俺、異世界転移したぜ!!!


 どれ程そうしていたのだろう。地面のひんやりとした感触が頬に伝わっていた。

 目を開けるとそこは荘厳華麗な祭壇。



 っ!!!頭痛が酷い。

 それに…僕の胸の中身が酷く鼓動しているのが分かる。なんだよこれ。


 でも、そんなことはすぐさまどうでもよくなった。僕の瞳孔が急速に見開く。


 目の前の祭壇中央には美しいドレスを着た見知らぬ女性が横たわっていた。

 近くでも分かるほどの若く美しい佇まい。さっき会った白髪の女の子とは違った系統の美しさがある。



 だけど、まったく生気を感じられない。



 胸に短剣が刺さっていて似つかわしくないほど穏やかな顔をして眠っている。

 なんなんだよこれ…?この人誰なんだ。


 なんで死んでるんだよ!!


 答えのない疑問がただただ浮かんでは消える。

 


「おいおい、なんだよこれ!!どうなってるんだってっ!」

 

 僕が心で思っていた訴えを抗議する声が後ろから聞こえた。


 誰なんだ…記憶を辿っても分からない。


 振り返ると、僕より背丈が高く、なんでこんな格好なのか全く分からないが。

 …パン一の少年が立っていた。



 足をさすりながらも顔つきはとても爽やかな印象が来る。

 


「その…君は誰なんだ?」


「え?お前こそ誰なんだよ?」


 男らしい濃い眉毛が曲がる。

 短髪の彼は質問を質問で返してきた。

 あまりにも想定外で僕はたじろぎ身を引いてしまう。


「ええ…えっ、えっと。ぼ、ぼく…僕は」


 まずい。久々に人としゃべるから急に緊張してきた。

 

「僕は?なんて言うんだって。ささっとお兄さんに教えて」


 彼はとにかく早く教えろとせっついてくる。なんで僕はこんなパンツ男にここまで狼狽しなきゃいけないんだ。

 

「うっ…ぼ、僕は北条院。北条院悠人」


「ほーじょー、ほーじょーいん?ゆーとかい。へぇー、俺は南淳紀。よろしく」


 自己紹介をしたってのに興味はなさげだ。

 南君はキョロキョロと周囲を見渡し始めた。途端に訝し気な表情へと変わる。

 やっと僕の後ろの存在に気付いたみたいだ。


「…え?…これどういうこと?なんで刺さってんだよ」


 僕が知りたい。


 僕は訳が分からないまま、ここまでの経緯を説明した。

 ベルマっていう白髪の女の子に突然ここへ連れてこられたこと。そこで女性の死体を見たこと。

 その話を聞いた南君は眉間に皺を寄せてうーんとうなっていた。


「誰だよその…ベルマ?ってやつよ。俺風呂入るところでここに来たのに……」


 彼は何も知らないようで、この女性のことも分からないみたいだ。

 

 クッソ…やばい…吐き気が強くなってきた。



 そんな時、ふと周囲にもう一人、二人の影が見えた。



 その一人は、まるでこちらに挑戦するかのような鋭い眼差しを投げかけてくる少年だった。彼は僕たちの間に歩み寄り、睨みつけてくる。


「てめえ、何してんだよ」


 荒々しい声が響く。不良っぽい服装に金髪。何もしてないのにこの態度から、すぐに彼が面倒な人間だと悟った。


「えっと、君は…?」


 僕が尋ねると、彼はさらに睨みを強めた。

 胸倉を掴まれたじろいでしまう。なんでいきなりこんなことをするんだ!!


「てめえら何してんだって言ってんだよ!!お前らが殺したのか!?」


 彼は詰め寄って僕にさらに凄んでくる。


「え、いや……こ、この人のことなんて知らない!僕も彼もやってないよ!!」


「じゃあなんで助けねえ」


「う、知らないよ。僕が発見してた時には既にこうだったんだって…」


 何が彼の怒りを突き動かしているのか見当もつかない。

 すると、彼は僕から乱暴に手を突き放し。女性のところまで寄る。胸と手の脈を測って、瞼をめくったりしていた。

 決定的に死んでいる事実が分かり彼は舌打ちをした。血走った目で僕は睨み続けられる。




 一方、少し離れたところで見ていた少年が恐る恐る僕たちに近づいてきた。

 彼は慎重に何があったのか聞いてくる。


「大丈夫か?何があったんだ?」


 こちらはとても理知的で優し気だ。ニット帽を被っていて病院の患者さんが着てるような薄い青みがかかったものをみに着けていた。


「君は?」と僕が尋ねると、彼は落ち着きを払って答えた。


「俺は西園寺京。突然ここに来て何が起こっているのか分からないけど、とにかく話をしよう」


 西園寺君は至って冷静だった。僕と南君は顔を合わせお互い頷きあう。

 どこぞの人間は非協力的で話し合いすらできないけど彼なら問題なさそうだ。



「その…俺もなにがなんやらな。いきなりここへって感じだ。オタクは?」


「俺もそうだ。さっきまで自室にいたんだがな。寝ていたところにって感じだ」


「うわ、マジか。オタクもか」


 南君と西園寺君は状況を確認していた。共通しているのはいきなりなんの前触れもなくってことだ。

 一体それはどういうことなんだろうか。そう悩んでいると、西園寺君がこちらを向いて鋭く睨んできた。

 いや…僕の顔とかじゃなくて。後ろの存在を。

 僕もふと後ろを振り向く。祭壇の奥は闇そのもので何も見えていなかったが。

 そこにはいつの間にか、白装束の神官みたいな人たちが連なって凝視していた。

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異世界転移帰還! 帰還したけど人生オワタな件 アンゴル200帯 @kyr_sanbo

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