28、山里は冬ぞさびしさまさりける人目も草もかれぬと思へば
冬休みが明けてから、山里の様子がおかしい。
休み時間や放課後に皆で遊んでいても、一人だけぼけっとしてる。ドッジボールでは的にされてあっという間に外野に出るし、ケイドロでも訳分かんない所に突っ立っててすぐに捕まる。しかもそれを気にする素振りもない。ふつうもっと慌てるだろ。
そこでおれは閃いた。天才だから。最近山里がぼーっとしてる理由を突き止めた。
恋ってやつだろう。となると、相手は道端さんだろうな。クラスで一番かわいいし。
四六時中なんかそわそわしてるし、もうばればれなんだけど、からかったりせずに本人には黙っておいてやることにした。おれって大人ー。
二月に入って最初の学級会で、担任の中井先生が言った。
「山里くんはお父さんの海外赴任についていくため、二月いっぱいでお別れになります。終業式まで一緒にいられなくて残念ですけれど、みんな最後まで仲良くしてね」
は?
いや聞いてないんだけど。
その冬、おれは人生で初めて親友と本気のケンカをした。山里は「だって仕方ないだろ」と言うばかりでついには泣き出してしまったから、おれも「もういい」って言って。それで、そのまま山里とは口も聞かなくなった。あいつ、頑固だから。引っ込みつかねーんだ。
山里が謝ってこないまま、クラスでのお別れ会を迎えた。もう明日出発するらしい。
「おい」
しゃーないからおれから声を掛けた。おれは器のでかい男だからな。
「いいのかよ」
おれが言うと、「は?」って感じで山里はきょとんとした顔をしてる。まったくにぶい奴。みなまで言わせるなよ。
「道端さんに告白しとかなくていいのかよ」
おれが言うと、山里は真っ赤になった。
「な、なんで知ってるんだよ」
「見てりゃ分かるよ」
親友だから。
それで、おれはもじもじする山里の尻を叩いて、山里がクラス一の美少女に告白して見事玉砕するのを見守った。
妥当な結末ながらうなだれる山里にファンタをおごってやって、二人で公園のジャングルジムの上で飲んだ。山里はどこかすっきりした顔で「ありがとな」と言った。
翌日、山里は一つの忘れ物もなく軽やかに海の向こうへ飛び立っていった。
ちなみに、ここからは蛇足になるけれど、その後中学に上がって道端さんとおれは付き合うことになった。卒業式で山里の思い出話をして盛り上がったのがきっかけだ。
それで、この春おれ達は結婚する。
親友はわざわざ海外から帰国して式に出席してくれた。褐色の肌の美人の奥さんも一緒に。
ファンタスティック! と絶賛された日本の桜を背景に、親友や大切な人達に見守られておれは人生の新たな頁を捲った。
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