燃えつきた私

@that-52912

第1話

この部屋の風景が誘いだす、精神的な錯乱がぼくを壊したり、燃やしたり、解体したりする。ジャズがなで回す。何を? ぼくの身体を。 コルトレーンのサックスは、蛇である。はいまわり、のたうつ。瑞々しい張りのある筋肉。ぼくの部屋を、ぼくの脳髄を、じざいに動き回る。毒と、夜。 午前3時だ。


「建築は風が立ったとき揺動するやうに思はれた その影はいくつもの素材に分離しながら濃淡をひいた 建築の内部には錘鉛を垂らした空洞があり そこを過ぎてゆく時間はいちやうに暗かった」吉本隆明 固有時との対話


まっすぐのようにも見え、また曲がりくねっている、というようにも見える。いつも当たり前に信じている自分の感覚が、どうにも怪しい。コンビニは、遥かに遠くである。こころの空洞を見つめていたら、どうにもやるせなくなった。ぼくは、分離してゆくんだ。こんな闇のなかで。ぼくは、燃やされるんだ。そうして、燃えかすだけになって、歩いて、徒歩で、コンビニまで。掌をみた。ただただ、暗いのであった。道路に転がる犬の死体がぼくを呼ぶ。


「こっちへ来いよ!」

走り出す、ぼく。

「あっ!」



自動車が、凄まじいスピードで、ぼくの肉体を切り裂き、刻み、そうして鮮やかな血液が舞う。 午前3時。 燃えつきた私。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

燃えつきた私 @that-52912

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る