ウチの隊長は学生の時の同級生が皇子様と同一人物という事に全然気づかない
ニム
プロローグ
闇色の騎体達が宇宙を進んでいた。
「各騎遅れるな! フォーメーションは維持したまま全騎最大戦速!」
人の形を模した十八mの機械の巨人、
「うっひゃ! あ、あぶねぇっすね!! 掠ったっすよ!」
彼らの前や横から銀色の敵が襲いかかってくる。
丁度その近くにいた、頭に赤い一本線をマーキングした
「任せなさい! バンシー小隊インレンジ、エンゲージオフェンシブよん♪」
「バンシー4、スプラッシュワン!」
「バンシー8、スプラッシュワン!」
「バンシー9、スプラッシュワン!」
「バンシー1もスプラッシュワンよ♪」
すぐに近くの
マシンガンの斉射を受けた敵は表面を蜂の巣のように撃ち抜かれて、内部をズタズタにされると火を吹きながら明後日の方向に飛び去ってしまう。
そして大きな火球をつくると、跡形もなく宇宙へと消えていった。
「ジョー……バンシー小隊ばっかに負担かけらんないよ! ピクシー小隊、あーしらもカバーするよ!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
陣形を組んだ巨人達はお互いをカバーし、敵の攻撃を防ぎながらも全速力で前へ前へと進んでいく。
彼らの周りは敵で満たされていた。
騎体のレーダーは敵の反応で真っ赤になり、どこを向いても敵の姿が視界から消えない。
「フェアリー2へ! 後ろの敵が消えていってる! マジで!!」
その時、味方の
後方の真っ赤に染った敵の反応。
そこを切り裂くように敵の反応のない空白地帯が広がっていっていた。
『さぁ、淑女諸君。僕に続きたまえ!!』
『お~ほっほっほ! 当然ですわ! 隊長について行きますわよ!』
『了解。隊長、今日もカッコイイ……』
『はわわ! ボクを置いていかないでよ~!!』
『はぁ、面倒臭い……でも隊長の命令なら……』
後方から長細い三角形の機体が躍り出る。
彼らは
圧倒的な速力で敵陣を切り裂く、宇宙を翔ける一振の剣。
胴体内に収納されているミサイルをばら撒き、機首のレーザーガトリングをかき鳴らしながら
彼らの通ったあとには花が咲く。
爆散した敵が、ちょうど花がその身を開くように咲き誇っていく。
宇宙という広大な大空を舞う、機械で作られた
彼らは綺麗な編隊飛行を崩すことなく、緩く曲線を描きながら戦場を飛んでいく。
そして猛禽類の名に相応しく、次々と敵を刈り取っていった。
『うふふ、大戦果ですわ!……これなら今夜は隊長からのご褒美を期待しても……ジュル』
『やった! 隊長もきっと褒めてくれるよねっ!』
『あわわ! ボクもやってやったのですよ!』
『面倒臭い。けど隊長の為なら、えんやこら』
『………………いや、いいんだけどね? うん』
彼女達の通信が前へと進む
「おーおー。あっちの隊長さんはハーレムかよ。羨ましいこって」
誰かのつぶやきが電波に乗って全員の鼓膜を打った。
途端にパイロット達からクスクスと小さな笑い声が聞こえてくる。
「無駄口叩くな! あいつらが開けてくれた穴に飛び込むぞ! 全騎、続け!!」
そして、
「右前方から敵の団体客さんが来たぞ」
しかし、それも長くは続かない。
真っ白になった空間にすぐに赤い敵の反応が入り込み、進む
だが、
もうすぐ
後ろから飛んできた多くの銃弾に貫かれてしまったのだ。
先頭の騎体がチラッと後ろに目をやると、後ろには無数の黒い
曲線を多用したスマートな細身の
所々、銀色の装飾で彩られて華美な印象が見て取れる。
『敵の増援は我ら近衛の連隊で引き受ける。フェアリー大隊は直進したまえ』
通信から落ち着いた男の声が響いた。
一際豪華な装飾を施された
『皆の者! 近衛の
そして、それを勢いよく前方へと振り下ろした。
その瞬間、編隊を組んでいた数百騎の黒い
「すごいっすね……」
「さすがロイヤルガード、といったところか、マジで」
「うふん。私達も負けていないと思うけど、向こうは動きが優雅ねん♪」
「……ふん! あーしらの方が上手だよ!」
飛び出してきた
「へへっ、ありがてぇな! フェアリー2より大隊各騎へ! そのまま前進! ケツは貴族様が拭いてくれるとよ!!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
そして、部隊は更に前へ前へと進んでいく。
更に奥へ奥へと進んでいく。
「そろそろ中型種が増えてきたわね」
どんどん前に進んでいく
今まで出てきていた小型の敵には通用していたライフルやマシンガンの銃弾を容易く弾く装甲の厚さを持つ、まさに宇宙の重戦車。
「さすがに豆鉄砲じゃ歯が立たねぇな……後衛! 頼んだぞ!!」
「任されたっすよ!!」
その言葉に部隊の後方を進んでいた十数騎の
十数発のバズーカ弾が白い尾を引きながら、それぞれの敵に向かって進んでいき、そして着弾。
中型の敵は爆炎に包まれる。
爆炎が晴れた後には装甲がボロボロになった中型の敵が火花を散らしながら沈んでいた。
「次は俺っちの番っすよ!!」
そして、頭部に赤い線のマーキングの入った
「………………撃つっすよ!」
銃口からの激しいマズルフラッシュと共に飛び出た大質量の銃弾が高速で中型の敵に向かう。
ゴンっ!!
