第23話

りおねぇと別れた後、俺たちは天国門ダンジョンの第一階層、陰エリアへと潜った。


今日は新一たちのある意味初戦闘デビューだ。

昨日までも彼らは戦っていた。

しかしそれも俺がある程度数を減らしたり、あるいは足や腕と言った戦闘能力に関する部位を切り飛ばしたりと、かなりの安全を確保したうえでの戦闘を行ってもらっていた。


だが今日からは少しだけ趣向を変えた形になる。

天国門ダンジョンとはいえダンジョン内における死が、そのまま未来の自分の魂の死を意味することが、俺達全員の共通認識となった以上、それを許容するわけにはいかない。

まぁ、最悪の場合は3人が死んだとしても俺がその場で即、敵を殲滅し魂を凝縮した結晶の保護を行うのだが・・・

死に戻りを前提とした戦法を取るのではなく、死に戻りしないで最後の安全マージンだけは確保して戦う戦法を俺たちは今後選び取っていかなくてはならない。


そのためには一人一人が確固たる戦い方を身に着けて、その場において臨機応変に適切な戦いをする必要がある。

この第1階層を、原則として新一たちの手だけでクリアするというのは、そう言った目的があってのことだ。



ダンジョン内を歩き始めるが新一たちは既に危なげなく戦闘を行っている。

基本的には新一がフロントアタッカーとして数を減らしたり、敵の足止めを行う役割だ。

ディフェンスである香澄に危険が無い状態であれば、香澄自身も魔力弾を用いた攻撃で支援を行っている。

香澄が危険な時は、当然香澄は自信に迫る敵を排除するために動いているが、それのサポートをしているのが詩織だ。

その詩織は香澄が安全な時は前線へと上がって新一と共に敵の殲滅を行うといったところ。


それぞれが自身の役割を果たしており、それゆえ安定した戦闘を行えている。

この調子ならば油断しなければこの1階層をクリアするのは時間の問題だろう。

1階層にはボス部屋と呼ぶべきものは存在していない。

まぁ油断してはならない理由に、一応陰エリアであり、ダンジョン内の構造が変化するときがあるのでそれに備えて俺も同行している。


そして新一たちは3人で1階層をクリアした。

結論を言えば、俺が敵の手足を切り飛ばして、新一たちに止めを刺させていた時に比べて、数は同程度。

しかし相手が自由に動き回る敵であることが要因となり、少し手こずったため、午後を少し超える程度になっている。

この調子ならば新一たちに大丈夫だろう・・・


「よしっ、鋼のお守り付ではあるが俺達だけで1階層をクリアしだぞ!」

「やったね新一!」

「なんとなるものなんですね・・・まぁ鋼さんのパワーレベリングがあってこそ、まともに戦えたとも言えますが」


一応フォローしておくとするか・・・

「そう卑下する必要もないさ。

確かになりふり構わないステータスの強化だったとは思うが、それでも所詮力しか俺は与えてない。

その力の使い方を自分たちで模索しながら、自分たちの物にしたのはお前たち3人の努力だ」


「「「・・・・・」」」

「なんだ?」


「鋼って・・意外と臭いこと言うんだな?」

「フォローしたつもりなのにあんまりな言いようじゃないか?」


「いや、すまん。素直にありがとうと言っておくべきだったな」

「それとも慢心しないように、俺にはまだ遠いぞと言った方がよかったか?」


「はぁ!お前らの普通じゃない次元に、普通の俺らを巻き込むなよ!?」

「冗談だ・・・」


「ったく・・・冗談のレベルをほどほどにしてほしいぜ」


俺も人のことを言えた義理では無いが、正真正銘のバケモノのように言わなくてもいいのでは・・・

少し傷ついたぞ・・・戦友よ・・


「それにしても・・・・こう言っちゃ悪いが、鋼、お前途中からなんか妙に気が散ってなかったか?」

「・・・・・・・・・・・ん?すまん、何か言ったか?」


「いや、その、今もなんだが、なんだか途中から妙に気が散ってるんじゃねえか?って話をしてたんだよ」

見れば香澄と詩織も頷いている。


「ほう?戦闘中だというのに

良いことだ。これなら来週の頭には2階層クリアも楽そうだな?」

「ちょ・・待て、いきなりハードル上げんなよ!」


