び続ける日本人形だったらこの部屋に入らなかったところだ。ちなみに今言ったもの達は既に部屋にある。部屋が狭いのはこいつらが原因の3割りは閉めているだろう。

でかい呪物は扱いだけでなく置く場所にも困るのだ。


「しかし趣味の悪いコインだな。なんだこれ?悪魔…?」


趣味が悪いのは呪物だからだというツッコミはしてはいけない。このコインは呪物の中でもいっそう気味が悪かった。

よく見ると描かれていたのは確かに悪魔のようであった。

がしかし、抽象化されすぎていてよく分からない。

わかることと言ったらどうやら耳は4つ目も4つ口は無いという不気味な風貌をしているということだけだ。


「ん?これは文字か?」


よく見るとコインの縁に奇妙な文字が刻まれていた。

一筆書きのように全ての文字が繋がっているので他の人には何かの模様のように見えてしまうかもしれない。というか模様に見えるのが普通なのだ。

だが俺はこの文字に謎の既視感を覚えていた。

何故だろうこれは文字だ、文字でしかないのだ。そう認識できる。何故だろう。


「¥;'++:^%」


気付けば俺は何かを口に出していた。日本語でも英語でもない俺の知らない言語。

だんだんとコインに吸い込まれるような錯覚を覚える。綺麗だと思う。無いはずの悪魔の口が開くのが見える。

全身の毛が逆立つのを感じた。


「!?!?」


その瞬間やっと我に返る。呑まれた、そして理解出来た。

これはコインなんかじゃない。これは…これは?

思考にモヤがかかる。


あぁくそ、呪物だと知っていたはずなのに油断した。今まで何も無かったから、こちらがなにかしなければ何もしてこなかったから。頭がまわる。もしかしたら危機に瀕して脳細胞が活性化しているのかもしれない。


もっと気をつけていれば、もっと慎重になっていれば、もっと、もっと、もっと


………いや、やめよう。


油断したとかしてないとかそんなことは関係ないのか。関係ないのであろう。

呪いというのは呪われた時点でどうしようもない。そういうものだ。

たまたま。たまたま運良く今まで呪われて生きていた。それだけの話だ。


いつかはこうなる日が来ると心のどこかで確信していた。

意識が薄れていく。

もう何も考えられない。


「オレはやっぱり」


″呪われている″


混濁した意識の中で最後の最後に自分への呪詛の言葉を呑み込んだ。何故かは分からない。もしかしたら昔言われた言葉を思い出したのかもしれない。


人を呪わば穴二つ。


最後の最後に自分で自分を呪うなんてそんなのできるはずがない。来世まで呪われてしまいそうだ。

呪いの面倒くささは俺が一番分かっているのだから。



そんな他愛の無いことを考えながら。俺の意識は深く深く、落ちていったのである。



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