中型の敵の正面装甲に大穴が空いた。
穴を開けた大質量弾は内部の電子部品を巻き込みながら派手に進んで、反対側から飛び出してくる。
手持ちのライフルやマシンガンを跳ね返した自慢の装甲も、流石にこの大口径銃には敵わないらしい。
「まだまだぁぁっす!!」
更に間髪入れずに数発の大質量弾を吐き出す
回避も間に合わないまま、敵の中型個体は全て大穴を開けて、火を吹き出していた。
「ヒュウ! やるじゃねぇか、マジで!」
「うふん♪ 見惚れるような射撃精度ね」
「うぅ。あーしだって、あーしだって!」
その間にも、無数にいる小型の敵への攻撃の手を止めなかった他の
その時だった。
『あはは……はは……はは!!』
通信から少しノイズが入りながらも、女性の、しかし少し幼い子供のような明るい笑い声が響いてきた。
「隊長!」
「隊長ちゃんっすね!」
「おせーよ! マジで」
「うふん♪ 女性の準備には時間がかかるものよね?」
「はぁ。あーしらの仕事もここまでだね」
後方から近づいてくる存在を騎体のレーダーが捉える。
レーダーに映る光点は、味方を示す緑色のものが一つだけ。
『ウィル! ウィル! すっごいよ、この子!!』
『フェアリー1。作戦中は僕のことはレギーナ1って呼んでってあれほど……』
『うんうん! 分かってるって! ほらほら行っくよぉ!』
『ほんとかなぁ?』
そして先頭を進む
その速さは速度性能に特化した
その時、先頭にいたパイロットは見てしまう。
レーダーに映っていた騎体はひとつのはずなのに、実際は二騎の
『うりうり! ウィルは着いてこれるかな?』
『くっ、うわっ! めちゃ、くちゃだよ、フェアリー1!!』
前方の敵の大群へと飛び込んでいた二騎は、真っ直ぐに、真横に、ジグザグに、真上に、そして弧を描いて、複雑に飛び回った。
それでも二騎は全く離れる様子がなく、時に向かい合って、時に背中を合わせて両腕に内蔵されているビーム砲を乱射し、そこから伸びる光刃で敵を切り裂いていく。
通信モニターに映っている二騎のパイロットのうち一人は輝くような亜麻色の髪の毛の小柄な女性だった。
闇色の
そして、もう一人のパイロットは艶のある漆黒の髪の毛の細身の男性だった。
白銀の
彼女達が通り過ぎたあとは、破壊された敵で宇宙空間が埋め尽くされていた。
レーダーからも敵を示す赤い光点が異常な速度で減っていっている。
「フェアリー2より大隊各騎へ。
先頭の
すると、すぐに後ろの
止まった隊員達の目の前で二騎の
そこで思い出したかのように後方へと宙返りしながら、こちらへと戻ってくる。
『フェアリー2! 皆さんも大丈夫ですか?』
自分達と同じ系統色の闇色の機体が目の前に止まる。
通信モニターには亜麻色の髪の毛の女性が映っていた。
女性と言うには顔のパーツが全体的に少し幼い感じがする。
目がクリっと大きい、少女のような女性がそこには映っていた。
「はっ! こちらフェアリー大隊は全騎健在です! フェアリー1、いえアルマ隊長もご健在で何よりです。……それでそちらさんは……」
フェアリー2と呼ばれたパイロットは返答すると、視線を横に向ける。
そこには黒髪の、異様に顔が整った男性が気まずそうに目を泳がせていた。
『うん? あっ、この人は学校の同級生で、私のライバル兼親友のウィルです! モップフェル? だっけ? ウィル』
少女のような女性、アルマは『にぱっ』と笑うと僚騎の男性を紹介してくる。
『ロックウェルだ。私はウィリアム・ロックウェル……少佐だ』
若干気まずそうに男性、ウィリアムが答える。
「さ、さようです、か……」
しかし、フェアリー2と呼ばれたパイロットはウィリアム・ロックウェルと紹介された男性に非常に心当たりがあった。
フェアリー2だけでは無い。
部隊の全員が汗をたらしながら「へ、へぇ~」と動揺している。
『たまたまさっき会えたんです! いやぁ、士官学校卒業以来だったからさ。すっごく嬉しいよ! ねっ、ウィル』
『そう……だね。僕も嬉しいよ、アルマ』
そんなウィリアムとパイロット達の異変に気づかないまま、アルマは笑顔でウィリアムに語りかける。
ウィリアムもアルマの言葉に目元を緩めて、笑顔で応じる。
『さて、そろそろ行ってきます! みんなも無茶したらダメですからね? 危なくなったらきちんと退いてくださいよ?』
