狂異集会

Rokuro

狂異集会

それは街から離れた場所にあったお屋敷。

世界有数の富豪がやってくるVIPばかりの集会。

今回私はこの集会に呼ばれた。

いわゆる私もVIPということだ。

ここまで来るのにとても時間がかかった。

どんな手段も使ってきた。

別にこの集会に出るのが目的ではない。

しかしながら、この集会も目標の1つではあった。

これから政界に出て、この国を自分の手で好き勝手変えていこう。

その足掛かりとしても、過言ではない。

揺られる車で数時間、やっと見えてきた屋敷は古く、大きく、広そうだった。

一体この屋敷にはどんな人が住んでいるのだろう。

駐車場には多くの車が止められていた。

どれもこれも、高そうな車ばかりだ。

今に見ていろ、すべて私の物にしてやる。

そう言って、私は屋敷の入り口に立った。

入り口には帽子を被ったスーツ姿の若い男がいた。

男は手を差し出す。

「招待状を」

私は胸元から1通の招待状を渡す。

男はそれを確認し、招待状を私に返した。

「どうぞ、お楽しみください」

扉は、開かれた。


エントランスは豪邸に似つかわしく美しいものばかりだった。

黄金に煌めくシャンデリア、赤いカーペット。

象牙のように真っ白な大理石の階段。

いけない、あまり見ていると小物に見られそうだ。

立っていた私に1人の男性が声をかけた。

ウェーブした髪の毛を後ろで束ねた、これまたスーツの長身の男だ。

男の顔には大きな火傷痕があった。

なんて醜いのだ。

醜いくせに、どうしてこんな豪邸で働いているのか謎だった。

先ほどの男もそうだ。

客の前で帽子も取らずに。失礼極まりない。

「君、せめてその顔を隠しなさい」

「はあ」

これまた覇気のない返事だ。

何かを追撃してやろうかと言った矢先だった。

「集会所はこちらでございますー」

間延びした声で1つの扉を案内される。

そこには、何人ものVIPとして呼ばれた人間たちが立っていた。

どうやら立食パーティーのようだ。

それぞれワインや食物を手にしていた。

ああ、あれは政界の大物じゃないか。

こちらは巷で人気の女優。

あちらは今一番話題の男性アイドル。

より取り見取り、「金持ち」ばかりが集まっていた。

私はとにかく、とにかく、とにかく、心が躍った。

ああ、ここまで来てよかった。

私が、私がここまで来たのだ。

この人間たちと肩を並べるまでの場所に来たという事だ。

あまりにも、あまりにも、あまりにも。

”長かった”。

私も立食パーティーに参加しよう。

円形のテーブルに手を伸ばした、その時だった。


「素晴らしいVIPの皆さま、ようこそいらっしゃいました!」

元気のいい、愛らしい声が響いた。

まるで幼子のような、鈴を鳴らすような魅力的な声。

集会所の奥に建てられているステージに、その少女がいた。

長い髪の毛、白いワンピースドレス。細い腕と細い足。

まるで魅力を感じない小娘のはずなのに、目が離せない。

「楽しんでいらっしゃいますでしょうか?」

少女の声に、何人もの人間が声を返す。

まだ私は楽しんですらいない。

声を返す必要などないだろう。

少女はその声を聴いてうんうんと嬉しそうに頷いた。

「今日皆様に来ていただいたのはほかでもありません。今回はプレゼントがございます!」

少女の後ろで、布が揺らめく。

どうやら何かを準備しているようだ。

「ずっとずっと、皆さんを待っていたんです。この日まで」

少女は赤い瞳で辺りを見渡した。

そうして、1人の男優を指さした。

「貴方は、かつて全く売れない男優で、何人もの女性に「自分は大物なのだ」と嘘をついて、その度にお金を巻き上げていた」

その言葉に、会場がどやめく。

男性が反論しようと声を発した瞬間、さらに大きな声で少女が叩きあげた。

「そして、1人の女性を、殺してしまった。それらの悪意を、全てばらされると思って!」

ざわつき始める会場。

何かがおかしい。

