第3話 開拓者ギルドへようこそ



 一応は行きたくないという意思表示はしたのだが、残念ながらそれは却下されてしまった。

 審査はチームメンバー全てに行われるということで、俺もその場にいる必要があるらしい。

 どうしたものか……



「なんでそんなに乗り気じゃないのよ?」


「……」



 街に着くなり表情の硬くなった俺に対し、シャルが怪訝そうな顔で尋ねてくる。

 俺は一瞬それに答えるか逡巡したものの、結局は無言でやり過ごすことにした。



「……まあ、言いたくないならいいけど」



 シャルには少し悪い気もしたが、俺にも年上の見栄というか、男の見栄みたいなものはあるので、どうか勘弁してほしい。





 ほとんど会話もないまま、目的地であるギルドの支部に辿り着く。

 シャルは気にせず中に入っていくが、俺の足取りは重い。

 それでも結局入らなければならないことは変わりないので、シャルから少し遅れてギルド内へ入った。



『開拓者ギルドへようこそ!』



 ギルド内に入ると、早速受付嬢たちが笑顔で挨拶をしてくる。

 彼女たちは皆美人で、華やかであり、俺はそれがどうにも苦手であった。



「ただいま7番の窓口が空いてますので、そちらをご利用ください」



 入口の傍で控えていた、これまた美人なギルド職員がにこやかに案内してくる。



「ありがと」



 シャルはそれに軽く礼を言い、さっさと7番窓口の方へ歩いて行ってしまう。

 俺は案内員に軽く会釈をし、慌ててそれを追った。

 ギルド内はそこまで混んでるワケではなかったので、はぐれる心配はないのだが、少しでも一人でいるとここの職員はすぐに声をかけてくるので、それを避けたかったのである。



「これはシャルさん、お久しぶりですね」


「久しぶりね、エリザ。半年ぶりくらいかしら?」



 二人は互いに親しみを感じる素振りで挨拶を交わす。

 シャルは開拓者になって3年経つハズなので、ギルド職員ともそれなりの関係を築いているようだ。



「そちらはシャルさんのパートナーのマリウスさんですね。私はここで受付を担当しているエリザと申します。宜しくお願いしますね」


「あ、ああ、その、宜しく」



 俺は目線を合わせず、最低限の挨拶だけして黙り込む。

 その様子をいぶかしんだのか、シャルがジロジロと俺の顔を覗き込んでくる。



「……アンタ、ひょっとして」



 シャルはそう呟いたと思ったら、俺の手を強引に引っ張る。

 そして同時にエリザの手を引き、手と手を触れ合わせた。



「っ!?」



 柔らかですべすべとした感触が手に伝わり、俺の顔が急激に熱くなる。



「な、なにをする!?」


「なにって、別にただ手と手を触れさせただけでしょ。アンタこそ、なにそんなに過剰に反応してるのよ?」



 シャルがニヤニヤと笑いながら尋ねてくる。

 これはもう、誤魔化せないか……



「……慣れていないんだ、こういうのは」


「元軍人だからってこと? 私的にはむしろ遊んでるイメージの方が強いんだけど」



 確かに、同僚にはそんなヤツも多くいた。

 休日のナンパや、その手の店に通うことが生きがいと言っているヤツも少なくなかった。

 しかし俺は、ガキの頃から軍にいた関係で暫くそういった施設からは遠ざけられて育ったのである。

 俺の周りの女性は怖い上官や同僚ばかりで、逆に華やかで女性らしい女性との接触はほとんどなかった。

 結果として、俺は女性と接することが苦手になってしまったのだ。



「そういう奴らもいたが、俺は軍務だけで手いっぱいだったからな」



 これも嘘ではない。

 若くして中尉となった俺は、やることも覚えることも多くプライベートな時間はほとんどなかった。



「ふーん。まぁ、とにかくアンタがギルドに来たがらなかったワケがわかったわ。ここは女だらけだものね」



 以前シャルと一緒にここに来るまでは知らなかったことだが、ギルドは何故かやたらと女性職員の割合が高い。

 いや、割合が高いどころか、見える範囲では女しかいない。

 男がいないなんてことはないと思うが、確実に割合は低いと思われる。

 軍人とは真逆の割合だ。一体何故なのだろうか?



「……なんで職員が女性ばかりなんだ?」


「そんなの、開拓者に男が多いからに決まっているでしょ」



 ……俺の感覚的にはあまりピンとこないが、言わんとすることはわかった気がする。

 つまり、女という餌で男を釣っているということなのだろう。



「ギルドの受付は、普通の企業の受付と違って”顔”って意味はないけど、それでもやっぱりキレイどころを用意してるわ。その方が男のモチベーションが上がるんでしょうけど、本当男って単純よね!」



 俺も同じ男だが、シャルの言っていることには概ね同意である。

 男には、女のためであれば何でもするようなヤツが一定数いる。単純というより病的レベルでだ。

 そこまでして女にモテたいのかと理解に苦しむが、こればかりは俺が異端なのかもしれない。



「……あれ? でもちょっと待って、なんで私は平気なのよ?」


「それはシャルがまだ子ど……、若いから平気なだけだ」


「なっ!? アンタ1年近くチーム組んでるのに、まだ私のこと子どもだと思ってるの!? 許せない!」



 シャルは初めて出会ったときと同じジャンピング頭突きを仕掛けてくるが、視界に捉えてさえいれば防ぐのは容易だ。



「……ともかく、事情はわかったろ。済まんが、やり取りはシャルの方で頼む」


「それはいいけど、審査は面接もあるからね? それも、チームだろうが関係なく個人個人行われるから、そこは覚悟しなさいよ?」



 なん……、だと……




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