そう言って、アルマがフットペダルを踏み込むと、彼女の騎体はクルッと反対に体を向けた。
ウィリアムの騎体も寸分の誤差なく同じ動作をする。
そして、二人の騎体の背中と腰のスラスターからまばゆい光が漏れだしてくる。
『行こう! ウィル!! もっともっともっと! どんどん先に!』
『フェア……ううん、アルマ。大丈夫だよ、僕もついて行くから!』
二人は同じタイミングでフットペダルを限界まで踏み込んだ。
その瞬間、爆発的な推進力が二騎のスラスターから生まれ、
彼女達が向かう先には遠くからでもその大きさがわかる、要塞のような巨大な敵が存在していた。
彼女達はその敵に向かって行った。
「ははは……総員傾注! これからの俺達の仕事はフェアリー1の、隊長達の帰り道の確保だ!」
フェアリー2と呼ばれたパイロットは乾いた笑いをあげてそう言うと、頭上に右腕のマシンガンを無造作に掲げる。
ガガガガッ!!
そして、発砲。
頭部を上に向けることなく、頭上から飛び込んできていた小型の敵を撃破した。
「それにしても……」
そこでパイロットの男はヘルメット脱ぎ捨てると眉根をしかめて肩をすくめて苦笑いをする。
「アルマ隊長は、なんでアレに気づかねぇのかね?」
すると、他のパイロット達からも次々と声が挙がる。
「……もう一騎に乗ってたのって、ぜってぇ近衛艦隊司令官の皇子様だったっすよね!?」
「確かに。髪色が違うだけであんなにキレイな男の子なんて、ワタシは見た事ないわよ♪」
「皇子様と同級生でライバルってなんなんだよ、マジで」
「同級生って言っても皇子様相手にあんな言葉遣い……あーしにもムリだ」
この作戦が始まる前、戦場にある全ての通信モニターに映った、『氷の貴公子』と呼ばれているアイスブルーの髪色をした皇子、ウィリアム・アルグレン中将の顔を全員が思い出す。
目鼻が異常に整った、神が造り上げたとしか思えない程の綺麗な顔。
ウィリアム・ロックウェルと名乗った男性は髪色と苗字は違っていたが、それ以外は声すらも皇子と一緒だったのだ。
「まぁ、皇子様も髪の色変えてんだ。なんか訳があるんだろ……それにしても、ククッ」
「めちゃくちゃ皇子様を振り回してたっすね!」
「さすがは我らの隊長ちゃんだぜ! マジで!!」
「それと気づいてた? ウィリアム様……隊長ちゃんに恋をしてる目を向けてたわよ! きゃぁぁぁ! 素敵!!」
「……いいな、アルマ隊長。……あーしだって、いつかきっと(ボソッ)」
さすが隊長!
俺達の出来ない事を平然とやってのけちまう!!
そこにシビれる憧れるぅ!
キャッキャッ、ウフフと騒がしくなるパイロット達。
命のやり取りをする戦場の中にあってそこだけ空気が変わっていた。
しかし、フェアリー2と呼ばれたパイロットの次の声で、その空気も霧散してしまう。
「さて、野郎ども。敵さんのおかわりが到着したようだぜ」
各パイロット達がそれぞれの
その様子を見ていたパイロット達にフェアリー2の叫び声が響く。
「フェアリー2よりフェアリー大隊全騎へ!
「「「「「「応っ!!」」」」」」
通信はパイロット達の声があまりにも大きく、すぐに音が割れていた。
「隊長はあぁ言ったがよ……今から全員、ここから退くことは俺が絶対に許さねぇ!」
「「「「「「応っ!!」」」」」」
それでも、フェアリー2と大隊のパイロット達は声の出る限り、叫びをあげる。
「盾を掲げろ! 武器を構えろ! 俺達は最強の
各
「大隊全騎、行動を開始せよ!!!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
そして背中から青白い炎の尾を引きながら、敵の集団へと向かって彼らは突き進んでいった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
これは、恒星系と恒星系をまたぐ巨大な星系国家『帝国』の辺境の、更に片隅で起こった小さな事件。
しかし、この小さな事件をきっかけに運命の歯車は無情にも再び動き出す。
後に『帝国』を揺るがす大事件へと発展する序章の物語は、
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