おしゃべりハゲこと西園寺京
『悠人、お前はどうして携帯が出られないんだ?』
開幕から、疑問という名の弾丸が飛んできた。もう電話を切りたいです。
「なんでかを知りたいみたいだな?」
『もちろん』
馬鹿正直に言うべきかな。いやそれも却ってめんどくさいな。
「いや、いっぱい触ってたら切れちゃったみたい。なんででしょうね」
『馬鹿、なにしてんだ』
うっ……。僕は思わず耳を携帯電話から遠ざける。
小言がうるさい男め、こうなんというか……手心というものはないのか。
一瞬、電話終了の赤いボタンを押しかけそうになった。
「えぇっとぉ……はい。メンゴメンゴ。これでどっすか?」
僕は鼻くそをほじりながら平謝りを繰り出す。
おっと、前のガールがすっごい顔を歪めて見てくる。
不満しかないってやつだ。何も言わずに僕の事を見ている。その目がやばい。
「ちょっと失礼」
そう言って、携帯を顔から話す。これなら聞こえんだろうに。
「なんだよ。……ていうかさ、そもそも僕の携帯の電源勝手に切ったの誰だよ」
指先についた鼻くそをどっかに飛ばす。僕に向かって何か言いたそうにしていたので、先手必勝で僕が舌を動かした。
「お前さんだろうによ。僕じゃないんだからさ。本来ならあやつから今文句言われる筋合いなんてないんだぜ?」
言うだけは言っとおく。髪がこのあとどれだけ薄くなろうが、今言わねばこっちの気が済まない。
「別に」
眉間にうっすら皺を寄せたまま、感情の読めない目でこちらを見ていた。
ただ静かに、見ている。こういうガンの飛ばされ方が、喧嘩腰よりもよほど刺さる。
「ん?言いたいことあるなら言ってもいいぞ」
『……おいまさか。喧嘩してるのか?』
空気の悪さを察し、声には呆れがほんの少しだけ混じっていた。
単純にため息が言葉に変わったような、そんな調子だ。
「するわけねえでしょ、僕を誰だと思ってる」
『……そうか』
「もちろん、喧嘩なんてしたことありません」
『……』
おい、なんで何も返ってこないんだよ。
お互いが沈黙したままなのでちょっと気まずい。
そんな空白の中。前に座るリアが、ちらりとこちらを見て……すぐに目を伏せた。
いや、僕なんか見てねえ。けれど……僕を通して、誰かに合わせて投影してるみたいな。いや、僕が言い放つ言葉が嘘じゃないかを測っているのか。
息を呑むほど小さな動きだったが、僕は見逃さん。
かすかに、唇の端が下がる。それが何を意味するのかは見ただけでは分からんが、その一瞬が胸の奥にじわりと冷たいものを残した。
「うるせえやい。自分の言葉にして言いなさいや、陰口は目の前でやると陰じゃねえんだぞ。覚えとけ」
僕がそう言うと、彼女は舌打ちをひとつしてそっぽを向いた。僕もそれに応じるように大きく舌を出してやる。
舌打ちVSあっかんべーだ。僕の勝ち。なんで負けたか来週までに考えておくがいい。
京との通話画面を見返す。
もう話す前から疲れたよ。
『……で、終わったか?本当にそっちは問題ないのか?』
「ベリーファイン。無理やり今終わらせたからナッシング。そっちは元気?僕にやってほしいことがあるならなんでもござれ。ああそうそう、夕方から仕事があるんでその時間は無理ですがな」
『……俺は元気だ。お前……リアを怒らせてないか?』
「おっ、良かった。ほんとに何もないから大丈夫、無問題だ」
『お前はなんでもないものを問題にする天才だな……お前。あの子の扱いが雑過ぎじゃないか?』
「そんなことはないね毎日三食あげてるもん」
『それが全てじゃないだろう。とにかく人に優しさを向けられる努力をしなさい』
「あーうるさいうるさい。小言をわざわざ僕に言い聞かせるために電話してきたの?そういう親みたいな真似しなくて結構。今も昔も一人で生きていきた、余計なお世話さ」
『……はぁ。良いか?』
あーあーあー。もう要件はなんなんですねぇ。そんな溜息吐かれても知らねえってばさ。
ハゲの分際で余計に口は達者なんだから。
『俺は間違ってることは言っていない。大事なことだから何度も言うぞ』
「もうなんだよ……勘弁してくれよ」
『答えろ。お前自身がリアに対して思ってることを』
まさかのあの金食い虫に対しての感想お気持ち構文を言えとな。京は斜め下からも上からも変な視点の持ち主だな。
予想外過ぎて回答が用意できていない。
「そんなことよりさ」
『そんなことじゃない』
「……」
『お前が今後どうするかによって話は常に変わってくるんだ』
「……」
『現状、お前が沈めば彼女も道連れだ。付き合う俺達も一緒に仲良くだ』
ねっとりと僕に言い聞かせてくる。流石にそんなのは分かってるって。
京の声には何一つ声の乱れがない。僕が今感じてる気持ちとは真反対のご様子だ。
「はーい……分かった分かった。今のところ、リアの方は社会復帰はさせてやりたいとは思ってるって」
『お前はどうするつもりなんだ?』
それでもなお、京は追いかけてくる。逃げ場のない詰将棋だ。
もう、黙っているのが限界だった。
「もううるさいわね!あなたぁ!!!」
もうウザすぎる。こいつはなんでもかんでも俺に報告しろだの、些細なことは言えだの、自分が納得するまで噛みついてきやがる。
「……」
突然大声挙げた僕に冷ややかな目を送ってくるガール。いや、お前のこれからをちょっと話してたんだよ。僕は手を払って、こっち見んなと言外に伝える。
本当にのんきにしてやがりますなこの小娘。
『お前はこれからどうしたいのか。どうしたいかを決めるのか』
「もうそんなことは良いから要件さっさと伝えろよ!僕も暇じゃねえんだよ。仕事があんだよ仕事がよお!!いい加減切るぞ!?」
京は意外とおしゃべり好きなのかもしれないな。僕との会話を一向にやめようともしない。
『……まぁいいさ。今のは全部、要件の前座みたいなもんだ』
「は?前座?これが?ぶっとばすぞハゲ」
『実は……お前に頼みがある。あいつを助けてやってほしい』
「誰を?」
『浩介だ。異世界から戻ったが、拉致監禁されている』
「え、ほんと何してんの?」
まさか過ぎて椅子からひっくり返りそうになってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます