第2話 魔法世界その1
「ついた、ついたー!」
明らかに日本ではないし、風はぬるく、湿度が高い。赤道付近だろうか、大学生の頃に行った東南アジアを感じさせる風土だった。
「ここは……?」
「僕が生まれた世界だよ。まぁ、両親は僕が小さい頃に死んじゃったらしいし、親族はいないんだけどね」
その言葉に私が
「別にそれはこの世界では普通のことだよ、
まるで私の心を読まれているかのようだった。
確かに、私のいた世界だって五百年も
「この世界に来たのはね、ボクを親代わりに育ててくれたお
「親代わりのお師匠様っていうのは、絵を描くお師匠様?」
「残念、僕の絵はオリジナル。僕には魔法のお師匠様しかいないよ」
魔法のお師匠様って一体どんなことを教えてもらうんだろ……。
私も子供の頃に習字をおじいちゃんに習っていて、お師匠様っていう感じだったけど、そんなのとはきっと全然違うんだろうな。
「うーん、魔法って一人一つしか持てないんだよね。でも、僕が持っている魔法とお師匠様が持っている魔法は全く違うから、
習字の先生にボールペン字を習っていたって感じなのかな。
それなら確かにジャンルが違ってもお師匠様って言うのもわかる気がする。
「そもそも魔法っていう言い方もこの世界での言い方なだけで、別の世界では超能力とか
「よくわからないけど、そうなんだ」
本当によくわかっていない。
というより、私は崖に落とされる直前から何もわかっていないと言っても
唯一わかっているのは、昴くんにプロポーズされて、それに私が
追加で言うなら、少なからずお互いに好意があることくらいだろうか。
「それじゃあ行こうか、歩いて大体一ヶ月くらいかなぁ」
「い、一ヶ月!? ご飯とか泊まる所とかはどうするの!?」
「あぁ、僕たちは幽霊だからご飯もいらないし、トイレにも行かないし、夜は眠れないし、身体の疲れもないよ。だから一日中ずっと歩き続ければいいだけだよ」
「そ、そうなの……?」
「そうだよ」
昴くんは嘘をつかない。嘘をつかない……。
嘘――だと良かったなぁ……。
簡単に計算しただけでも、東京から中国の
東が北に変わっただけだから大したことないと思うしかないかなぁ……。
「じゃあ、行こうか」
「う、うん……!」
◇ ◇ ◇
本当に一ヶ月近く歩いた頃、ちょうど昼過ぎくらいに一つの村へ着いた。
「ここ、ここ! 懐かしいなぁ、ここが僕が育った村なんだ。ヨカヨカ村って言うんだけど、凄く良い村って意味でね――」
「……ふぅ」
思わず
いや、肉体的には疲れていない。でも、何故か疲れている。
これが昴くんの言っていた精神が疲れるっていう状態なんだろうか……。
一ヶ月間ずっと似たような景色を見ながらひたすら歩き、やることは昴くんと会話するだけ。
別に昴くんと会話するのが退屈だったというわけではない。
実際に道中にある植物や動物なんかを説明してくれたり、立ち寄った村の紹介なんかをしてくれたりした。
ただ、
昴くんが私の家に来てからの一ヶ月は仕事があったからあっという間だったけど、この並行世界に来てから
だからだろうか、村に着いて緊張感が解けた瞬間に、一気に
「ど、どうしたの!? 黒江ちゃん!?」
「ごめんね、昴くん。ちょっと疲れちゃったみたいで……」
笑顔で村の紹介をしていた昴くんが、青ざめた顔で私のもとへ飛んできた。
「だ、大丈夫!? ごめん! 僕、全然気が付かなくて……!!」
「うん、大丈夫だから、気にしないで」
「気にするよ! 僕が黒江ちゃんの世界で倒れていたみたいに、精神が疲れるっていうのは僕たち幽霊には
こんなに
少なくとも、彼にとって私という存在はそれだけ大きいのだろう。
ありがたい話ではある。
自分を大事にされないっていうのが当たり前だったから、人に大事にされるということにはなかなか慣れない。
私は昴くんに大事にされているんだ。物凄く今更かもしれない。
彼に聞くまでもなくわかる、これは嘘じゃない。
「私の方こそごめんね。次からは
「絶対に言って! 二人で生きていくって言ったでしょ! 幽霊だけど!」
そうだった、これは
二人が共に歩んでいくための最初の一歩。
……でも、一歩目にしては少し距離が長い気がしないでもないけど。
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