僕の心を奪ったのは、獰猛な笑顔の女性だった。

執事

第1話

「カブトムシ、捕まえた」


 何処にでもいる拗らせた小学生、神谷司は虫取り網の虫を見て薄く微笑んでいた。

 感情が顔に出にくい彼も、大好きな虫取りをしている時は少しだけ表情筋が緩む。

 捕まえたカブトムシを虫かごの中に入れると、後ろからパチパチという音が聞こえてきた。


「おっ、デカイの取れてるじゃん。ちょっと見せてくんない?」


 拍手をしながらニヤリと笑うのは年上の少女、高校生である三鷹優子だ。

 司が少女について知っている事はあまり多くはない、山奥にあるこの村で一番大きな家の長女で粗雑な言動が目立つという噂を聞くくらいだ。

 

「良いですよ、蓋は開けないで下さいね」

「言われなくてもわかってんよ」

「貴方には前科がありますので」


 昨日僕のてんとう虫どっかに逃したばかりでしょう、と付け加えて虫かごを渡す。

 三鷹はキラキラした目でカブトムシを眺め、ツノの長さに感動しておーと声を出していた

 

「本当に、貴方は感情表現が上手い」

「ん?なんか言った?」

「いえ、何も」


 ロボットなどと揶揄される僕としては、貴方のように自然に喜怒哀楽を表情に出せれば良かったのですが、そう思いながら司は三鷹について考えていた。

 近頃流行りの一対一系ラブコメ少年マンガ、又は読み切りなどには暑い夏に出会った美しいお姉さんに恋をする少年が存在する。

 彼女に初めて会った時は自分がそうなってしまうのではないかと一瞬思ったものの、三鷹の言動から直ぐに僕は彼女をそういう対象としては見れなくなっていた。

 その事に、ひどく安心している自分がいた。


「しっかしオマエってカブトムシ見つけるのマジで上手いよなぁ、俺全然取れなくてさぁ、コツとかあんの?」

「おや、貴方も虫取りするのですか?意外ですね」

「……あ、いや⁉︎別に虫取りとかしねーし⁉︎昔の話だよ昔の話!」

「そうですか」


 彼女は司と共に虫取りをしているわけではない、あくまで『森の奥まで来てるクソガキを見守る監督役』という立場に徹底している。

 そもそも三鷹との出会いは一週間前、とある事情から森の奥に行こうとしている司に三鷹が声をかけたのがキッカケだった。

 『そこから先はあぶねーから、行くなら俺はついてくよ。暇だし』と言った旨の事を言われた記憶がある。

 それから何やかんやで一週間以上も彼女は監督役を務め、今日に至る。

 あまり人間が好きじゃない自分が何故三鷹の言葉に頷いたのかわからないと司は一瞬思ったが、どうでもいいかと思い思考を辞めた。

 三鷹は虫取りをしているかどうかにもこれ以上言及はしない、明らかにやっている風ではあったが気づいていないフリをする、他人のパーソナルスペースに無闇に入ろうとする程愚かな事はない。

 自分はそこらのクソガキとは違うのだ。

 誰にだって隠したい事の一つや二つは存在する、それは司だって同じだ。


「そういえばさ、ここに来るまでの間にオマエと同じくらいの歳の連中が虫取り網持って集まってんの見たんだよ」


 司達はこの森の奥で現地集合、何故危ない場所でこのような合流方法を取るのかは疑問だが、問い詰める程ではない。

 

「それなら僕も見ました、十人くらいいましたね。それが何か?」


 こんな田舎にもなると、学年の人数が十人を下回る事も珍しくはない。

 神谷司が所属する小学四年は五人しか居らず、司を除いた四人でグループが結成されている。

 断じていじめでハブられているのでは無い、むしろ無干渉は司の望む所だ。

 その四人と他学年の人間が一緒になって虫取りをしているのだろう。

 そこまで考えてふと司は疑問に思う、何故干渉を嫌う自分が三鷹と一緒にいるんだろうと。

 まぁ、どうでもいい事か。


「いやさ、なんであっちに混じんないのかなって。俺話した友達いねぇからなんとも言えないけど、どうせ虫取りするなら人数が多い方が楽しくね?」

「彼らと友達じゃないだけですよ……僕としては貴方に友達がいない方が驚きなのですが」


 三鷹はそう言うが、司はそうは思わなかった。

 この一週間でも身に染みる程三鷹の優しさや人当たりの良さは分かっていた、いくらこの村に人間が少ないとはいえ、彼女に友達が出来ない訳がない。

 他人の事情に首を突っ込まないという心情も忘れて思わず聞いてしまった。

 それくらい、驚いた。


「そうか?こんな粗雑な女に友達なんて出来る訳がねぇだろ?」


 司は一年前まで東京の学校にいた、そこでは友達もいたしクラスの雰囲気というものはなんとなく分かっていた。

 高校の事はあまりわからないが、三鷹程親しみやすいく一緒にいて楽しい人間だと言うのなら、たちまち人気者になれるだろう。

 そこで彼は気付く、あまりに遅れて彼は自覚する。

 あぁ、僕が三鷹と一緒にいるのはただ楽しかったから。

 それだけなんだと。


「まぁ他にも俺が三鷹家の爪弾き者で次期家長の弟にも嫌われてるからってのもあると思うし、どちらかっつうとこっちの方が本命だろうが……どうした?顔赤いぞ?」

「いえ、なんでもありません」


 恥ずかしい、人間嫌いを自称している自分のような人間がこんな感情を知らず知らずに抱いていた事がなんとも羞恥心を煽るのだ。

 これが最初から自覚した上ので行動ならばダメージは少なかっただろう、しかし彼は自らの感情に気づかないまま三鷹と一緒に時間を過ごしてしまった。

 年頃の少年であり頭がいいため同年代の他者を見下す傾向にある彼にとって、自分の感情すらわからなかったというのは致命的な失敗なのだ。


「それより、爪弾き者というのはどういうことですか?それに三鷹家は男女問わず年長の者が継ぐのは掟だと聞きますが」


 話を逸らす、顔の赤さからこの羞恥に気づかれてはたまったものではない。

 他者の事情を追求しないという理想は、既に頭の中になかった。

 そもそも彼は自らの過去を詮索されるのが嫌なだけ、虫取りの件を追求しなかったのは『自分がやられて嫌なことは他人にもしない方がいい』という親の教えを守っていただけだ。

 それも道徳観からではなく、その方が同年代の人間より大人びて見えるからという理由で。


「三鷹家の人間なら確かに継げるだろうよ、三鷹家の人間ならな」

「……妾の子とか?」

「妾?昭和かよいやまぁこの村が昭和みたいな雰囲気なのは否定できねぇが。確かに俺の中には三鷹の血が流れてるが、どうやら問題は生まれ以前だったらしい」


 まぁ詳しく話す気はねーよ、そう言い残して彼女は口を閉じた。

 そこでようやく司は気づいた、出生関連の話など出会って一週間の人間に話すようなものでないと。

 

「……ごめんなさい」

「ん?オマエなんかしたっけ」

「妾の子とか、家庭の事情とか、デリカシーのない事を聞き過ぎました」

「別に気にしてねぇし謝んなよ、中途半端に匂わせた俺の方が悪いだろこれは。それよりさ、いつもの場所行こうぜ」


 強引に話を切り替えて三鷹は司を手招いた、この空気が終わるならばそれでと司はそれに乗って、二人はいつもの場所へと向かっていった。

 いつもの場所といっても、まだ一週間しかそこへは行っていないのだが、すっかりお馴染みの場所という風になっている。

 森の奥、そこにあるのは太さは屋久島の縄文杉を遥かに超える大木、高さは七十メートルを超えているように見える。

 正確な測定はした事ないのでわからないが、恐らく日本一の巨木はこの木だろう。

 そう司は思っているのだが、何故これが未だにニュースで放映されたり、バラエティで特集組まれたり、植物学者が研究に来たり、とにかくそんな風注目されていないかは疑問に思っている。

