23.それでも
俺とエルディナは再び部屋の前に立つ。
無論、勝機を見出せたからだ。ガレウが立案した策には命をかけていいほどの確証があったし、何より無理そうなら引けば良いだけの話だ。
理由は分からないが、こっちまでは追ってこないらしいからな。
「準備はいいよな?」
俺は二人へと問いかける。二人が無言で頷いたのを見て、俺は前に立つ
「チャンスは一度きりだが、失敗しても切り札がないわけじゃない。気負わずにやってくれ。」
「切り札って何よ。」
「それはピンチになってからのお楽しみってことで。」
「気になる言い方をするわね。」
そうエルディナは言うが、流石に明かすことはできない。
切り札とは言うが、確実に状況をひっくり返すほど強力なものじゃないし、秘密にしておいた方が安心できる類のものだ。
「それじゃあ、行くぞ!」
そう言って俺が真っ先に部屋へと入った。その瞬間にそいつは俺を睨みつけ、再び起動し始める。
「『
赤き炎の鳥となり、即座に放たれた魔力の弾丸を防いだ。
そしてエルディナがその後ろで、眼を開き、風の大精霊の力を十全に発揮し、この空間の全てへと知覚を走らせる。
そいつ、
全てを弾いてしまえば中にいるだけで窒息死してあの世行きだ。
結界は万能ではない。必ず通して良いものを決めて、それを結界に判断させて通すという風に無意識化に設定しているものだ。
「――見えた。」
エルディナがそう呟いた。俺が攻撃を防いで、十数秒経った頃であった。
空間を感知する魔法というのは、張り巡らす魔力はそう大したものではない。これを防いでしまえば大気中の魔力さえも通せないことになる。
だからこそ、エルディナが時間をかけさえすれば、この空間の全ての把握だってできる。
『あの
ガレウの言葉を思い出す。
そもそも
その意識と接続する回路がおかしいのだと、ガレウは予測した。
『だけど経年劣化で壊れるような設計で、七大騎士を集める役割を担うなんて考えられないじゃないか。となると入口にいたあの女の人が、名も無き組織の人間であると決め打つなら……』
名も無き組織は七大騎士を殺したがっていた。あの女が名も無き組織の人間という事は、場所は既に分かっていたということだ。
ならば対抗策を一つも打たないほど馬鹿じゃないだろう。
『妨害する装置のようなものが、どこかにつけられているはずだ。』
「首の後ろ。明らかに特殊な魔力を発している異物があるわ。」
「予想的中だな!」
首の後ろというのは厄介だ。まず後ろに回り込む必要があるし、回り込めても常時展開されているあの結界を壊す必要がある。
だが、結界は万能じゃない。やりようはいくらでもある。
結界魔法には即時型と持続型がある。即時型は一瞬での展開が可能だが、持続性に欠け、持続型は展開に時間がかかるが、持続性に長ける。
常に使い続けてる様子から見てこいつは後者であるに違いない。
「『雛鳥』」
俺は数十羽の小さな鳥へと姿を変え、分裂する。
持続型の結界というのは、結界自体に周囲の魔力を利用して持続させるという特性が付与されている。故に展開に時間がかかる。
しかもこの強度であれば、無敵の城塞となんら変わらない。
「行け、ガレウ!」
そして一人だけ、部屋の外にいたガレウがこのタイミングでやっと中に入った。
ガレウの暴食であれば、どんなに頑丈で凶悪なものでも、全部喰らえてしまう。そのガレウを俺とエルディナで守り切り、接近させられれば俺達の勝ちだ。
「『
そいつの体は変形し、体内からいくつもの銃口が現れ、部屋の全方位へと向けらける。
飛び回る俺を一発で撃ち落とす為だろう。しかし、だ。そんな簡単に撃ち落とされてやる気など毛頭ありはしない。
「人器解放、無題の魔法書。」
大軍用の武装と、対個人用の武装は違うだろうよ。雛鳥を撃ち落とす程度の銃撃であるのならば、真正面から叩き斬ってやる。
「『
鳥の中から一羽だけが人の姿へと戻り、宙を舞う一冊の本と共に、右手には終焉の剣を連れて、眼前へと迫る。
俺ならば、きっとこいつは倒せない。だが、親父ならば、賢神第三席にも届いた親父であるのならば、届く可能性だってある。いや、届いてみせるとも。
「『
「防げるもんなら、防いでみやがれ。」
再び体を変形し直し、今度は巨大な大砲のように体が変化する。反動を抑えるためか、地面に体から金属の棒を落とし、体を固定した。
さっきまでは人の姿が微かに残っていたが、今回はそうではない。文字通り、体の殆どが大砲そのものへと変化をしていた。
「『
「『
銃身から放たれた純粋な魔力の砲撃は、俺の炎の剣と真正面から対峙する。
手が熱い。この剣は元より俺が扱うには高位過ぎる魔法なのだ。人器があるからこそ、こうやって握っていられるが、それでも制御しきれない。
これを平然と使っていたのだから、俺の親父がいかに凄かったのかは容易に想像できる。
「負けて、らんないよな!」
だからそこは、気合でなんとかする。
俺の魔法が少しずつ、散っていくような感覚があるが、その逆に、砲撃が少しずつ弱まっている感覚もある。
何秒経ったかなんてわからないし、一秒すら経っていないのかもしれない。刹那を永遠と感じるほどの集中力が、俺の中に勝てと渦巻いている。
しかしこの世に終わりは必ず訪れる。絶対的な自然の法則に従い、世界は単一の答えを出す。
全てを飲み干す砲撃と、全てを燃やし尽くす剣は、高濃度の魔力を放出し続け――
「上出来だな。」
互角、即ち互いに打ち消し合い、何も生まないという結果を叩き出した。
そいつは再び元の姿へ戻り、油断なく俺を見る。一対一であるのならば、切り札が通用しなかった今を憂うべきなのだろう。
だが生憎にも、こっちは三人態勢だ。
「喰らい尽くせ。」
背後に立つガレウが、その首元へと手を伸ばす。それは触れるだけで容易く結界を飲み込み、首に届くには一秒もかかりはしないだろう。
ガレウの
「『
「――は?」
それは誰の声だったか。漏れ出た俺の驚愕の声か、それとも今、体を魔力によって縛られ、その手が届かなかったガレウの声か。
しまった。
そう思ってももう遅い。相手は機械だ。油断や、不意なんていう概念なんか存在しないのだという事を忘れていた。考えすらしなかった。
その結果、ガレウは拘束され、床に転がっている。殺されてしまう。
体は勝手に動いた。ここで止まるほど、浅い経験は積んでいなかったようだ。無題の魔法書の空間収納効果によって仕舞われていた、一つの魔石を取り出す。
「間に合えッ!」
そしてその魔石を、俺は全力で、そいつへと投げた。
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