第十三章〜聖剣の担い手は闇の中でこそ輝く〜

0.谺。

「……いつまで盗賊退治なんてやるわけ? そろそろ私、飽きてきたんですけど。」


 あまり整備されていない街道を、不満を垂れながら赤髪の少女が歩く。その前を長身の女性と、薄ら笑いを浮かべる男が歩いていた。


「いやあ、俺も飽きてきたんだけどね」「物語の裏側には死ぬほど地道な準備パートが必要なワケ」「俺も準備しなきゃいけないし、君達も強くならなくっちゃ」


 矢継ぎ早に男はそう答えた。赤髪の少女はそんな答えがくるのが分かっていたのか、特に駄々をこねる事もなく項垂れた。

 それを見て長身の女性が口を開く。


「で、でも確かに。こんな生活、いつまで続けるんです、か?」

「この活動は俺達の目的には合わない」「無駄で嫌って気持ちも分かる」「けどこればっかりは時間をかけなきゃいけない」「一度失敗すれば俺達は負けちゃう」


 男は雲一つない青い空を眺めて、知恵を巡らせる。


「俺の目算が正しければ、次かな」

「次? 次って何の次、ですか?」

「今の次だよ」「ちょっと説明が難しいね、これは」


 長身の女性は余計に分からなくなったのか首を傾げた。彼女らにとってはこの意味深な物言いはいつも通りの事である。

 ちゃんと聞けば答えてくれるのだけど、その詳細までは何を言っているか理解できない。だから三人で旅を始めて長くなるが、未だに二人はこの男の計画の全容を知らないのだ。


「想定より大分遅れる事になったのは認める」「俺にとってもちょっと想定外の事が多過ぎた」


 人生とはままならぬもの。計画には予想外の出来事がつきものだし、とんでもない見落としをしていた、なんて事はよくある話だ。それは悪の秘密結社だろうが地球を守る防衛軍だろうが変わりない。

 重要なのは最終的に上手く行くようにプランを立てる事である。それを男はよく理解していた。だからこそ、彼は時間を多く見積もっている。


「この世界はほとんど」「俺が想像していたより何倍も、だ」

「詰んでいるって、何なのよ。いい加減ハッキリ教えてくれないと腹が立って仕方ないわ。」


 男はふと立ち止まって後ろの二人の方へ振り返る。そして3本の指を立てた。


「一つ、魔王軍」「二つ、名も無き組織」「三つ、その他大勢」「こいつらが同時に攻め込んできて勝つのは難しい」

「……その他大勢って?」

「そのままの意味さ」「俺が視た限りだと、悪魔とか剣士とか魔法使いとか」「あらゆる分野の実力者が力を貸す事になるだろうね」


 赤髪の少女は依然として納得がいっていない。相変わらずこの男の言うことはいまいち要領を得ないままだ。


「そもそも本来ならもう終わっている」「奇跡的にグレゼリオン王国が上手く立ち回ってるから何とかなっているだけだ」


 そう言われれば確かに赤髪の少女も覚えがあった。4、5年前の第二学園の学内大会におけるヴェルザード次期当主の暗殺未遂、約1年前の王選での一件。どれも新聞の見出しになるような大事件ではあったが、幸いにも高名な貴族は誰一人死んでいない。

 というのに、王選時には王子の暗殺未遂が起きるほどだ。これでもし成功していれば国内はもっと荒れていたに違いない。そして『最大国家』たるグレゼリオンを崩れれば、如何にして世界のバランスが崩れるのかはもはや言うまでもない。


「加えてこれに勝てたとして、それで終わりじゃない」「だから詰んでるんだ」


 そう言って男は再び前を向いて街道を歩く。今度は呼び止めても返事はこない。ただ男はへらへらと、張り付いたような笑みを浮かべていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る