誕生日
あんちゅー
おめでとう
今日は誕生日だね。
おめでたいね。
特別な日だ。
そんな事ないって?
ううん、とっても特別で、大切な日だよ。
君にとって、とってもとっても大切な日。
勿論、他の人にとっては日常と変わらない365日のうちの一日だけど。
でもね、ちょうど今から28年前。
君は産まれてきたんだよ。
それはとてもとても素晴らしい事で、全世界何十億人の中の1人。
だから今日は祝福されるべきなんだ。
照れ臭い?
そんな事ないって。
みんな平等にあるんだから。
鬱陶しい?
そんな事言わないで。
素直じゃなくていいから、こっそり受けとって欲しいな。
何も形のある贈り物がある訳では無いけれど、僕にとって特別な言葉を君に贈るね。
ねぇ、調子はどう?
毎日元気にやれてる?
辛いことは無い?
悲しいことは無い?
それは良かった。
あっという間だよね、1年って。
あっという間だよね、生まれてから今日までって。
でも、簡単な道のりではなかったよね。
色んな経験をして、楽しいことも嬉しいこともあったけど、それと同じくらいかそれ以上に、辛いことに悲しいこと、悔しいことが、いっぱいあったよね。
君は言わないけど。
どうかな?理想の人間にはなれた?
思い描いた大人の生活に近付いたかな?
全然だよね。
すっごいわかる。
自分が思い描いてた28歳なんかじゃ、ちっともなくて、夢見た自分はすっごく遠くにいて、望遠鏡を覗きこんでも見えやしないくらい遠いんだ。
頑張り屋さんではないし、才能がある訳でも無い。運には見離されてる感じもして、歳をとる度に幸運はこの世に転がってないんじゃないかって思ってしまう。
こんな筈じゃなかった。
こんな人生じゃなかった。
いつだって振り返ればそんな事ばかり思ってしまう。
でもね、そんな艱難辛苦全部が君の敵じゃないんだよ。
辛い、悲しい、悔しい、妬ましい。
とめどなく溢れる人の感情の中でも嫌なものばかりが、何の気もなしに頭いっぱいに湧き出してくる。
けどね、次から次へと溢れてきて、もうダメだって思っても、それがずっと続いたことなんて無いでしょう?
少しでも楽しいことがあれば、どれだけ辛くて塞ぎ込んでいても、にんまり笑顔になれるみたいに。
嫌な感情なんて、小さな笑いひとつで吹き飛んでしまうくらいにちっぽけなものなんだ。
むしろ、それらを全部力に変えられる。
吹き飛ばした後に残った小さな燻りが、人を強く大きくさせるんだよ。
でも、毎日そんな風に思っていれば、吹き飛ばす力もなくなってくるからさ、今日くらいは全部忘れてしまってもいいんじゃないかな?
明日も頑張って乗り越えられるように、今日くらいは全部忘れて、産まれた時の自分を思い出したっていいんだ。
何にもないからっぽの、それなのにすっごく愛されてた、あの頃の自分を思い出してみて。
人はいつからか積み重ねたものに優劣をつけるようになって、それらを見比べるだけで価値を決めてしまう。
生まれた時は何も無いのに、生まれるだけ、立ち上がるだけ、話し出すだけで祝福されたあの頃とは違うと思ってしまう。
でも、君も僕も同じ人間で、生まれた頃の君も同じ人間で。
世界中誰もが同じに、途方もない確率の上に生まれてきてんだ。
だから、どんな謙虚な人だって今日くらいは自分を誇ってもいいんだよ。
長くなったね、説教臭いし。
ごめんね、図々しく独り言みたいに言ったけど、これだけが伝えたかったんだよ。
ありがとう、産まれてきてくれて。
ありがとう、生き続けてくれて。
ありがとう、色んな景色を見せてくれて。
何よりも、誰よりも大切な人。
お誕生日おめでとう。
この1年が素晴らしいものでありますように。
また来年同じようにお祝いの言葉を言えますように。
僕は心の底から願っています。
誕生日 あんちゅー @hisack
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます