不倫の厳罰化

ちびまるフォイ

社会的な罪の重さ

『先日、週刊誌で不倫が報道されていた芸能人ですが

 不倫を認めたことにより死刑となりました』


ニュースを見ながら妻がため息をつく。


「やあねえ、また不倫だなんて。

 死刑になるのになんでするのかしら」


「さあ、なんでだろうね」


「スリルとかを求めるのかしら?

 男って本当に意味わからないわ。

 あ、それと、今回もよろしくね」


「ああ、わかってるよ。もう手を回してる。それより……」


「それより?」


「来週、高校の同窓会があるんだ。

 休日に家をあけるけど大丈夫かい?」


「あらそうなの。楽しんできてね」


来週、ふるさとに戻ると同窓会の会場では懐かしい顔ぶれが揃っていた。


「うわあ。みんな年取っても顔つきは変わらないなぁ」


昔のように人見知りだったり、明るかったりの境界線は薄まり

みんな仲良くお酒を飲み交わせるのは大人になったということなのだろうか。


酔いも回ったころ、私は高校のときにフラれた彼女に声をかけた。


「久しぶり。元気にしてた?」


「うん。そっちも元気そうでよかった」


「実は、あのとき告白してからも諦めきれなくて

 いつかまた告白するタイミングを見計らってたんだ」


「なんとなくわかってた。だって通学路私の方に寄せてたでしょ」


「うわバレてたのか。それは恥ずかしいなぁ」

「あれだけ鼻息あらいとね。わかっちゃうよ」


お酒も手伝ったのか、かつてのあこがれの子との会話ははずんだ。

失敗したのはその場の楽しい空気感に乗せられてしまったこと。


気がつくと視界がぐるぐると回っていた。


「あれ? あれれれ……?」


「ちょっと、大丈夫? お酒そんなに強くないんでしょ?」


「おかひいな……ふらんはこれくらい……」


「た、タクシーー!」


まともに歩くことも話すこともできなくなったので、

彼女に連れられて近くのホテルに担ぎ込まれることになった。


時刻はすっかり遅くなり、

自分を運んだことによるタイムロスで終電は失われていた。


「もう……飲みすぎよ、〇〇君」


「あわwgりgじrjふぃえwjふぃwj」


何を話しているのかもうわからない。

翌日、窓から入る日差しで目が覚めた。


部屋には自分ともう一人彼女がいた。


「え!? え!? な、なんで!?」


「昨日のこと、覚えてない?」


「なにをしでかしたんだ私は!?」


彼女から事のてんまつを聞いて安心した。

しっかりと彼女には介抱してくれたお礼を伝えた。


「……ちなみに、なにもしてないよね?」


「泥酔したあなたと何ができると思ってるの?」


「デスヨネ……」


みじたくを整えて部屋を出たときだった。

なんと路上には妻が仁王立ちして待っていた。


「どういうこと? なんで女のふたりでホテルから出てるのよ!!」


「いや、昨日ちょっと深酒しすぎて……」


「不倫よ!!」


「ええええ!?」


あれよあれよと妻は警察を呼びつけ、私は不倫の容疑にかけられることとなった。


「だから、さっきから言ってるでしょう!?

 本当に何もなかったんですって!」


「その証拠は?」


「証拠はないんですけど」


「じゃあ不倫よ!!」


妻が叫ぶ。


「旦那さん、不倫がどういうものかご存知ですか?

 あなたが不倫してたなら一回で死刑ですよ」


「ごくり……」


「思い出してください。自分の潔白を証明できる人や物はないですか?

 このままじゃあなたは死んでしまいますよ」


「う、うーーん……」


泥酔して記憶もなにもない。

いっそのこと部屋に監視カメラでもあったら救いだったのに。


答えに詰まる私を見て妻が叫ぶ。


「不倫なんて信じられない!

 どうして死ぬかもしれないのに不倫するのよ!!」


「だから何もしてないって言ってるだろ!?」


「なにもしてなくても、同じ部屋に二人でいただけで

 それはもう不倫よ!!」


「ストライクゾーンが広すぎるだろ!」


「私以外の女と一緒に長い時間いるだけで不倫なのよ!!」


「その線引きはどうなんですか、警察的に」


「いやぁ……。なにをもって不倫というかは、まだあいまいなんですよ」


「そんなあやふやな判断基準で私は死刑になるんですか」


「不倫したのに死刑を逃れようとするつもり!?」


妻が自分を死刑台に追いやろうとしている気がして、だんだんムカついてきた。


「君こそ、ずいぶんな言い方じゃないか。

 これまでどれだけ僕がかばってやったと思ってる」


「は、はあ? なんのことですかぁ?」


「窃盗、強盗、暴行、放火、詐欺。

 あらゆる君の悪事をもみ消してやったのに!!」


「そ、それはあなたが好きでやったことでしょう?」


「弁護士の妻が犯罪者だとバレたら、

 こっちの評判にも関わるからだ!」


驚いているのは警察だった。


「え、ええ!? そうなんですか!?」


「はい。僕が彼女の罪をこれまで消してきたんです。

 でも死刑になるのならもう隠すこともないでしょう」


「ちょっと卑怯よ! 墓場まで持っていきなさいよ!」


「君がそんな態度を取るからだろ!!」


「これから裁判所での判決もありますので、

 どうか過去の犯罪歴を詳しく教えてください……!」


自分がもみ消したかつての事件の洗いざらいを語ってきかせた。

それを暴露したところで、自分の冤罪の証明にはならない。


けれど、黙ってこのまま死刑になるのは耐えられなかった。



「静粛に! 静粛に!!」


裁判官が大声をはりあげる。

まもなく私と妻の判決が言い渡されるだろう。


「夫は不倫をしていない証明ができないこと。

 また、女性とひとばん部屋にいたことを加味し

 不倫であるとここに言い渡す」


私はがっくりとうなだれた。


「よって、夫は死刑とする!!」


判決はくつがえらなかった。


「妻は! 妻はどうなんですか!」


「また、その妻もさまざまな犯罪の証拠が

 夫より提示されたことでこれもまた事実と判定。有罪とする」


判決を聞いた妻は悲痛な声をあげた。


「そんな! それで罪の内容は!?」


裁判官は妻に冷たく告げた。


「窃盗、強盗、暴行、放火、詐欺……。

 その他もろもろの罪をあわせてーー。

 

 

 懲役10年とする!!」





かくして、不倫した自分は死刑となり

窃盗、強盗、暴行、放火、詐欺を重ねた妻は懲役10年となった。

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