25.旧代の騎士
俺は読み終えたヘルメスの手紙を雑にそこら辺に置く。
書き方が異様に腹立つのと、信じられない内容だったからだ。
「数百年前の人物が復活して、そしてカリティを追い払ったって?」
どんな小説のプロローグだよ、それ。
転生者の俺が言えたことじゃねえが、ファンタジーにもほどがあるだろ。
「そんでそいつがダンジョンの床ぶち破って、そんで地上に帰ったって、無茶苦茶過ぎるわ。」
ダンジョンの床は第十階位の魔法でも傷つくかどうかって代物だ。それを何十階層分も壊すなんて、とてもじゃないが人間技だとは思えねえ。
というかそもそも本当にそいつは人間なのか。鬼とかそっちの可能性の方が高い気がするんだが。
「わりいな、無茶苦茶で。」
「ああいや、別……に?」
手紙を読んで深く考え込んでいたせいか、病室に人が入ってきたのに気付かなかった。
その男は乱暴にそこらの椅子を引っ張って座る。
「……どなたでしょうか?」
「俺はケラケルウスだ。あと、敬語は止めてくれ。商人でも貴族でもねえのに敬語なんざ使うもんじゃねえぜ。」
ケラケルウス、確か手紙に書いてあった。数百年前の人物であり、俺達を助けた人物だ。
俺は慌ててベッドの上で正座する。
「ありがとうございました。」
そして頭を下げた。
俺の命を、ティルーナとヘルメスの命を助けてくれた恩人だ。感謝してもし切れないほどの大きな恩が、俺はこの男にある。
ならば何よりも先に頭を下げるのが道理というものだ。
「ティルーナを助けてくれて、本当にありがとうございました。」
「……おめえはまだ子供だ。俺に礼なんか言う必要はねえよ。むしろ命懸けで戦った自分を褒めてやれ。」
俺がそのままの見た目通りの年齢なら、という話だがな。
生憎と俺は人より少し長く生きている。体に引っ張られて精神年齢は少し下がったものの、それでも俺は十分に大人だ。
それ以前に、男として女の一人も守れない方が問題ってのもあるがな。
「頭上げろ。俺は頼み事しにきただけだ。」
「頼み事?」
「そう。まあそれより先に、ちょっとばかし俺の事情を説明する必要があるな。」
俺は頭をあげ、足を組み替えてあぐらをかいて座る。
地球なら礼節に欠ける行いだが、平民ってのはこんなもんだ。みんな平等だからみんな態度がでかい。
だから一応、これでも礼儀正しい方なのだ。
良心の塊であるガレウですら敬語が使えないのだから、そういうものと慣れるしかない。
「数百年前、三大国家の一つにも数えられた帝国があった。それこそが俺の祖国、オルゼイ帝国だ。」
オルゼイ帝国は授業でもやったからよく覚えている。
もう既に滅びた国であり、七つの騎士団を中心とした軍事国家だったと。
「だが、その後にあった破壊神との戦争でオルゼイ帝国は滅亡しちまった。そこの第一騎士団団長がケラケルウス、つまりは俺ってわけだ。」
「団長って事は、
「その通り。帝国が誇る最強の七人の騎士、それこそが
そう言ったケラケルウスの顔は一瞬ではあるが陰るものの、直ぐに気を持ち直して俺の目を見た。
「……だが、帝国は滅んでもその意思はまだ生きている。俺と同じように、七大騎士は未だに生きている。」
「それはつまり、みんなケラケルウスみたいに石像になって、って事か?」
「それは人それぞれだ。互いのやり方で数百年先に来たる厄災に対抗する為に、俺達は眠りについた。」
歴史上の伝説の存在である七大騎士、その全員が生きているなど信じられない。
だがそれが本当だとするならば目の前の男の強さにも納得がいく。
「本来なら、その厄災を察知して俺達を起こして回る役割の奴がいたんだが、こうやって俺は起きちまったってわけよ。」
「……それって、かなり駄目なんじゃねえの?」
「当然駄目だな! だが、あのカリティって奴が妙に引っかかる。」
確かにカリティはケラケルウスの石像を壊しに来ていた。
無論、関係ない可能性もあるが、疑うには十分な要素であろう。
「何故俺たちが眠りについたのを知っているのか、何故壊そうとするのか、一体何が目的なのか。取り敢えずはそれを知らなきゃ始まらねえ。」
厄災っていうのが、あのカリティが所属する組織の可能性もあるわけだ。
それにケラケルウスが最初に襲われたって考えるより、同時に
「それで、ここからがお願いになる。」
「助けてもらったからできる限りの事は協力するつもりだけど、俺よりもティルーナの方が色々できると思うがな。」
「いや、お前にしか頼めない事だ。」
ティルーナは貴族の令嬢だし、どれを取っても俺より役に立つだろう。
こちとら金もなければ権力もないし、人に与えられるほどの余裕はないつもりなんだがな。
「やっぱり生きるんだったら、金はいるだろ。だが俺はあんまり目立ちたくない。なんせ命を狙われてるわけだからな。」
「……俺は金は持ってないぞ。」
「違う違う、お前のひいおばあちゃんに取り次いで欲しいって話なんだよ。」
そこで漸く俺は合点がいった。
オーディン・ウァクラート、この世界で最も高齢な人物であり、オルゼイ帝国があった時期でも生きていたはずだ。
昔から有名な人だったろうし、知人である可能性も高いだろう。
「まあ別にいいけど、取り次げるかは分からないぞ。」
「お前はオーディンの曾孫なんだろ?」
「いや確かにそうだが、初対面からまだたった数ヶ月だし、ほとんど会ってない。だからそんなに融通は効かないと思うけどな。」
「んん……まあ、会えればどうとでもなる。忘れてる、なんて事はねえだろうし。」
流石に会わせるぐらいはできると思う。
だけど、あっちが俺のことをどう思っているか分からないから、そんなに信用はしていないのだ。
事実、俺はあの人をひいおばあちゃんと呼んだ事は一度もない。
「それじゃ、すまんが頼むぜ。俺は学園に一番近い宿に泊まってるから、行けそうだったら呼んでくれ。」
「金はないんじゃないのか?」
「お前の仲間からちょっと貰ったよ。ヘルメスってやつにな。」
そう言ってケラケルウスは病室から出ていった。
「……マジで、意味わかんねえ。」
カリティが所属する『組織』、ケラケルウスを含む『七大騎士』。正直に言ってあまり現実味はない。
だが、間違いなく存在するのだと理性は分かっている。ただ信じられないだけで。
「本当だとするなら、やっぱりもっと強くならないとな。」
俺は重い体をベッドから出し、立ち上がる。そして大きく背伸びして、体をほぐしていく。
「師匠のところに行くか。」
一通り用事を済ましたら師匠の元へ戻ろう。
教わりたい事は山ほどあるし、色々と聞きたい事もできてきた。
何にせよ、昨日みたいな事は二度と起こさせない。その為に俺は、もっと強くならなくちゃいけない。
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