やったね勇者!借金が増えたねえ!家族が増えるよぉ!
ぐは。眩暈がするなぁーって思ったら、僕が与えた魂の一部が目を開いたみたいだ。今、脳味噌が二つの情景を処理している。
僕をぶっ殺しに来たクソガキがなにやらとんちん騒ぎを起こしている。うーむ。
……おーお、やってるやってる。注射器に怯えて暴れて、窓から逃げ出したか。
やっぱじゃりン子ガールだな。
おいおいおい。お前、そこ三階だからな。普通なら死ぬって。てか死ね。
いや、死なれると僕が面倒だから生きろ。おー落ちた。
おっ、骨折で済んだか。なーんだ、三日で治るな。ざまぁみろ。
頭に直接魂の残響が震える。あのガキの恐怖と混乱と痛みが、僕の中に流れ込んでくる。うっ…吐きそう感情同期の副作用。だからって、ちょっと吐いたらあかんよ。
何が怖いってさ。借金増えることだよね。ガラス代高くつくなこれ…。くはぁ。
僕を殺しに来られたのは分かってる。
理由も、大義も、背景も、彼女なりにあったのかもしれない。
あの子が、頭のいい大人たちになにを吹き込まれて望むようになったのか、なにを奪われて、なにを壊されたのか。あまり触れてないけど察しはつく。
さて、めちゃくちゃ不条理だけど。責任を取るのは大人の僕だ。行くとしますか。……ぐはぁ。( ^ω^)・・・
「本ッッッ当に申し訳ございませんでしたァァアア!!!」
土下座。正座通り越して、地面に額めり込ませながら謝罪中。これで人生何度目かな?土下座って異世界でも使えるんだぜすげえだろ。いや、もう悲しいよ。こんなのばっかで。
病院側の人たちは、まあ当然ながら全員激おこ。いや、むしろ呆れを通り越して諦めてる目してるから逆に怖い。
「……あのぉ、患者様が病室から脱走し、窓ガラスを破壊、スタッフに対する暴行、器具の破損、さらに救急出動による二次対応を引き起こした件についてなんですが……」
「はい…はい…すみません。全て僕の不手際です。一応親族みたいな関係でして、はい。義理の兄みたいな……はい」
嘘しか言ってない。泣きたい、泣きたいけど、悲しい仮面を被るしかない。あの子と僕血縁ですらない。
「では、こちらが請求の概算になりますが……」
その瞬間、目の前にそっと差し出された紙一枚。
ふむふむ、どれどれ大半は分からないが金額ならわかる。
読んだ。
瞬間、脳が一瞬クラッシュした。ばっっか嘘だろお前……
「ふぁッッッ!?」
口から変な声出た。だって桁おかしい。六桁は想定してた。
うん、壊れた医療機器とかあるしね? でも……いや……これ……
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん……」
……あー、終わった。完全に終わった。
七桁オーバー。
しかも税込。割引なし。人生詰み。嘘だ。これは夢だ、夢に決まっている。
そうだ、明日になったらこんなの忘れて…。
「ふおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
もはや僕は叫ぶことしかできなかった。
すごいね。夢って誰か言ってくれよ。
じゃりんこガールが目を覚ましたのは敷布団の上だった。窓にはくもさんが元気に歩いていて、我が家特有のカビ臭さが充満している。
ええ、引き取りましたよ。野ざらしにしたら死ぬもん。
彼女は痛む身体を起こすと、無言で僕を睨んできた。
ええ、そうでしょうとも、モチロンコッチモ知ってる。恨み辛みがあるんでしょ。不満、死ぬほどあるんでしょ。
でもね、僕のほうがめっっっっちゃあるんだわ。
「はい、おはよう。目ぇ覚めたな、クソガキ」
ガキは口を開いた。怒鳴るでもなく、淡々と、冷たく。身勝手にてめえの立場わきまえずに。
「……何様のつもり?意味わかんない……さっさと殺したら?」
…………
………………
「……は?」
……………………
その瞬間、カチンときた。
このガキ今何言いやがった?
「おいおい随分元気じゃないか。足をきれいに骨折したんだ。どれ、ちょっと俺が……」
ゆっくりと腰を上げてそばに行く。
おっと、アンガーマネジメント、アンガーマネジメント。こういうのって感情的になったらいかんわね。
――が。
「……敵に救われるくらいなら、自分の手で死んだ方がまだマシ。触られた分だけ汚れた」
ため息を一息。ふーーーー。うん、うんおーけーおーけー。よーし、握りこぶしを作って冷静になろうじゃないか。
バッチん!!!!理性がスリップ音を上げてどっかに飛んでった。
気付いたらビンタしてぶっ飛ばしてやってた。
きっと今の僕の顔は泣く子も黙る般若だぞ☆
「うるせぇぞ、クソガキ!!!!」
ガキがビクッと肩を跳ねさせた。驚いて当然だ。こちとら怒鳴るつもりで全力で怒鳴った。
隣の部屋の住民が壁ドンしてくるくらいの音量だった。
「てめえなぁ”!!!!!!!!こちとらお前のために病院で土下座して、七桁の請求書もらって、しかも借金背負ってバイトしながら命張ってんだよ!なのに起きて一言目がそれか!? 殺してくれだぁ!? なにそれ、ギャグか!?」
ガキは目を見開いた。ビンタの痛みよりも、怒声と気迫に圧されたように。
唇がわずかに震えて、目元が赤くなる。ああ、今にも泣きそうって顔してるな。でも――関係ないね。
「なんだてめえ……今さら何様なんじゃ、やられる覚悟もなしにたま取りに来たのかよ!?ああ!?どうなんだ言ってみろや!!ゴラ!!」
ズンズンと詰め寄る。ガキは足を引こうとしたが、
背後には壁も布団もあり、逃げ道はどこにもなかった。浅い呼吸のたびに、喉仏が上下する。
「なにが殺せだ。バカガキ、おうどうしたさっさとかかってこいよ?」
怒声が空間の温度を一気に引き下げた。ガキは僅かに目を見開いたまま動けなくなっていた。
唇はわずかに開き、吸い込んだ息が喉に引っかかっているのが分かる。
「そもそもな……お前が言える立場じゃねえんだよ!!!」
何も返ってこないので、壁を殴る。衝撃で埃が舞っちまった。
ガキは肩をびくりと跳ねさせた。完全に怯えているが僕は止まる理由はない。
「じゃあ聞かせろよ、俺の何がそんなに許せなかった?」
返事はない。
少女はただ、両手で耳を塞いで、喉をぎゅっと締めるように震えていた。毛布にくるまって僕から逃げた。
ガキはペットが首輪をつけれて嫌がる姿に似ていた。従順な拒絶だ。
…………なにしてんだろうな。
……俺はなんだ、反抗期の子供に説教するのが今やるべきことなんか?
流石に疲れちゃったよ。浅くなっていた息を意識的に深く吐いた。
握った拳が微かに震え、正常に戻る。
殴るつもりなんて最初からない。
はぁ~全く。
毛布の中で震えてるガキを見て、僕はひとつでかいため息をついた。
頭をかいて僕も一度冷静になった。……あーあ、やっちまったなぁ。
これ事案だよ。怒鳴ってビンタして、壁殴って。もうほぼ暴力沙汰だ。
第三者にでも通報されたら終わり。人生また一つ詰みのコマが増える。
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