23.神の正体①
第二学園の学園長室に俺を含めた5人が集まった。
一人は勿論、世界最強の魔女にして学園長でもあるオーディン・ウァクラートだ。自分の椅子にだらしなく座っている。
その近くに鋭い蒼い目を輝かせながら、アルドール先生が立っていた。
そして学園長の向かいの方の椅子には3人の生徒が座っている。
一人はアースで、一人はお嬢様、最後に俺だ。
この人選から、何となくではあるが話す内容は想像がついた。
「それじゃあ、集まったようじゃし、始めようかの。」
学園長の言葉で話し合いは始まった。他ならぬ学園長がこの人を集めたわけだからな。
そういう場を作るようにお嬢様がお願いしたという可能性もあるが。
「先ずは何が起きたか、じゃ。アース、説明せい。」
「……その為に俺様が呼ばれたのか。」
アースは王族であり、王都が王族の直轄地であるが故に、今回の一連の事件の処理に追われていた。
だからこの話し合いも、決勝があった日から既に一週間もの時間が経過している。
「名も無き組織と呼称される団体の幹部、七つの欲望の内二人が王都に出てきた。片方の睡眠欲はアルスとアルドール、怠惰欲はフィルラーナが対応して、追い返すのはできたが、撃退及び確保は失敗。」
「被害はどのくらいじゃ?」
「基本的にはただ異常な程の睡眠をしていただけで、相手にしては被害は少ない。けど、それでも行方不明者を死んだと考えるなら23人も死んだ。」
アースの言葉に少し引っ掛かりを覚えるが、直ぐに納得する。
俺が行った酒場は、肉は飛び散り、捩じ切れ、人の原型すらもまともに留めていない凄惨な状況だった。
あれでは誰が死んだのか、何人死んだかも分かりやしない。
「そしてそれとは別だが……アルスの中にいたツクモという神の出現。以上が学内大会の日に起きた出来事だ。」
アースは俺の方を見ながら、そう言った。自然と俺の方へ注目が集まる。
今回の名も無き組織の目的はハッキリとしていた。それに対し、俺の事は不可解な事が残り過ぎている。疑問に思うのはおかしい事ではない。
「先ずは名も無き組織の方から始めようかの。アルドール、報告を頼む。」
「……アルスから聞いた限りでは、自分の事を『睡眠欲』のスエと名乗っていたようだ。恐らくは睡眠、正確に言うなら相手の能力を下げる力を持っていると考えられる。」
俺に悪夢を見せたあの少女、アレにはそもそも魔法が届かなかった。
しかし徐々に威力が減衰して、消えていくようにも見えた。その事から、自分の近くに行くものの力を弱らせる力がある、という風にアルドール先生は結論付けたわけだ。
魔法とは全くの別の力として捉えていいだろう。ダンジョンに現れたカリティもそうだった。
「有効範囲は確認できた限りで二、三百メートル。その範囲にいるもの、その中でも魔力量や闘気量が少ない者が強制的に眠ってしまう、といった様に見えた。」
「戦闘能力についてはどうじゃ。戦ったんじゃろう?」
「戦いはした。だが、攻撃はして来なかった。私の魔法を全て防ぎ切り、適当なタイミングで突然と姿を消した。転移系の能力を持つか、そういう仲間がいると考えた方が良いだろう。」
そう締めくくり、アルドール先生はお嬢様の方へ目を向けた。
それを見て、今度はお嬢様が立ち上がり、口を開く。
「それでは今度は私から。私は闘技場の地下にある立ち入り禁止区画にて、怠惰欲のトッゼと名乗った少年と遭遇しました。そして軽度の交戦を行いました。」
「そう言えば聞きそびれておったな。なぜそんな場所に行っていたのじゃ?」
「嫌な予感が、したもので。」
「……運命神の加護か。便利な力じゃのう。」
便利というのは認めるが、何より凄いのはお嬢様のメンタルだと思う。
何が起きても冷静に、確実に完璧な対処を取れる。最善手を打ち続けるというのは、言うより何倍も難しいことだ。
「能力は影であると、私は考えました。影から伸びる手や、影から黒い剣を出したりしていたので。」
今まで俺達が遭遇した幹部は四人。二人は今回のスエとトッゼ、一人はカリティ、もう一人がアースを襲った青髪の男である。
その一人残らずが、とんでもない程の強者であり、超常的な力を使う事が多い。
お嬢様が生き残れたのは奇跡と言って相違はないはずだ。
「こういう緊急時用に準備をしていたのは幸いでしたね。精霊王召喚の札を使い、精霊王様の力を借りて追い払うことはできました。」
「うむ。本当に感謝するぞ、フィルラーナ。お主がいなければ、被害は大きいものだったじゃろう。」
そして一呼吸を置き、学園長は俺を見た。
「じゃあ最後にアルスについて、わしとアルドールで調査をした事を話そう。」
そしてやっと、今回集まった本当の理由へと入る。
名も無き組織については気にならないわけではないが、いつも通り、起きた事以外の情報は落ちて来なかった。
あの二人の容姿と名前から捜索をかけたが、出身地すら分からずじまいだった。
しかし俺と情報は出てこないわけではなかった。神というものが何なのか、それは現代でも完全に分かっているわけではないが、分かっている事もあった。
「神というのは全ての開闢の時代から、理由も分からず存在した超常的存在とされておる。それが万物を創造し、今わしらが住まう世界がある。その中でも重要なのが、この世界における神とは何なのか、じゃ。」
この世界において、地球とは違い、神とは朧げな存在ではない。
通常、人と関わりを持つことはないが、お嬢様の運命神の加護のように間接的に関わる事はある。更に言うならば、数百年も前だが、神がこの世界に降りてきた事もあるらしい。
だからこそこの世界において、宗教戦争というのは存在しない。神というのは、絶対にして共通のものであるからだ。
「神とは最高神である支配神に、その力を分け与えられた存在、もしくは力そのもの。それぞれの神が司る何かを持ち、神の証と言うべきか、神力という万能のエネルギーを体内に内包しておる。」
「しかし、神は自由ではないのだよ。最高神によって、絶対遵守のルールが与えられている。」
学園長の言葉を、アルドールが補足し、そのまま言葉を続けた。
「今回重要なのはその中の一つ、神が住まう神界から出れないという点だ。神は神界から出た時点でその神性のほとんどを失い、ただの人に成り下がり、その力は最高神の元へ戻る。」
神の定義は神力をその身に宿す存在。その神力は神性と言い換える事もできる。
だからこそ、この世界では神界の他に神性を持つ存在はいないはずなのだ。俺の中にいる、ツクモという例外を除いて。
「しかし事実として、アルスの中には神性が存在し、今も眠っている。これは即ち、この世界の法則が適用しない神、異界の神であるという証明に他ならない。」
異界、と言われても普通の人ならピンと来ないだろう。
しかし俺には思い当たりがあり過ぎる。ただその事に関しては、俺はあえて口を開かず、二人の言葉をそのまま聞いていた。
「そして、実在証明は成されてはおらんが、異界から来たと言う人間は間違いなく歴史上に存在しておる。チキュウ、アース、テッラという星から、自分達は来たと言うやつがの。」
テッラは知らないが、恐らくだが地球という意味があるのではないのだろうか。地球に
惑星の名前が、どの言語でもアグレイシアに統一されているこの世界じゃ、想像すらつかないのだろうが。
「その中のチキュウ、それから来た神だとその神は言っておった。だからこそ、チキュウ出身の異世界人が残した故郷の神に関する記述。それをこの一週間で調べておいた。」
しかし俺みたいな凡人よりよっぽと、真実へと迫っていた。
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