喰らう夢
あんちゅー
空腹
丸のまま、全てを飲み込んでしまう。
咀嚼することなく、喉を通り過ぎる感覚だけが私の全てだった。
空腹の衝動は常に心を荒らした。
荒れた心は私の首を絞め、周囲全てを飲み込むような恐怖を芽生えさせる。
明日には全てがなくなってしまう。
それは喰らうことで和らいだから、私はその心に従うように喰らう。
大きいもの。
小さいもの。
均一なもの。
歪なもの。
綺麗なものに、それから汚いもの。
一時の満腹感は恐怖から逃れる術であった。
やがて恐怖から逃れた心のささくれは嘗めされていった。
気が付けば辺りには何もかもが溢れていた。
私はこの世界が満ち満ちていることに気がついた。
ある日それは唐突に訪れる。
空腹が収まらなくなってしまったのだ。
いつもと変わらない食事、いや、世界が満ちてからは困らなくなった食事。
大きなもの。
均一なもの。
綺麗なもの。
一見上等なそれらを、私は自分の喰らう前に改めて手に取ってみた。
それは形ばかりが綺麗に作られた中身のない何かであった。
いつからそれは置き換わっていたのであろうか。
いや、それより、私はいつからそれを喰らっていたのだろう。
初めからなのか、それとも。
忘れていた恐怖が蘇る。
首元を締め付けられる感覚が這い上がってくる。
分からない、分からないけれど、食べなければ。
私は必死に手に取って喰らった。
私を失わないために喰らった。
けれど、もう遅かったのだ。
空腹は紛れず、少しずつ私は死んでいく。
そこで気がついた。
私が恐れていた恐怖感はただ、私自身がなくなってしまうことであったのだと。
もうすぐ私は死ぬだろう。
霞む目に映る世界はまだーーー
未だにどこまでも満ち満ちていた。
喰らう夢 あんちゅー @hisack
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます