郵便局

@that-52912

第1話

ぼくは鰯である。


こころのなかにある、ぼくのノートに、そのように書き付けた。荒っぽく。ふと見ると机の上には待ちわびるような表情の郵便物が山になっており、たたずむ。


ぼくは鰯である。それも、冷凍の。


ぼくの体の表面を覆う氷が溶け出せば、たちまち悪臭が充満し、時限爆弾を炸裂させたみたいに、職場のみんなを包むだろう。そのとき、ぼくのすべては飛翔する。粘着ゴムみたいにぼくの体は伸び縮み。延び上がるイメージと可能性! 郵便物を区分けしながら、僕はわくわく。


鰯としての視線で、郵便物の郵便番号を見つめ、そか、郵便番号とはイメージのなかで旅をする事なのだと分かった。なるほど。361ー0023。うひょう!地名が、浮かび出し、人々の暮らしが踊る、踊る。ダンスする。

347ー0001。楽しいぜ!乗り合い馬車に乗って農村を旅する。こういう人生の楽しみ方を、ぼくは田山花袋「田舎教師」から学んだのだよ。鰯は、飛翔する。どこまでも。どこまでも。とぶぞとぶぞとぶぞ。


やがて、朝礼がはじまった。

「Aさん!」

上司が僕を呼ぶ

「年賀状の売り上げ、ビリだぞ」

「はい」

「なんとか改善しなさい!」

「はい」

ぼくの体の表面の氷が溶け出す。解凍。そして鰯としてのぼくの体は、リズム打楽器みたいにぶるぶる震え、生臭い魚としての悪臭を放ちます。放ちました。生まれてきて、すみません。ははは。悪臭は時限爆弾となり、匂いがみんなの脳髄を音を立てて爆発させた。

「バン!」

課長の脳髄の弾け飛ぶ音の、なんと心地よいことよ!!

「課長!」

と、みんなが叫び、ぼくは一匹の鰯になり、床の上をはいまわり、産卵、産卵。

ぼくの子孫、稚魚どもが職場に充満し、やがて郵便局は、魚でいっぱい。ゆめいっぱい。

みんなの脳髄も、弾け飛ぶ。

「バン!」「バン!」「バン!」



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