林檎

イデア

第1話 プロローグ

 禁断の果実は、どんな味がするのだろう…


 太平洋戦争の最中、死体を踏み踏み歩く状況下でも、人は、一生に一度の恋をする。太古の昔から流れる血なのか…そうして、脈々と命のバトンは、続くのである。

 

 秋の味覚が美味しい季節。北陸では、夜に雪がチラつくつく日も珍しくないそうだ。そんなこと関東育ちの愛子は、知らない。でも、周囲の人間は、予測済みだった。

  

 命ガラガラ、8カ月の腹を抱えて、吹雪いてきた山を降りて来た…


 手や足からは、出血している。枯れ枝で作った右腕の傷は、かなり深く、腕の内側から、タラーっと血が流れていた。いつの間にか、片方の草履もどこかにいってしまい、もう片方の足からも出血していた。顔も枝を払いながら歩いたが、傷だらけで、髪も着物も乱れていた。もう、あちこち痛すぎて、どこが痛いのかもよくわからない…ただただ、8カ月の腹だけを守り、山を降りた…

 

 

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