「後半は冗談だ。流石にそこまで無茶をさせるつもりはない」

「だから冗談のレベルをほどほどにしろって・・・それで?」


「ああ、ちょっと気になってることが2つあったのでな。

1つはまぁ別に今すぐにどうこうするようなものでは無いのだが、もう一つが気になる。」

「後半のもう一つは何が気になったんだ?」


「多分だが・・・これは陰エリアから近い、陽エリアに気になる反応があったんだ」

「気になる反応?」


「簡単に言えば同族の気配だ」

「それって陰陽師の・・・?」


「ああ、だが妙に気配が弱い部分もある。もしかしたら大昔の先祖に陰陽師に連なる血筋をもつだけの生徒かもしれん。あるいはそのうえで魂が抜き取られていて、さらに魂の波動が弱くなっているのか・・・

原因は分からんが、たぶんそんなところだろう」

「それで・・・?結局どうしたいんだ?」


「え?どう・・・とは?」

「いや、だからさ、お前はそれをどうしたいんだよ?

気になるってことは単に見捨てて良いとは思ってないってことだろう?

俺たちもお前に救われた存在だ。

今更自分たちのことだけ考えろ、なんていう都合の良すぎることは言うつもりはねえよ。

お前はそいつをどうしたいんだ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「鋼、改めて言っておくが、お前は俺たちを救ってくれたんだ。

いろんなことを諦めなくていい、我慢しなくていいってな。

なんでそれを自分自身には当てはめないんだ?」


「それは・・・それはそういうのが許される立場じゃ・・」

「お前さんの陰陽師としての事情も少しは理解してるつもりだ。

多分任務のことや家のことになったら俺の言ってることなんぞ夢物語なんだろうってな。

でも今そいつを助けることは、それに大きな影響を及ぼすようなものじゃないだろう?

いや、もしかしたら及ぼすかもしれないが、それでも悪い方向へと及ぼすものじゃないはずだ。

同族であるというなら戦闘力の強化につながる以上、少なくとも悪い方向へと大きな影響を与えるようなものじゃない」


「それはそうかもしれんが・・・」

「なら、我慢する必要なんかないんじゃねえのか?

家とか任務とかそういうのが悪い方向に行かねえなら、お前も今はこの学園の一生徒だろ?

それに・・・・その・・・・・・・」


「???」

「あれだけ、おんぶに抱っこしてもらっておいて言える事じゃねえかもしれないが、お前が困ったときに俺たちにできる範囲のことたなら協力させてもらうさ・・・お前が断ったとしても・・な」


「!?・・・・なぜ・・」

「仲間を救い上げるのに理由が必要なのかよ。お前がそうしたように・・・」


俺は何も言えなかった。

確かに俺は自己満足の理由だけで3人を救い上げたいと思って行動した。

でもそれは、俺の身勝手な行動だ。

俺は別に見返りを求めているわけじゃ無い・・・


「まぁいいや・・・今はその辺のことはおいておくとするか・・

答えはいずれお前自身が出すしかないからな。

んで、お前はどうしたいんだ?」

「俺は・・・・許されるならば、そいつも助けたい。

この学園の負の部分を知っているがゆえに、自分の手の届く範囲なら手を挿し伸ばしたい。

でもそれは―――

「そうか。なら後は助けに行くだけだな。そんで?そいつはどこにいるんだ?」

――俺の勝手な」


「新一!?何を言って――」

「何度も言わせんじゃねえよ。その辺のことは後で答え出せばいいさ。今は手の届くうちに手を伸ばせや。

『お前があきらめた瞬間に全てが終わる』って俺に言ったのはどこのどいつだよ?」


「・・・・・・」

「人に説教垂れるなら、まずはてめえがしっかりしろよ」


「すまない・・・あと、ありがとう、新一」

「んなことはいいんだよ!さっさと案内しろ!俺らも手伝うからよ!


「ああ、こっちだ・・・」

「――ツンデレ?――」

「――男のツンデレだね――」

「おい!そこの女2人!聞こえてんぞ!?」


そうして俺たちはその生徒の救出へと動き出した。

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