死活

勿忘草

 十時くらいに起きて、顔を洗って、服を着替えて、ご飯を食べて、本を読んだりゲームをして、外に出たりして。帰ったらまた少し娯楽で時間を潰して、ご飯を食べて、お風呂に入って、歯を磨いて、服を着替えたらまたゲームをして、満足したら眠りにつく。


 自堕落な生活をしている私は死んでいる。

 死因は分からない。自殺なのか他殺なのか、事故なのかも。


 私が存在する天国ここは現世とそっくりそのまま、鏡写しのようになっている。

 存在した友達が居なかったことに、なんの疑問も抱かなかった。存在した家族が居なかったことに、なんの疑問も抱かなかった。存在した大っ嫌いな奴が居ないことに、なんの疑問も抱かなかった。


「あれ、電源つかない」


 ゲームの起動に苦戦していると、後ろから伸びてきた手にコントローラーを奪われた。


「よお小娘。どうだ、決まったか?」


「あんたかい」


「お前みてぇな女に構うのは俺くらいだろうが」


 この死神さんに囁かれるまでは、なんの疑問も無かったんだ。人間の骸骨みたいな仮面を被って、真っ黒で傷んだローブを着ている。私が持つイメージそのままの死神。でも、浮いて大鎌を持っているイメージだったので、足があって鎌を持っていないのには少し驚いた。個体差なのだろうか。

 この死神さんが、私をこの天国に連れてきたらしい。


「連れてって、現世」


「よし、ついてこい」


 現世にひっそり、私を連れて行ってくれるというのだ。

 死神の界隈では死者に真実を教えることはタブー。また死者を特定の期間、お盆や死者の日以外に現世へ連れて行くことはタブーとされているらしい。なんのメリットがあってそんなタブーを犯して、何が目的でそんな話を持ちかけてきたのか、気にはなるが聞いていいのだろうか。正体を表して、私を殺してくるかもしれない。


「でも、どうやって行くの?」


「簡単だ。もう一度死ぬことで、生き返れんだよ」


「鎌で殺してくれないの?」


「はあ?あれは現世あっちの生きてる人間の魂を狩り取るのに使うもんなんだよ。天国こっちに居る死者のお前に使わねーよ」


「へえー。死神ってみんな大鎌持ってるの?」


「あー、一応免許いるんだよなアレ。メンテナンスも大変でよ、業者に頼むと高ぇのなんの」


「え、そうなの!?」



 ──適当な話をしていれば、屋上に着いてしまった。よく分からん緑に包まれたビルの。ここで死ね、ということか。

 ここから、現世に行けるのか。誰と会って、どんな話をしようかな。


「あ、そうだ死神さん。名前教えてよ、名前。ずっと死神さんって呼んでたけどさ」


「名前だぁ?忘れちまったよンなもん」


「じゃあ、グリムさんね」


「グリム?はあ、由来は?」


「読んでた小説に出てきた死神の名前が、グリム・リーパーって名前だったの。そこから」


 グリム・リーパーと、このグリムさんはよく似ているんだ。足があって、鎌を持っていないこと以外は。喋り方とかも似てる。


「ふぅん、ありがとよ。今度からそう名乗……あ、すまん。お前先に行っててくれ、忘れモンしちまったわ」


「ええ…じゃあ先に、行ってきます、グリムさん。」


「おう、いってらっしゃい」


 私は地面に背を向け、屋上から飛んだ。


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