 そもそも村で一切話題に上がらない事自体不思議である。

 まあ、それこそどうでもいい事だ。

 重要なのは自分たちがこの巨木を独占できるという事実、それだけだ。


「クハッ、やっぱここはいつ見ても規格外だな!」

「どうしたんですかそんな急に週間少年パンプの悪役みたいな笑い方して」


 神谷司は週間少年パンプの愛読者である、もちろん電子派だ。

 京都県の僻地の田舎、そんな場所に毎週水曜日発売のパンプが日程通り届くはずが無い。

 たいていの場合一日遅れのパンプを水曜日に読むために、毎週SNSで新鮮な感想を摂取するために、彼は月のお小遣いの半分以上を費やし電子派となったのだ。


「いやぁテンションあがっちゃってさ」

「ここ一週間毎日来てるでしょうに」

「美人は三日で飽きないのさ、大地の力を感じる最高の木も同様」

「例え、下手」

「うぐっ、まぁでもオマエだってこれ程デカイ木は見たことねぇだろ?例えるならマリリンモンローだぜ」

「誰ですかそれは」


 会って一週間のの相手に辛辣ツッコミをするのはどうかと思われるが、二人とも楽しそうなので良いのだろう。

 さっきの空気は何処へ行ったのか、和気藹々としたムードが漂っていた。

 大樹の下には誰が作ったのかログハウスが存在している、二人はそこに入って休憩していた。

 『不法侵入?知らん』の精神を持つ二人にとって怖いものはないのだ。

 まあ司の方はさびれ具合から見て今は使われていないだろうと当たりをつけていたが。


「どうする?トランプでもするか?一応持ってきてるぜ」

「八並べでもやります?」

「んー、賭けポーカーもいいけどまずはそれでいいか。時間は沢山ある」


 八並べとはまずトランプの八を四枚並べて、そこから左右に順々に並べていくゲームだ。

 何故か三鷹は初めに七を並べようとしていた、暑さで脳がやられていたのだろうか。

 三鷹と一緒に過ごす時間の心地良さを知った司にとって、なんのゲームをやるかは重要ではない。

 その間の雑談こそが求めている物なのだ。

 二人だけなのでスムーズに八並べは終了し、二人は一旦遊びを辞めた。


「そういえばさ、オマエも少年漫画読むんだな。意外だったよ」

「そうですか?」

「なんか少年誌とか読んでる奴見下して堅苦しい小説読んでるイメージだったよ」

「僕の印象どうなってるんです?」


 心外である。

 神谷司はどちらかと言えば昭和文学などを好まず、今の流行りを追う人間だ。

 同学年をナチュラルに見下している彼は気づかない、自分が達観している風を装っているとバレている事に気づかない。

 

