虫の王国(帝国騎士団の逆襲)

スノスプ

第1話 風の鳴る丘


「それで、最初に降り立つ場所の確認が必要だ」会議室に声が響いた。マップを見ながら考え込む。


 20の宇宙戦艦が数ヶ月の道のりを進んでいた。乗員3万5千人の中から、12名がこの会議に参加している。着陸強襲部隊2000人を率いる強襲部隊司令官1名、副司令官2名、そして、6名の暗殺者リーダー。後方援護を担当する2名も含まれていた。この会議の中心には艦隊全体の総司令官がいた。


「大海族は現在、3億6千万もの軍勢を率いて、ライラ王国やシルシア王国を中心に3000の王国を支配下に収めています」と報告した。「3000もの王国をたったの2ヶ月で制圧する? そんな命令が本当に出ているのか?」「はい。作戦は可能という結論に達しています」と返される。「信じられない。田舎の小さな惑星でも、大きさは母球(地球)の半分ほどだ。点在している拠点を制圧するなんて、考えられない」「その通り。無理な作戦のように見える。しかし、私たちにはルィリがいる」と総司令官は言った。


 彼の言葉で全員の視線が魔法少女ルィリに向けられた。船団が西方群星連合(西星連)からこの東方群星連合(東星連)の中央にある目標の惑星まで200光年を数ヶ月かけて移動してきた間、彼女を畏怖しない者は一人もいなかった。彼女は伝説級の暗殺者であり魔法少女であった。ルィリは何も言わず、誰とも目を合わせずに中央テーブルで光る作戦マップを見つめていた。


 その場にいた者たちがただ彼女を横目で見つめるだけだった。彼女は誰とも目を合わせずに黙っていた。しかし、彼女から目を離すタイミングを逃した者たちは、ごくりと唾を飲み込んだ。


「とにかく」と総司令は場の空気を戻すかのように声を上げた。「作戦の成功を全力で達成しなければならない。極秘事項だが、数年後以内に宇宙全体が大きく動き始める。この作戦はその前哨戦になるだろう」


 次に、上陸場所の説明に移った。「単独作戦は4か所。それぞれ数百キロ離れている。目標はある人物の暗殺で、これは暗殺部隊が担当する。各地で旧帝国軍が応戦してくれる手筈だ」。「了解」と暗殺部隊の一員、Rdィースが答えた。


 返事が少ないことを気にもせず本部長は続けた。「他全軍の目標は帝都の奪還だ。帝都から150キロ後方に着陸予定でいる。反射防壁があるので、全員は人工大気圏内から直接降下となるだろう。監視システムがあることは確認しているが、大海族は蛮族で、それを使うことはできない。中央電算室の計算でも使用する可能性はほぼゼロだ」


 着陸部隊の司令官、MG56が静かに了解の意を示した。彼は西星連特殊精鋭部隊を指導している。西星連に存在するとされる3000の惑星群の中でも一際大な惑星であるルクス552D夷という星で総司令官を務めていた。彼の年齢はわずか78歳で、270歳を超える副司令官と比較すると異例だ。彼は西星連全ての惑星群から選ばれたエリートを率いる。


 この作戦は、中央会議が決定したものである。最近、全体の作戦が増えてきてはいるが、それが東星連の中央まで入り込む。もちろん、もしこの作戦が失敗し、中央群星連合(中星連)や東星連に探りを入れられた場合、証拠を残さないよう、責任を特定の惑星に押し付け破壊することまで決定されていた。


「そして……」


 本部長はルィリに視線を送った。彼女を見ただけで本部長自身の体が硬直するかのようだった。緊張からなかなか言葉が出てこない。


 総司令官自身もこの作戦は初めて聞いたときには驚きだった。しかし、それ以上に彼女の名前が参加者リストに載っていたことには驚愕した。なぜなら彼女は神話級の暗殺者だからだ。


 この暗殺星出身の人と関わりたいと思う人はいない。暗殺星は西星連で設立された。卒業生は1期生から数えておよそ200万人いるとされている。しかしその卒業生がその後どうなったかは不明だ。中央軍の上層部や中央情報室の役員ですら詳細を知らない。卒業生の半数以上はすでに死んでいるとも言われている。数千名は輝かしい実績を残しているというだけで、他のほとんどは一般人の中に溶け込んで表に出てこない。


 彼女が突如として現れたことは、艦隊にいる全員にとって衝撃だった。彼女は第2期生であり、第1期生筆頭の愛弟子だった。そして、生徒数千人を虐殺し破門された"天狗"と呼ばれる者の娘である。


「そして、何ですか?」幼い声で落ち着いた雰囲気であったが、声を聴きさらに動揺する。ここの会議に参加している人は西星連でもエリート中のエリート。多くの地獄を見てきた彼らだったが、まともに話すことができない。顔色を青ざめたり、頭痛を起こして嘔吐しそうになる。この場で顔色を変えなかったのは彼女の舎弟暗殺者カロと上位暗殺者だけだった。強襲部隊司令官や副司令官、そして総司令官ですら、これほどのプレッシャーは今までに経験したことがない。しかし、その様子を見せないように、総司令は話を続けた。「君たち二人にはプランCの特殊作戦の遂行を期待しています。」


