第7話 優しみ男子学生
ツバの広いとんがり帽子。とんがりの先っぽは少しへたっている。
襟の大きなマント。裾は地面で擦れてボロボロ。
帽子もマントも外が黒で内側が真っ赤。
それを着ているのは茶色の芝犬。
口にはちょっと欠けた星飾りがついた魔法のステッキを咥えているぞ。
芝犬
メメさんの仕事は困っている人を助けること。
今日も困っている人がいないか
——メメさんは激怒した。
ショーウィンドウに映る自分の姿。
身震いをしマントの位置を直します。耳をあっちこっち、帽子の位置を直します。
身だしなみを整えた四本足の立ち姿。そこには見慣れた姿があるはずだった。
だったのだが、ショーウィンドウに映っているメメさんは困り顔。
なんとマジックで眉毛が書かれていたのです。それも困り眉。
これはこれで可愛いのですが……いやちょっと可愛すぎますね。
芝犬×魔女×困り眉。
属性過多。芝犬=可愛い。魔女=可愛い。困り眉=可愛い。全てが可愛いに通じる属性を付与されたメメさん。
これは起こってしまいますね。可愛いの超新星爆発。
いや、あまりの可愛さに話が逸れてしまいましたね。
そうです!! 可愛さの超新星爆発です!!
いや違う困り眉だ!! マジックで困り眉を書かれた話に戻りたいんです。
危なかったです。可愛さの大迷宮に迷い込んでしまうところでした。
そうです!! メメさんは眉毛を書かれたことに気づいて怒っているんです!!
一体誰だ眉毛を書いたのは!!
話は少し前に戻ります。
どこぞの高校の校庭に迷い込んだメメさん。
放課後で部活に勤しむ学生。教室でお喋りする学生。自転車に乗って帰る学生。みんな思い思いの時間を楽しんでいます。
メメさんは男子学生の集団に見つかってしまいます。
もうお分かりですね。こいつらです。
「おっ、犬がいるぞ」
「本当だ。変な格好してて可愛いな」
メメさんの可愛さに男子学生達はメロメロ。
しかし、一人の男子学生がペンを取り出します。
「学校に迷い込んだ犬は……これがお約束だよな」
「確かにお約束だな」
「可哀想だろやめろよ」
一人の男子学生の抗議も虚しくメメさんの柔らかな額の毛に無情なインクが染み渡ります。
そして高校を出た後、ショーウィンドウに映る自分の姿を見てメメさんは事態を把握したということですね。
これはいくら温厚なメメさんも怒ってしまいます。困り眉で怒った顔。あーレア顔です。あー可愛いです。あーあー。あー。語彙が消失して行く。駄目です。早くなんとかしないと私の語彙力がー。
「あっ、居た。見つかってよかった」
いたずら書きした男子学生達の中の一人です。少し息切れしながらメメさんの元に行きます。
流石のメメさんも警戒します。
「大丈夫だよ。落としてあげるから」
男子学生は無理に近づこうとせず、座って目線を合わせメメさんに話しかけます。
よく見ると落書きを止めようとした男子学生です。
男子学生の意図に気付きメメさんは警戒を解きます。そして少し歩み寄ります。
ウェットティッシュでメメさんの眉毛をゴシゴシ。
メメさんはお目々を閉じてじっとします。
「あれ、中々落ちないぞ。水性だよなー」
えっ!! まさか……油性……?
「少しは落ちてるから水性ぽいなー。ちょっと待ってな」
そう言うと男子学生はスマホを取り出し。
「K2。水性マジックの落とし方を教えて」
男子学生はスマホにプリインストールされている音声入力のAIアシスタントアプリに向かって話しかけます。
AIアシスタントアプリは答えます。
「はい。水性マジックを用意します。水性マジックを手に取り、そのまま手のひらを下にして手を開けば落ちます」
ポンコツのようですね。この回答にはメメさんも男子学生も困惑。男子学生は諦めて普通に検索します。
「うーん、簡単に落ちないならシャンプーとかしないとダメっぽいなー。でも一ヶ月くらいで自然と落ちるみたいだよ。
ごめんな。もう少し薄くしてやるからそれで我慢してくれ」
そう言ってウェットティッシュで優しく眉を拭いてくれます。
まだ薄ら眉毛は残っていますが、男子学生が懸命に拭いてくれたんです。
少しの間くらい我慢しよう。メメさんはそう決心した顔をしています。
別れを告げ去って行く男子学生の後ろ姿にメメさんは魔法のステッキを振ります。
メメさんが何を願ったのか……それは分かりません。
数ヶ月後にAIアシスタントアプリが少し賢くなったという噂が流れますが、それがメメさんの願いに関係しているか誰も分かりません。きっとエンジニアの頑張りなんでしょうね。
ツバの広いとんがり帽子。襟の大きなマント。口にはちょっと欠けた星飾りの魔法のステッキ。
芝犬
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