「……しかし、貴方も少年漫画を読むんですね。そちらの方が意外です」

「そうか?……っつてもまだ会って一週間か。漫画の話したこともねぇしそんなもんか」


 その後少し漫画に関する話をして、また明日改めて好きな漫画を語り合おうという事になった。

 時間も遅くなってきたし、最後にポーカーだけして帰ろうということで。


「クックック。俺の手札は過去最上で過去最強、レイズだ!」

「コール、いいんですか?貴方の手がいくら強かろうと僕には勝てませんよ」

「ハッ、俺は週間少年ジャンプの愛読者だぜ?カードとの友情、オマエの倍以上人生を生きてたという努力、そして今掴み取る勝利!さぁこい!コール!」

「……ロイヤルストレートフラッシュ、僕の勝ちです」

「嘘だろ?」


三鷹の手もかなり強いものだったが、司の豪運の方が一枚上手だった。

 奇跡とも言える確率の果て、たった数ターンで最強の手札を揃えた司、ご満悦な表情で席を立った。


「僕の勝ちということで……そろそろ帰りますか?」

「まぁそうだな、俺も門限がある。途中まで一緒に帰るか?」

「もちろん」


 最後に大樹を見上げて騒いで、そして二人は帰路へついた。

 ロイヤルストレートフラッシュを叩き出しテンションが上がっていた司に対し、三鷹は少し躊躇いながら問いかけた。


「あー、なんだ。俺みたいなやつと一緒にいて楽しいか?」

「なんですか急に」

「なんか、ふと不安になってきて」

「なにかあったんです?僕でいいなら聞きますよ」


 普段の司なら此処で適当な言葉を並べてスルーしていた、だというのに何故か今日は。


「……俺さ、嫌われ者なんだよね。数年前に家業の方でちょっとやらかして村中から嫌われてんだ」

「それは……知りませんでした」


 とある事情で司が引越して来たのは一年前の事であり、それほど前のことは知らない。

 するわけがない。

 真剣な目で虚空を見つめている三鷹の話、それを司は聞いていた。

 彼は真剣には真剣で返すなどお世辞でも言わないような人間だが、この時ばかりは別だった。

 一年間家族以外の人間と接していなかった少年にとって、人当たりのいい女子高生との交流は、思った以上に刺激となり救いとなっていたのだ。

 それがたとえ、まだ一週間しか経っていなくても。


「それに加えてこの性格だろ?……俺は試したかったんだ。何も知らないオマエと一緒にいて、それで嫌われないかどうか」

「証明、したかったんですか」

「あぁ、そうだ。俺が嫌われてんのは失敗のせいだけで、別に俺自身は特別人に嫌われるような人間じゃないって、そう思いたかったんだ。まぁ、オマエとの時間を楽しんでたのは事実だけどな」