「了解です。」彼女は答えた。


 この宇宙船に乗っている10か月間で、88通りもの作戦指導と訓練が行われてきた。彼女もその内容を熟知している。司令官や軍人たちは共同で訓練を行い、暗殺者たちも特殊訓練に参加するが、基本的には単独訓練だった。


 会議が終わり、接続が切れた。ルィリと彼女の舎弟カロは第3戦艦にある専用室の中央の応接間に座っていた。ルィリの部屋は、訓練や軽い運動もできるように設計されていた。それはいくつかのルームに分けられており、全体を合わせると体育館4つ分くらいの広さがあった。壁と床、天井は真っ白で、空っぽで広大な空間が広がっていた。しかし接続が切れると共に、ルィリはすぐに立ち上がった。


「はぁ、会議は本当に疲れる。全く面白みのない時間の無駄遣いよね。ねぇ、聞いてるの?」ルィリが尋ねた。


 カロは反応した。「あ、はい。聞いてますよ。10か月も船の中にいたら船酔いもしなくなりますよね。」


 ルィリは彼の脛を思い切り蹴った。カロが悲鳴を上げた。


「どう話を聞いたらそんな答えになるの! 膝を反対側に曲げられたい」ルィリが怒鳴った。


「もう、いきなり蹴ることないでしょう! いつもすぐに手を出すからみんなに怖がられてるんだよ。」とカロはぶつぶつ言いながら考え込んだ。


 カロは異色の暗殺者である。暗殺星出身ではなく、まだ若い、そしてルィリにスカウトされてここにいる。彼は人を殺すのが好きではない。と言ってもルィリも同様だった。ただ作戦の遂行の仕方がなくやっているだけだ。血の匂いは好きらしい。


「どうしたの? 作戦に不満でもある?」ルィリが尋ねた。


「いえ、作戦自体無謀ですが、特に首都奪還の作戦が妙なんです。何か引っかかる」とカロは言った。


「まあ、惑星中に敵が支配権を巡らしていると言っても、兵士で3億人以上、一般市民を含めれば20億人。それら全員を殲滅するか、または降伏させるなんて簡単なことではないと思わ。だけど、作戦がうまく進行し、帝都が陥落すれば、とりあえずの目標は達成されるでしょう。その後殲滅戦になるから、旧帝国軍に任せても構わない、とも言われてる。それなら可能よね。」


「その部分は理解しています。ただ、プランCの中で私たちが関わる作戦だけがおかしい。」

「私たちの実力を過信してるとでも言いたいの?」ルィリが尋ねた。

「いえいえ、そういうわけではないんですよ。もう蹴らないでくださいね。」


 ルィリはすでに蹴ろうと動作していた。


「ただ、西星連が私たちを裏切ろうとしているのではないかと。」とカロが言った。

 この発言に、ルィリは驚ろき。「何を言ってる! そんなことをして……メリットが何もないわ。これから大きな戦争が始まるかもしれないのに。」


 カロは詳しく説明した。「反射防壁の絶対なる支配下では、個人の戦闘力が大きく左右します。飛射物の衝撃はすべて緩和され、直接的なダメージを与えるためには、そのスピードとテクニックが求められます。しかし、今は秘密裏で命を奪える銃の改良も進んでいます。」

「だから、何なのよ」

「私たちの存在価値と、デメリットが拮抗してきたわけです」


「……」


 ルィリは何も言い返せなかった。ルィリとカロの出会いは偶然だった。パートナーとして選んだ理由は彼の洞察力と広範な視点を認めていたからだ。


 彼らが目指す惑星にはあと3日で到着する予定だった。その間、作戦の詳細を再確認しながら、二人はより深遠なものに向き合っていた。


 彼らの配下には25人の暗殺者がいた。彼ら全員は暗殺者の星から来ていた。精鋭軍人たちは数十年にわたる厳しい訓練を受けており、数十万人の帝国軍が集結しても彼らには敵わないだろう。その部隊の訓練レベルは比類ないものだった。そして、暗殺者たちについてはすでに述べた通りだ。


 ついに、作戦の日がやってきた。数万メートルの高度から行う自然降下は、緩衝装置があっても訓練を受けていない者には耐えられない。しかし、2000人の精鋭強襲隊は、夜空を照らす流れ星のように舞い降りた。着地の轟音と共に、埃が舞い上がり、木々が揺れた。そして、静寂が広がった。削り取られた地面から、音もなく部隊が出てきた。暗殺部隊はどのようにして着地したのかは不明だが、地面には一切の痕跡がない、静かな着地だった。


 部隊のインカムから漏れる囁きだけが聞こえるほどの静寂だった。1つ目の作戦は成功したと思われた矢先、地面を揺るがす轟音が鳴り響いた。途方もない数の何者かが近寄ってきている。敵に囲まれたのか? その事態を全隊員が瞬時に理解した。

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