それを考える前に、少女が次に指を差したのは女性アイドルだった。

彼女は今流行りのアイドルグループでもセンター格の子だ。

「貴方は自分のセンターを取るために、1人の仲間を非常階段から無惨にも突き落とした」

「あ、あれはっ、ちゃんと消してもらったはず!なんであなたが」

「知ってるのかって?だって、全部知ってるから」

少女が頭に指を置いた。

口元は笑っているが、その目は一切笑っていない。

「みんなみんな、知ってるんだよ。誰かを殺してること、そしてそれをもみ消してのうのうと生きている事。全部教えてもらったんだよ。被害者しりあいの皆さんに」

それを聞いた瞬間、会場は凍り付いたようだった。

同時に、私もだった。

私も、今の地位に付く為に、1人の男を毒殺したのだ。

それは政界のライバルだった。

若造で、他の人がどう思うか、とか、様々な事が要らなかった。

だから、自殺に見せかけて毒殺した。

政界は厳しかった。

生きていくのは難しくなった。

そんな、適当な理由で。

嘘だ、誰にもバレないようにしたはずなのに。

それをこんな小娘が、いったいどうやって。


焦る我々の前で、少女が手をあげた。

「次に踊るのは皆さんです。」

その言葉と同時に、少女の後ろにあった白布が取り下げられた。

それを見て、悲鳴が上がるのは数秒も無かった。


そこには、死体があった。

死体、と言っても、ぐちゃぐちゃではない。

まるで人形のように、綺麗な、美しい状態。

生きているようだった。眠っているようだった。

私が殺した若造もいた。

少女がステージの脇に移動する。

マイクを口元にあて、笑った。

あまりにも、それは。

邪悪な笑みで。


「みんな、素敵な踊りを見せてね」


そう言った瞬間だった。

ステージから、死体が動き出した。

あのアイドルは、死んだはずのアイドルに抱き着かれた。

アイドルは悲鳴を上げ払いのけようとした。

しかし、直ぐそれは汚い悲鳴へと昇華した。

死人が首に噛みついた。

引きはがそうとしても、それは余りにも強い力で。

ゴキ。

骨が折れる音だろうか。

鎖骨が折れたのだろうか。何処が折れたのだろうか。

皮膚と肉を食いちぎり、死体は首の血管を引き裂いた。

脈に合わせ、鮮血が飛び、溢れる。

それを聞いた、見た皆は一目散に出口へと殺到した。

しかし、出口が開くことは無い。

どんなに力を入れても、何人かが雪崩れても。

開けられることは無かった。

次第に最初に扉に辿りついた者が後方からの人間に潰されていき、帰るの潰れたような声が溢れた。

男優は女性に乗っかかられ、目玉をえぐられていた。

女優は男性に頭を割られ、割れた頭蓋と圧迫されて飛び出した瞳の空洞から脳が溢れていた。

足を折られ、脇腹を食われ、割れた皿で喉を裂かれ。

そんな様子を、少女はただ、楽しそうに見ていた。

私の目の前で、政界の有名人が倒された。

相手は別の男だ。これまた政界の有名人で、この前死んだはずだった。

死体は男の腹部に深々と何かを突き立てていた。

そして、力任せに真上に腕を動かすと、どういう原理なのかわからないが顔まで真っ二つだ。

腕を縦に裂かれた上に、額に何度もナイフを突き立てられている者もいた。

阿鼻叫喚だった。

こんなはずではなかった。

こんなことのために、私はここまで来たわけではない。


焦る私の背中に鋭い痛みが走った。

それは、だった。

「殺した、はずなのに」

何かが背中に刺さっている。

深々と、強く、深く。

目の前がちらつく。

その後、再び引き抜かれたそれは、大きなガラス片だった。

足に力が入らない。

私は這ってでも逃げようとした。

しかし、直ぐにそれは掴まれ、背中をなんども、なんども。

口から血液が溢れる。

内臓まで達してしまったのだろう。

横目で見た私の最後の光景は。



ただ恨み憎しみを持つ男の顔だった。

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