「……僕は貴方の事好きですよ」

「そっか、ありがとな。でも今度は俺が俺を嫌いになりそうだ。あまりに浅ましい動機でオマエに近づいて、許されようとこんな話をしてるんだから」


 司は三鷹の方を見てはいない、彼らは並んで歩いているため互いの顔は見ていないのだ。

 だけど、声は聞こえる。

 いつもとは違う涙ぐんだ声が。


「やっぱさ、明日から俺来ないことにするよ。別にあの場所は危なくない、むしろ神樹があるから安全だ。嘘ついてゴメンなl


 正直、なんと答えればいいのか司にはわからなかった。

 だけど、彼はこれからも彼女と遊びたいと思っていた。

 だから、彼は。


「三鷹さん、誰にも言えないって約束できます?」

「……なんだかわからないけど、いいぜ」


 母からいつも言われていた、誰にも言うなと。

 これは軽率な行いなのであろう、バレて仕舞えばもうこの村に居れなくなってしまう。

 いくら大人ぶってても、いくら達観している風に振る舞っていても、彼はまだ小学生なのだ。

 この人なら信じられる、この人なら約束を守ってくれる、そんな楽観に身を包んで。

 シンジュという耳なれないキーワードにも気づかないまま。


「僕の父さん、人を殺したんだ。それもとてもとても偉くてみんなから慕われてる人を」


 何も言わずに、彼女は話を聞いていた。


「そのせいで毎日家にゴミ投げ込まれたし、なんなら殺され掛けたりもした」


 普通の殺人ならばこうはならなかっただろう。

 しかし今回の殺害相手は東日本国の実質の統治者、相手が悪かった。

 すぐさまネットに犯人とその家族の写真は拡散された

 行き場のない正義感のサンドバック、やり場のない鬱憤晴らし、司の家は追い詰められていた。


「だからさ、東から逃げて西の中でも僕らを知らないようなド田舎に逃げてきたんだ。母さんとかは顔も名前も変えてる。僕は眼鏡をかけた」


 誰にもバレたくなかった、だから人との関わりを絶った。


「そんな僕に、もう友達はいない。貴方だけしか喋る人がいないんです」


 心からの本音だった。

 貴方と一緒にいたい、貴方と一緒に遊びたい、ただそれだけの感情。

 秘密を話す程貴方の事を信頼しているんです、貴方にだけは言えるんです、必死の叫びだった。


「ねぇ三鷹さん、僕の事は嫌いですか」

「嫌い……じゃないな。むしろ一睡にいて楽しい」

「ならいいじゃないですか、明日も一緒に遊びましょうよ。貴方の失敗がなんであっても、きっと僕は嫌いになりませんよ」


 少し間が空いて、怯える司に対して三鷹は語りかけた。


「……なんかさ、不思議な気分なんだよ。それ、大事な秘密なんだろ?言っちゃいけないやつなんだろ?」

「えぇ、バレたら命すら危ういの出」

「俺ってさ、三鷹家からも村の連中からも信頼の目なんて向けられたことが無いんだ。だから、初めてそんな信頼の感情を向けられて戸惑ってる」

「貴方ほど信じられる人間なんてそうはいないのに、村の人間は何を考えてるんですかね」

「過大評価さ……俺も話すよ、秘密。聞きっぱなしじゃ嫌だからさ、聞いてくれるか?」

「えぇ、是非」


 彼女は立ち止まって、夕焼けの下で司の目を見た。


「俺、男なんだ」


 何が来ても受け止めると覚悟はしていたものの、それでもその言葉は衝撃的だった。


「それは……LGBTQのTに値する……?」

「いや、もっと珍しくてオカルトなもんさ。生まれ変わりって信じるか?最近ラノベとか出多いあれだよ」

「前世が、男だったんですか……?」


 そこまで言われれば司にも察しはついた、彼もよくサブカルを嗜む故に予測はできた。


「そう、どこにでも居るチューボーの俺は違う世界に生まれ変わって女になった。それでも心は男のまま、それだけの話さ」


 哀愁漂わせながら三鷹は空を見上げた、真っ赤な空にカラスが鳴いている。

 少し戸惑ったものの、司の答えはすぐに出てきた。


「だから、あの時虫取りに興味ないフリしてたんですか?」

「え?…………あぁ、そうだな。本当はオマエと一緒にカブトムシヲ探したかったが、爪弾き者とはいえ女子高生が虫取りってのもこの村じゃアレなんだよ。『女たるもの〜』って感じでそういうのは好まれない。ただでさえ嫌われてんだ。これ以上は、な」


 返答が予想外だったのか、三鷹は一瞬固まってしまった。

 けれどもすぐに調子を取り戻すと、彼女は薄く微笑みながら会話を続けた。


「なら!明日二人で虫取りしましょうよ!二人だけで!秘密の虫取り!絶対楽しいですよ!」


 大きな声で、司は叫ぶ。

 普段のクールに振る舞う様子はどこへ行ったのか、必死で三鷹ヲ繋ぎ止めている。


「……そんなに、俺と一緒にいたいのか?」

「もちろん!」

「……何故?」


 何故、未だにそんな事を言っている三鷹が司にとっては我慢ならなかった。


「僕は!貴方と一緒にいる時間が!大好きだからです!」

「……そうか」


 日は落ちていっている、逆光で三鷹がどんな表情をしているのかは見えない。

 それでも司は言いきった、自分の気持ちを全て言い切った。


「俺はこんな浅ましい俺が嫌いだ。でも、そんな俺をそこまで好いてくれるオマエなら……そこまで言ってくれるオマエが信じる俺なら少しは好きになれるかもしれない。だから」


 ザクザクと地面を踏みしめながら、一歩一歩三鷹は司に近づいた。


「明日、一緒に虫取りしていいか?」


 それを聞いた司は一瞬惚けたような顔をしたが、直後に破顔した。


「もちろん!」


 これ以上の話は彼らには不要だろう、オカルトも世界の真実も何もかも。

 TS転生者もゲーム世界も全ては不純物。

 

 彼らはこれからの夏、更にその先まで共に友として歩んで行った。

 困難があれど、何があろうと二人で乗り越えた。

 これは一つの友情が生まれた日。


 虫取りをする少年を笑いながら眺めるお姉さんの正体は、生まれ変わっても少年の心のままだった爪弾き者で、拗らせた人間二人が彼ら流の友情を見つけた。

 そう、彼女があの時微笑みながら見ていたのは、きっと自分も一緒に虫取りしたかったのだろう。

 これは、とある熱い夏の日のおはなし。

















 

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